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シェアリング・エコノミーと社会――就労、生活、人間関係、そして持続可能性 / 穂鷹知美 / 異文化間コミュニケーション

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シノドス国際社会動向研究所(シノドス・ラボ)ではシリーズ「来たるべき市民社会のための研究紹介」にて、社会調査分析、市民社会の歴史と理論、政治動向分析、市民運動分析、地方自治の動向、高校生向け主権者教育、などの各領域において、「新しい市民社会」を築くためのヒントを提供してくれる研究を紹介していきます。

今回は、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住の穂鷹知美氏に、ドイツ語圏におけるシェアリング・エコノミーをめぐる議論をレポートしていただきました。

はじめに

近年、ドイツ語圏(ドイツ、スイスのドイツ語圏、オーストリア)では、「シェアリング・エコノミー」という言葉が、単なる新しいサービスや取引方法として注目されるだけでなく、デジタル時代のライフスタイルを象徴するキーワードにもなってきました。

他方で、シェアリング・エコノミーについて新たな可能性をみる肯定的な議論が一巡し、就労者や社会全般に及ぼすさまざまな影響を問題視する批判的な指摘も増えてきました。

今後、シェアリング・エコノミーによって社会はどう変わり、何がもたらされるのでしょうか。本稿では、最近のドイツ語圏での議論を追い、提起された問題や新たな視点をまとめながら、シェアリング・エコノミーの将来について若干の考察を加えてみたいと思います。

シェアリング・エコノミーを牽引する若者

最初に、リューネブルク大学教授ハインリヒスらの「シェアリング・エコノミー」という調査報告書(2012)をもとに、ドイツ語圏においてシェアリング・エコノミーがどのような人たちに、どのように支持されているのかを概観してみます(Heinrichs, et al, Sharing Economy)。

この調査は、シェアビジネスの大手企業Airbnbの依頼を受けて、アトランダムに選ばれた1000人以上のドイツ人を対象にして行われたもので、これによって、シェアリング・エコノミーに関わる人たちの意向や社会的背景が、はじめて明らかになりました。報告のなかで、筆者が興味深いと思った点を、以下にまとめてみます。

・調査対象者のうち55%の人は、シェアリング・エコノミーの経験(消費や住宅も含めた賃貸行動)があると回答しています。その内訳をみると、55%がフリーマーケット、52%がインターネットを通じて、個人から個人への物品の売買を経験したことがあり、29%の人は、車や自転車を賃貸したことがありました。民泊を利用あるいは提供したことがある人は全体の28%、庭や日曜大工で使う作業用具など普段はほとんど使わないものを賃借した経験がある人は25%でした。

画像1フリマ

・利用者は、14才から29歳の若い世代が圧倒的に多くなっています。デジタル世代と呼ばれるこの世代は、とりわけインターネットを介した売買や賃借行為に積極的で、25%がインターネットを介したシェアや利用をしたことがあると回答しています。ちなみにインターネットを介した利用者の割合は、40〜49歳の人の間では13%、60歳以上においては1%でした。

・年齢だけでなく、学歴や収入や価値観(世界観)などの社会的背景も、利用頻度と強い相関関係がありました。若者でかつ高学歴、高収入な人ほど、賃貸システムやインターネットでの売買の利用頻度が多く、また創造性や変化に富む生活を高く評価する人ほど、従来の所有や消費のあり方にこだわらず、シェアや賃借を頻繁に行う傾向がみられました。

・民泊を利用あるいは自身が提供する人においても同様の傾向がみられます。高学歴で、変化に富む生活に興味をもつ人ほど、利用頻度が高いという結果です。その人たちは、ほかの人に対して必ずしも社交的というわけではないものの、他人に対しての信頼は比較的高いという結果もでました。

利用者の圧倒的多数が、持続可能性や環境負荷を配慮すると回答もしていることから、ハインリヒス教授らは、シェアリング・エコノミーがもたらした新しい「協力的な消費kollaborativer Konsum」は一過性のものではなく、従来の個人の占有を前提とする経済市場を補充するものとして発達し、一つの流れとして定着するのではないかと推測しています。(Heinrichs, et al, S.19.)

シェアリング・エコノミーに投げかけられた疑問

この調査報告の発表から5年たった現在、シェアリング・エコノミーの市場規模もサービス分野もさらに広がってきましたが、引き起こされる問題や課題もまた鮮明になってきました。ドイツとスイスの主要なメディア報道から、問題点や危惧を以下まとめてみます。

就労に伴う問題

まず、マクロな経済の視点にたてば、既存の企業とシェアリング・エコノミーとの間に競争原理が働けば効率や生産性が一層高まると期待できますが、ホテルやタクシー、室内清掃など、シェアリング・エコノミーの市場が急速に拡大しているサービス業分野では、就労状況が全般に著しく悪化するのではという危惧が指摘されます。サービスが簡単にほかで代替されやすくなることで、際限なくサービスの代価が下がったり、いったん体調を崩すとそのまま切り捨てられるような過酷な就労環境になるのではという不安です。

シェアリング・エコノミーにおいて、サービス提供者は少なくともこれまで、個人事業者(フリーランス)という扱いで、通常の企業に就労する労働者が享受することができる社会保障は一切ありません。自分で働く時間を選べるかわりに、最低賃金の保障もありませんし、同業者が連帯する労働組合のようなものも今のところありません。

シェアリング・エコノミーをこれまでの就労規則に阻まれない自由な働き方や生き方と解釈することもできますが、労働者が150年来戦い勝ち取ってきた労働者の権利や保護する法律をすべて手放し、無力なフリーランスに押し戻されてもいいのか、とニューヨーク大学のショルツTrebor Scholzは疑問を呈しています(Die teilende Gesellschaft (4), 2016)。

画像2掃除風景

持続可能性への疑問

シェアすることは従来型の消費に対して環境負荷が少なく、目指す持続可能な社会に近づくことになるという楽観的な見方にも、疑問の声もあがっています。ヴォルフェルトNikolai Wolfertは、いつでもどこでも簡単な操作で、かつ安価に消費や利用の可能性が広がることで、むしろ、消費への欲望が刺激されるのではないか。つまるところシェアリングは、持続可能性にではなく消費拡大に加担しているのではないか、と批判的な意見です。(Die teilende Gesellschaft (1), 2016)

生活全体が商業化する危機

シェアリングは過剰な資本主義を終焉させ、資本主義は新たな段階に達しつつある、という一時期広がった考え方に対しても異議申し立てがでてきました。シェアリングは過剰な資本主義を終焉させるどころではなく、むしろ生活全体を徹底的に商業化させるという形で、資本主義社会を徹底化させることになるのではないかという指摘です。

プライベートな生活領域の商業化が進むということは、これまで友人どうしでお金をぬきに行われてきた相互のやりとりや交換が商業的なサービスの対象となっていくというものです。哲学者のハンは、「もはや目的をもたない友情はない。お互いに評価し合う社会では、友情もまた商業化される。よりよい評価を保つためにフレンドリーになる」(Han, 2014)、と挑発的な言葉で、警鐘を鳴らします。【次ページにつづく】

シェアリング・エコノミーを有効に機能させるための思考と実践

このような指摘を聞くと、シェアリング・エコノミーのイメージが、ハインリヒスの調査報告の時と180度違って感じられます。では、シェアリング・エコノミーになにを求めるべきなのでしょうか。あるいは、どんなシステムであることが望ましいのでしょうか。

「シェアリング・エコノミー」という題名のドキュメンタリー番組を作成したヒッセンは、シェアリング・エコノミーの目標について、「シェアリング・エコノミー事業が行われている地域がそれぞれ、地域的にシェアリング・エコノミーの恩恵を受けられる」ということではないか、と言います(Hissen, 2015)。それは、「持続可能という意味でも、社会的という意味でも、また同時に利益や税収という経済的な意味においても」恩恵を受けるということであり、地域全体に還元される経済・社会活動という位置づけでしょう。

ヒッセンのこの指摘は至極真っ当で、将来への指針を示しているように聞こえますが、具体的にはどのようなことでしょう。次に、この点についていくつかヒントになりそうな視点や具体的な動きを取り上げて、考察してみます。

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