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審査に1秒!中国「超高速融資」の恐るべき実力 - 高口康太 (ライター・翻訳家)

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 屋台の肉まん売りや農村にまで金融サービスを提供する。アントフィナンシャル社旗下のネット銀行「網商銀行」(マイバンク)のフィンテック(新たな金融テクノロジー)は革命的だ。

 記事「中国でキャッシュレス化が爆発的に進んだワケ」において、私は支付宝(アリペイ)に代表される中国モバイル決済はインフラだと指摘した。モバイル決済を通じて収集された莫大なビッグデータは次なる革新的サービスを生み出す土壌なのだ、と。「『信用の可視化』で中国社会から不正が消える!?」で紹介した信用スコア「芝麻信用」、そして今回紹介する網商銀行のフィンテックはその具体例だ。

「3・1・0」の超高速融資システム

 網商銀行は2015年に設立された、アントフィナンシャル社旗下のネット銀行だ。銀行とはいっても店舗での預金業務は扱っていない。小規模企業、個人事業者、農家への融資に業務は絞り込まれている。

 「網商貸」と名付けられた小規模企業、個人事業者向けの融資サービスは凄まじくスピーディーだ。スマートフォンのアプリから融資申請を提出。すると即座にコンピューターで融資判断を下し、数分以内に送金されるという仕組みになっている。

 アントフィナンシャル社はこの超高速融資システムを「3・1・0」という言葉で説明している。融資申請の記入に必要な時間は約「3」分。提出すると「1」秒でシステムが融資可否を判断する。そして審査にたずさわる人間は「0」。AIによる審査のみで判断を下しているのだ。

 AIは何を材料に判断を下しているのか。それは芝麻信用と同じく、ネットショップの取引記録などアリババグループのデータなどを統合したビッグデータによって信用を評価している。利息も信用に応じて1日0.016%から0.047%まで変化する。信用を高めれば高めるほど低金利で資金が調達できるわけだ。

 ユニークなのが信用評価だけではなく、申請者がお金を必要としているコンテキストをも審査材料としている点だ。

 「セールのために在庫を増やそうとしている。あるいは売掛金の回収が遅れているためにつなぎ資金が必要だ。こうした融資の申請理由が正しいかどうかを人間ではなく、AIが判断します」と網商銀行広報担当者の劉婕氏は言う。いくらでもウソをつけそうに思えるが、網商銀行は過去の取引状況や現在の経営状況、さらには申請者の現在地といった情報を収集しているほか、AI技術によって「刷単」(架空取引によって店舗に実際以上の顧客、人気があるように見せかけること)を見破る能力もあり、正確な判断が下せると胸を張った。実際、返済不履行は1%未満にコントロールできているという。

零細事業者のニーズをくみ取る

 網商貸の利用者はネットショップ、飲食店、野菜市場の店主、個人事業主のトラック運転手などさまざまだ。ただ、網商銀行成立前、2010年から阿里小額貸款、2014年から螞蟻微貸という名称で、主にアリババ系列のネットショップ経営者向けに無担保小口融資が行われてきただけに、今でもEC関連の借り手が多いという。網商銀行成立後はネットショップ経営者以外にも融資対象を拡大した。肉まんを売る屋台のような超零細事業者でも融資を受けられる点が売りだ。2015年以来、350万社に融資してきた。前身も含めると600万社に達する。

 「客がアリペイを利用して肉まんを買えば、我々は顧客数を把握できます。商品単価が安くて売り上げが少なくともかまいません。固定客がいれば融資は可能です。また屋台の経営者は電気代や水道代といった公共料金をアリペイで支払えば、それもまた融資判断の材料になります。他にもシェアサイクルの利用時に違反行為はなかったかなどのさまざまなビッグデータが活用されています」

 平均の融資額は1件あたり1万7000元(約28万6000円)。まさにマイクロクレジット(銀行から融資を受けられない、零細事業者向けの小額融資)である。劉氏は次のように説明する。

 「顧客の多くはネットショップや商店、レストラン、運転手など。最近ではネットショップをやっていない、オフライン事業のみの顧客も増えています。野菜市場のおばさんも融資を受けてますよ(笑)。小規模企業や個人事業者の資金需要は一般企業とは異なります。一般企業は運転資金をプールしていますが、私たちの顧客は必要があって初めて融資を申請するのです。しかも資金を必要とする期間も短い。返済までの平均期間は7日間です。例えばネットショップですと、商品が売れたら次の在庫を仕入れる必要がありますよね。ただし中国ではエスクローサービス(*)が一般的なので、顧客が品物が届いたと確認するまでは売り上げを受け取ることができません。融資を受ければ入金を待つことなく在庫を仕入れられます。資本回転率を高めることができるのです。

 トラック運転手ですと、目的地までのガソリン代や高速代の融資を受け、到着したら報酬をもらって返済するといった具合です。野菜市場のおばちゃんもそうですよ。朝お金を借りて仕入れ、夜になれば売上金で返済するわけです。こういう事情ですから頻繁に融資を受けては返す方が大半です。顧客の60%は年50回以上の融資を受けています。中には5年間で3794回、平均で1日に2回融資を受けている方もいます」

*エスクローサービス:ネットショップの安全性を担保する仕組み。ネットショップでの取引の際、買い手が支払った代金はいったん第三者機関に預けられる。商品が正しく到着し取引が成立すると、代金は売り手に振り込まれる。第三者機関を介在させることで売り手も買い手も安心して買い物ができる仕組み。

 零細業者は自転車操業だ。現金に余裕がある者などほとんどいない。網商銀行を使えば金策に駆けずり回る苦労から解放されて、スマホだけで資金の手当てができる。借り入れ返済のサイクルを超高速化することによって資金の回転率を高め、自転車操業の効率を極限まで高められるのだ。

 「中国では毎年11月11日の双十一、通称「独身の日」が年間で最大の売り上げを記録するセールです。多くのショップは通常時の10倍という在庫を確保する必要があります。この資金需要の解決にも網商貸は活躍しています。2016年の双十一セール前には133万もの小規模企業、個人が融資を受けました」

 また「余利宝」という金融商品も扱っている。MMF(マネー・マネジメント・ファンド)の一種で1元からでも購入が可能、必要な場合にはすぐ解約ができる。一時的に手持ち資金に余剰が出た場合には死蔵させることなく、お手軽に運用が可能になるというわけだ(*)

*なお、アントフィナンシャルは個人向けの金融商品として、「余額宝」という類似のサービスを展開している。

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