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金正恩委員長殺害は実現化するのか? - 澁谷 司

 今年(2017年)9月15日、BBC(英国放送協会)は、「朝鮮半島危機―金正恩殺害は実現化するのか?」という内容の文章を掲げた。その概略を紹介しよう。

 2014年のハリウッド映画『ザ・インタビュー』では、金正恩委員長が登場し、コメディタッチの映画となっている。その後、急速に朝鮮半島危機が高まり、スクリーンでは北の指導者殺害が計画されていたが、それが現実味を帯びてきたのである。

 先月9月3日、北朝鮮が巨大な威力を持つ核実験(水爆?)を行ってから、韓国は既に金正恩を暗殺する特殊部隊創設の計画を承認している。

 今年5月、韓国大統領に当選した文在寅は進歩的政治家である。しかし、文大統領は北朝鮮政策の変更を余儀なくされた。

 英国王立国際問題研究所(The Royal Institute of International Affairs 。通称Chatham House)の東北アジア専門家、ジョン・ニールセン・ライト(John Nilsson-Wright)は、以下のように指摘する。

 ソウルの指導層は、軍事的抑止の失敗及びトランプの無能に恐怖を覚えている。いくらトランプが北朝鮮を攻撃する、金正恩を殺害すると叫んでも、猛進する北の軍の現代化を十分制止できなかった。

 北朝鮮の豊溪里核実験場での活動は、北が7回目の核実験の準備をしている予兆を示している。

 もし、最終的に、北朝鮮が小型化した核弾頭を搭載する米国本土へ到達する長距離弾道ミサイルを保有したならば、米国の政策決定者は朝鮮半島で軍事行動を取るかも知れない。

 米上院議員のリンゼイ・グラム(Lindsey Graham。サウスカロライナ州選出)は、北朝鮮がアメリカの都市に対し脅威を与える能力を獲得するのを阻止するためには、米国はソウルに住む多数の一般人や軍人が死傷するリスクを冒さねばならないと何度も主張している。

 けれども、青瓦台は、金正恩が自分の命が危険に晒されていると彼に信じこませ、北が核実験を停止して建設的な対話を行う事を願っている。問題は、平壌が斬首作戦の恐怖を信じるか否かだが、金委員長はその脅威を感じるだろうか。

 もしかすると、北朝鮮の民衆は、西側が金王朝のリーダーを殺害すると信じているかも知れない。ハリウッドが金正恩暗殺するという映画を制作したのは、芸術的形式を用いて、西側の政治的意図を表現しているはずだからである。

 北朝鮮の金日成は、第2次大戦終結後、ソ連への亡命から平壌へ戻って来た。間もなく、金日成は手榴弾を投げつけられたが、ロシア人が日成を助けた。また、1950年、米国は「泰山」と呼ばれる巨大爆弾で北金日成を殺害しようとしたことがある。

 1993年、金正日は「核不拡散条約」(NPT)脱退を宣言した。米朝関係が悪化して以来、北は「準戦闘状態」入ったとして、当時、正日は大部分の時間を地下要塞で過ごした。2004年、金正日は、北朝鮮西北部へ向かう途中、乗っていた電車が爆発している。

 今年5月、トランプ政権が金正恩に対し、生化学兵器で正恩の暗殺を計画したとして、北は米国を非難した。CIAが北朝鮮住民に賄賂を送って、その計画を実行しようとしたと言われている。

 ソウルは米国の計画を間接的に変えたいと願っている。直接的に金正恩を脅すのではなく、経済制裁等の圧力によって、平壌のエリート達が政変を起こし、横暴な若い指導者の政権を転覆するよう説得したいのである。

 しかし、脱北してきた高級官僚によれば、その可能性は低いという。北朝鮮の政治的エリートらは、金正恩を恐れているからである。

 北朝鮮は、依然、高度に階層化した階層観念の強い社会である。北朝鮮の政治的エリートらは、敢えて政変を行うリスクを取る事はしないだろう。

 実際、金正恩斬首作戦のリスクは高く、成功率は低い。この作戦は宣伝に価値があるだけで、非現実的である。文在寅政権も斬首作戦での問題解決を願っている。だが、一方では、韓国保守派の不満の声が段々と高まっている。

 彼らは、韓国も核兵器保有するよう、その研究開発を政府に要求している。だが、青瓦台は、もしそうすれば、朝鮮半島で軍拡競争が起こり、南北双方で判断を誤った場合、戦争のリスクが高まると警戒している。

 最終的に、文在寅大統領は北朝鮮との対話・接触を検討している。文大統領としては、北の軍現代化の速度を遅らせるためには、時間が必要ではないか。

 同時に、ワシントンの対北朝鮮の強硬姿勢を変えたいに違いない。トランプ政権の対北朝鮮政策が強硬になればなるほど、選択肢は狭まり、北への武力行使が米国唯一の選択肢となるだろう。

 結局、北朝鮮の挑発に対し、有効な対抗措置がない現状下、斬首作戦は益々危険な賭けとなるに違いない。

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澁谷 司(しぶや つかさ)
1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、同大学海外事情研究所教授。
専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる!「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)等多数。

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