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産経新聞は北朝鮮との"核戦争"を望むのか

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

トランプ米大統領が9月19日(現地時間)、国連総会で演説した。北朝鮮を「ならず者国家」と攻撃し。金正恩委員長を「ロケットマン」とからかった。これに対し、産経新聞の社説は「歓迎したい」と全面的に支持し、読売新聞も「意義は大きい」と評価した。さらに毎日新聞も「指摘は正しい」と肯定する。北朝鮮は非難されるべきだが、トランプ氏のような「目には目を」では核戦争になる危険性がある。各紙社説はそこを指摘するべきではないのか――。

■「トランプ氏演説 脅して何を得るのか」

「敵と味方を峻別して社会の分断を深める手法は、外交姿勢でも同じようだ。トランプ米大統領の初の国連演説は、敵と見なす国への敵意と脅しに満ちていた。これでは世界を不安定化させるだけだ」

こうリードでまとめるのは、9月21日付の東京新聞の社説である。「敵意と脅しに満ちていた」とはまさにその通りであり、「世界を不安定化させる」という指摘もうなずける。見出しの「トランプ氏演説 脅して何を得るのか」も納得できる。

産経新聞の社説(9月21日付)。見出しは「トランプ国連演説 北の核阻止へ決意みせた」。

さらに「『米国や同盟国の防衛を迫られる事態になれば、北朝鮮を完全に破壊するしか選択肢はない』と最大限の脅しを利かした」と指摘したうえで、「これに先立って登壇したグテレス国連事務総長は北朝鮮の核・ミサイル問題に絡んで『激しい言葉のぶつけ合いは致命的な誤解につながる危険がある』と警告を発したばかりだった。トランプ氏と金正恩朝鮮労働党委員長の予測不能な両トップによる威嚇の応酬は、不測の事態を招きかねない」と主張する。

この東京社説は最後に「こうした対決姿勢には、相互理解を深めたり融和を図ろうという意思はうかがえない。敵と見なされた国は憎しみを募らせるだけだ。超大国としての責任の重さを持ち合わせていないのなら、危険ですらある」と書く。沙鴎一歩も同感である。

個人的には左に寄り過ぎの東京社説はそれほど重視してこなかったが、今回のトランプ演説では東京社説の右に出る社説はなかった。東京社説は十分に評価できる。

■毎日はいつから好戦的になったのか

次に毎日新聞の社説(21日付)。「『全面的破壊』には会場に驚きが広がった。穏やかじゃない。乱暴だ。そう思った人も多いだろう」。ここまではその通りである。

問題はこの後だ。「北朝鮮が国際世論も安保理決議も無視して挑発的な言動を続ける限り、軍事オプションがますます現実味を帯びてしまう」と書き、「北朝鮮は『自滅への道』を歩んでいるという見方も含めてトランプ氏の指摘は正しい」と分析する。

沙鴎一歩も、北朝鮮が自滅への道を進み、その歩みの速度も増していると考える。ただここで毎日社説が問題なのは、そうした見方も含め、トランプ氏を肯定している点である。

毎日社説はトランプ氏の「軍事オプション」を認めるのか。いつから好戦的になったのだろうか。北朝鮮の非道な行為に押された筆のぶれであってほしい。

毎日社説の唯一の救いは、次の最後のくだりにある。

「政治の役割は終わっていまい。トランプ氏の演説に先立ってグテレス国連事務総長は核戦争の懸念を表明し、政治的手腕の重要性を訴えた。中露の北朝鮮説得も含めて、政治の役割はむしろこれからだ」

軍事的圧力によって北朝鮮をおとなしくさせることはできるだろう。しかしそれは一時しのぎにすぎない。真に北朝鮮を改めさせるには毎日社説が主張するように「政治」の力がいる。

■読売は前半で肯定し、後半で批判する

読売新聞の社説(21日付)は前半がトランプ演説の擁護で、後半はトランプ批判だった。その意味ではまともな社説である。その辺りを具体的に見ていこう。

「日本人拉致を含めた北朝鮮の暴挙を非難し、国際社会の結束を訴えた意義は大きい」
「日本や韓国を防衛する明確な意思と、北朝鮮が敵対行為をやめるまで圧力を強める方針を表明したのは妥当である。関係国首脳らは国連の場で、制裁の徹底した履行を確認することが求められる」
「『北朝鮮ほど、他国や自国民にひどい仕打ちをする国を見たことがない』と指摘した通り、日本人拉致は、北朝鮮による国家犯罪と人権侵害を象徴する。解決への機運を再び高めねばならない」

「意義は大きい」「妥当である」という表現を使い、新聞社の社説としてトランプ演説を肯定する。

■保守の主砲らしい現実的な主張

前述したように読売社説の後半はトランプ批判である。

まず「気がかりなのは」と書き出し、「トランプ氏がイラン核合意について、『最悪の一方的な取引』だとして破棄する考えを示唆したことだ」と指摘する。

そのうえで「2015年の合意に基づき、イランの核計画縮小と引き換えに、米欧は制裁を解除した。原油禁輸や金融制裁などの圧力を最大限加えた上で危機を回避した手法は、北朝鮮への対処の参考になる」と解説し、「強引に破棄すれば、イランに核開発再開の口実を与えかねない。英仏独中露も加わった合意の重みをトランプ氏は認識すべきだ」とトランプ氏に注文する。

保守の主砲である読売新聞らしい現実的な落ち着いた主張である。

■孤立主義の危険性をやっと認識したか

さらに米国第1主義について「演説で『各国の指導者も自国を第一に考えるべきだ』と主張したのは、『米国第1』主義に基づく自由貿易への反対や移民政策を正当化しようとしたのだろう」と批判する。

同時に、『より安全で平和な未来』に向けて各国が協力する必要性にも言及し、「国連などの国際協調主義に対する配慮を見せた」と書き、「北朝鮮問題やイスラム過激派によるテロ、シリア内戦などに効果的に取り組むには、多国間協力が欠かせない。米国単独で対応することも、孤立主義に走って放置することもできない現実をようやく理解し始めたのではないか」と分析しながら皮肉る。

そのテクニックに「お見事」と思わず手をたたきたくなる。手慣れた論説委員が筆を執ったのだろう。

最後は「トランプ氏が重視するとした各国の『主権』『安全』『繁栄』は、米国主導の世界秩序が支えている。重い責任を踏まえた外交安保戦略を構築してもらいたい」とトランプ氏に「米国主導の世界秩序」の重要性を悟らせ、読売が好きな外交と安保で締めくくる。

■産経は「核戦争」の危険性を考えているのか

最後に21日付の産経新聞の社説(主張)を取り上げる。全面的にトランプ演説を支持する産経社説は、「拉致」と「演説」の2つのテーマに分けて主張している。実質的は大きな1本社説である。

産経社説はその書き出しで「北朝鮮の核・ミサイル戦力を世界全体への脅威と位置づけ、世界をリードする意思を表明したことを歓迎したい」と大きく評価し、「注目されたトランプ米大統領の初の国連演説は、自国や同盟国を守るためには相手を『完全に破壊』するという、強力な警告を発する舞台ともなった」と指摘する。

極めつけは次の表現だ。

「武力行使という選択肢をトランプ政権は堅持してきた。だが、国連総会で直接、大統領が発言したことの意味は重い」と書き、トランプ氏や世界各国に対し「圧力を高める具体的な行動をとってもらいたい。日米韓が結束するのをはじめ、世界各国に働きかけていくことが求められる」と注文する。

トランプ氏の武力行使を肯定し、それを世界で認め合い、他国も武力行使を行うべきだ、という主張である。産経社説は「目には目を」という発想でしか北朝鮮を封じ込められないと信じているように読める。産経新聞の論説委員たちは、武力行使がエスカレートし、核戦争に発展する危険性をどう考えているのか。

論説委員全員が武力行使を肯定するわけではないだろうが、武力行使に反対する論説委員が少ないのだろう。残念で悲しいことである。

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