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ジビエ活用で災いを福となす

鳥獣による農作物被害で
「食のみやこ」目指す鳥取県

人口最少の鳥取県が「とっとりジビエ」の全国ブランド化を目指している。シカやイノシシなどによる農作物の被害が全国的に拡大する中、侵入防止柵の設置など守りの姿勢から一転して、捕獲した野生鳥獣の肉(ジビエ)を地域資源として活用するのが狙い。人口減少時代を迎え、中山間地を中心にした地域社会の崩壊・消滅が懸念される中、近年、大きな社会問題となっている「所有者不明の土地の増加」を見るまでもなく、事態打開には発想の転換こそ欠かせない。その意味でも「とっとりジビエ」の今後に注目したい。

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鳥取県では昨年、7千頭を超すシカが捕獲された=鳥取県提供=

昨年3月、環境庁が発表した資料によると、2013年度末現在、北海道を除く本州以南に生息するイノシシは推定98万頭、シカは305万頭、農作物の被害額は約200億円。イノシシは2年前に比べほぼ横ばいだが、シカは1989年の調査開始以来、約30年で10倍に増えた。現在の捕獲率で行くと23年度のシカの生息数は453万頭まで増え、目標の半分に抑えるには捕獲数を現在の2倍以上にする必要があると報告されている。

当の鳥取県の昨年の捕獲数はイノシシが1万1970頭、シカが7274頭。前年に比べ20〜45%増え、被害も55%増の8990万円に上っている。解体処理によるジビエなどの利用率は15%。北海道の17%に次いで高く、一昨年2月には「地方創生への道 迷惑ものが資源に変わる」をテーマに第一回日本ジビエサミットも鳥取市で開かれた。

鳥取市やその周辺を中心にした同県東部には昔からジビエを食材に使う伝統があり、“ジビエ活用の先進の地”でもある。鳥取市や隣の八頭町、若桜町などでジビエを提供する24店舗や食肉処理の営業許可を持つ7施設が中心となって5年前に「いなばのジビエ推進協議会」を設立、「森の厄介者を地域のお宝に!」、「鳥取の森の贅沢」などの宣伝文句でジビエの消費拡大に取り組んでいる。

県内には公設、民間合わせ計12ヶ所(全国では172ヵ所)の解体処理施設があり、利用率もこの5年間で2・5倍に増えた。中でも八頭、若桜両町のシカやイノシシを引き受ける「わかさ29(にく)工房」は高い解体処理技術で全国に知られ、たまたま訪問した9月初旬、30分ほどの間にシカ2頭が相次いで軽トラックで持ち込まれ、ワイヤーでつり下げバーナーで表面の毛を焼いた後、瞬く間に解体処理され、河戸健代表は「県外からの見学者も多いが、一様に技術の高さに驚いて帰られます」と語った。

同県は、かつて「スタバはないがスナバ(砂場)はある」の“名言”で県の知名度をアップさせた平井伸治知事を先頭に「食のみやこ鳥取県」を目指しており、ジビエを使った和食料理の普及や地域おこしに向けた日本財団との共同プロジェクトのひとつとして小中学校の給食に実験的にジビエを取り入れるなど全県的な普及を目指している。

とっとりジビエは処理技術とともに「肉質が良い」と首都圏のイタリアンレストランなどにも好評。ただしシカを例にとると、ジビエとしての利用は血抜きをした後、2時間程度が限界。それ以上はペットフード用に回すか埋設や焼却処分されている。捕獲した以上、やはり有効利用されるべきで、今後、処理加工施設や保冷車を備えた移動式処理車などの整備が課題となる。

ジビエを活用する動きは高知市や富山市、長野県下諏訪町、兵庫県佐用町、山梨県早川町など全国各地に広まっており、鳥獣被害防止特別措置法により各自治体の被害防止計画を支援している農水省も鳥獣利活用推進支援事業を立ち上げ、今年1月には東京都内で第1回のジビエ料理コンテストを開催した。

フランスやイタリアなどジビエ料理の本場では、運動量が豊富で自然の恵みを餌として育ったジビエが牛や羊など飼育された動物以上の高級食材、貴族の伝統料理として定着しているという。わが国でもジビエを提供する店は首都圏だけで既に800店を超え、今後も確実に増える勢いにある。

少子高齢化が進む縮小社会の新しい未来を開くには、マイナス要因をプラスに転化する工夫こそ必要。前述した土地問題にしても何の手も打たなければ所有者不明の土地はさらに増え国土は荒廃する。しかし、公益的な活用に道を拓く受け皿づくり、法整備が進めれば、新たな地域おこしの資源として活用できる可能性も増える。

ジビエのさらなる可能性を切り拓くためには若手ハンターの育成や捕獲・処理、加工・調理、販売まで衛生管理面の強化、販路の整備・拡大まで幅広い取り組みが必要になるが、鳥取県の試みが少しでも全国に広がるよう期待する。

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