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【日本ハム】大谷翔平という物語の第一章が完結した~文春野球コラム ペナントレース2017~ - えのきど いちろう

さようなら大谷翔平!

「4番ピッチャー大谷翔平」。ファイターズのスタメン発表に場内が沸騰した。ついに「エースで4番」解禁だ。2017年シーズン本拠地最終戦は、大谷翔平という物語の到達点であり、ひとつの終わりのようなシーンだった。思えば2012年暮れ、ところも同じこの札幌ドームで入団会見が開かれたのだ。そのとき栗山英樹監督は大谷の将来像を「エースで4番」と明言している。あのときは僕もあり得ないと思った。1シーズン挑戦してみて、どちらかしっくり来るほうに決めるのだろうと思った。栗山監督なくして「二刀流・大谷翔平」の実現はなかった。「4番ピッチャー大谷」は必然だ。

 栗山さんという監督がどれだけ柔軟な発想をする人か示すエピソードがある。前日、札幌ドームでは飯山裕志の引退試合が行われたのだ。ファイターズひと筋20年の職人は多くのファンから温かい拍手で送られた。その引退試合のプランを栗山さんは何パターンか用意していた。いちばんすごいのは「捕手や外野のリザーブも含め、全ポジションを経験したユーティリティの飯山に、イニングごとに(投手を除く)全ポジションを守らせる」だった。実現していたら「8刀流」だったろうか。

 本拠地最後のオリックス2連戦は「マンガを超える」2夜になっていたかもしれない。ただ飯山も面白い男だ。スタメン起用すら丁重に断った。最初は「打席もいらない」と言った。あくまで守備固めに入るという自分のスタイルを貫いたのだ。栗山ファイターズの魅力はこの振れ幅に集約されている。個性の輝きだ。「2刀流」と「職人」とその双方が自分自身を貫いている。

 大谷ラスト登板。いつの間にかそう呼ばれていた。もちろん大谷本人も球団サイドも何ひとつ明かしていない。が、一切が「ラスト登板」の方向で動いていた。恒例のHBCのテレビ欄タテ書きは「夢と感動をありがとう」「次は君が夢をかなえる番」だった(ちなみにこの日、札幌地区の平均視聴率は31.8%に達している)。番記者も皆、その既定路線で動いている。ファンの応援ボードも「大谷くんありがとう!」「レッツゴー翔平、夢の舞台へ!」みたいなことになっている。前日の飯山引退試合とは、またちょっと違うテンションだ。大声で「裕志〜」と叫ぶ感じではなく、皆、静かに見送りに来た。さようなら大谷翔平! さようなら僕たちの夢!

エースはボールで語る

 1回、先頭打者はT-岡田だった。初球は158キロのストレート。僕の座席は1塁側内野席のいちばん上のほうだったんだけど、皆、豆粒みたいな大谷をスマホで写真や動画におさめている。まぁ、大谷翔平vs金子千尋だ。球場の端っこよりテレビで見るほうが投球内容ははるかにわかる。派手な打ち合いにはなりようがない。でも、同じ空間にいたい。(たぶん)一代の英雄がそのストーリーの第一章を完結させるのだ。遠くからでも声援を送りたい。


豆粒みたいな大谷翔平 ©えのきどいちろう

 大谷は飛ばしていた。初回から158キロを連発、あっさり三者凡退でスタートを切る。そうしたらその裏は4番バッターの仕事が待っていた。2死2塁の得点機だ。これまでも登板試合でクリンアップを務めたことがある。が、4番は見え方が違った。自分で打って自分を助けるか、あるいは打てずに自分で耐えるか。「エースで4番」というのはそういうことだ。第1打席はファーストゴロで凡退。

 もちろん打てなかったら耐えるのだ。4回までパーフェクトに抑える。完全試合をやり遂げてしまうんじゃないかと思った。今季の登板のなかでずば抜けて内容がいい。ストレートが掛かったり暴れたりしないし、変化球も面白いようにコントロールされている。ていうか、そもそもこれだけ安定した立ち上がりを見せたのはキャリア全体でも稀だ。気持ちが入っている。投球に強い意思がある。

 4回裏、第2打席は火の出るような当たりをセンター前に返した。ファイターズは大谷のヒットを足掛かりに満塁をつくり、大田泰示の走者一掃2塁打で3点先制する。3点あればもう十分だった。少し緩んだのか、5回、6回とヒットを許し、四球もからんでランナーをためるが、ギアを上げて乗り切った。試合のテンポが速い。相手の金子千尋がいいからトントン進んで気持ちが切れない。

 その金子の投球を見ていて、大谷に話しかけてるようだと思った。エースはボールで語る。頑張れよと言っていた。お前はすごい奴だ、オレはお前がうらやましいよと。突然、あぁ、大谷翔平はもう日本にいなくなるんだと実感が湧いた。金子がこんなに澄み切った清流のような投球を見せている。大谷も呼応して純度が上がる。これはプロ野球の最高峰だ。


8回、T-岡田を空振り三振に仕留めた大谷翔平 ©時事通信社

ファンの夢のために存在していた試合

 それからもう一つ、あぁ、最後なんだなと思わせたシーンがあった。中田翔がファウルボールを追いかけ、エキサイトシートのフェンスに乗り上がったのだ。それも一度ならずだ。何としてもアウトをもぎ取って、きれいに送り出してやりたい。中田は純な男だ。これも会話に思えた。これまでありがとうなと中田は言っていた。

 スタンドのファンはランナーを出したりすると「がんばれ大谷〜」「がんばれがんばれ〜」と小学校の運動会みたいに声援を送る。3ボールをつくってしまうと(札幌ドームの名物なのだが)いっしょうけんめい拍手して励ます。大谷が160キロを出すような超越的な存在でもあんまり関係ないんだ。僕はそんな札幌のファンが大好きだ。がんばれ大谷、がんばれがんばれ大谷。

 で、気がついた。この試合は今季初めてファンのためだけに存在している。大谷登板試合はずっと本人の復調を見るためや、あるいは大リーグの「品評会」といった具合に、つまり何というか内向きの構造だった。それがこの最後の最後で、ついにファンの夢のために存在している。「エースで4番」だ。マンガを超えた現実が見られた。投球数を気にせず9回10奪三振完封だ。金子千尋攻略の口火を切るクリーンヒットだ。

「一日でも多く野球をやっていたい。一日一日を大事にしながら、今できないことをできるようになりたい」(試合後のコメント)

 僕も3万9千人強の観客のひとりとして、この日の大谷翔平を見つめた。豆粒大だったが、自分なりのお別れはできた。さようなら大谷翔平! さようなら僕たちの夢! ありがとう、最高にしびれた。


ありがとう、さようなら! ©えのきどいちろう

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/4461  でHITボタンを押してください。

(えのきど いちろう)

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