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金正恩は困らない

 「金正日に感謝しないといけないな」――とは、麻生太郎(当時は外相)の2006年の発言です。これは北朝鮮がミサイル実験を行い、対北朝鮮への強硬姿勢をアピールしていた安倍内閣の支持率が跳ね上がったことを受けての言葉だったわけですが、11年後の現在はどうでしょうか。まさか逃げるように総理の椅子を捨てていった安倍晋三が歴代屈指の長期安定政権を築くことになろうとは、誰も予測していなかったであろうと思われます。

 ライバル政党のていたらくもあって政権の座に返り咲いた後は、それまでの(第一次安倍内閣も含めた)内閣より少しだけマシな経済政策で、野党に対する相対的優位を維持し続けてきたのが第二次安倍内閣ですけれど、首相の「お友達」との関係でゴタゴタが続き、元・自民党の議員に東京で痛い目に遭わされたりと、急速に陰りが見え始めてもいました。それがいつの間にか支持率が上昇に転じている今日この頃、果たして金正恩は感謝されているでしょうか。

 アメリカでは2001年に同時多発テロが起こったわけですが、この後ブッシュ大統領は「テロとの戦い」を発表して米国愛国者法を成立させ、90%もの高支持率を獲得したそうです。凧と支持率は、向かい風が強いほど高く上がるものなのですね。見方を変えれば、国内の支持を高めるためには外からの「向かい風」を吹かせなければならない、とも言えます。独裁体制を確固たるものにするためには、経済制裁を食らうぐらいがちょうど良い、と考える国家元首がいても不思議ではありません。

 まぁ国家に限らずカルトや結社、各種団体の類いでも、社会的に疎まれ孤立すればするほど、内部での結束は高まっていくことが知られています。「外から」の迫害が強まれば強まるほどに、自らの正当性を強く感じていく人もいるのです。この辺の構図は――「北風と太陽」の寓話が示唆するように――遙か昔から理解されてもいるのでしょう。とはいえ、現実の国際政治はどちらかが一方的に北風もしくは太陽の役割を果たせるものではなく、往々にして「相互に」役を務めるもののようですが。

 核兵器の保有を悲願とするのは、別に北朝鮮の党幹部だけではありません。我が国の市井にも、普通にいます。軍隊の活躍を夢見る人々にとって、北朝鮮という北風こそが希望です。むしろ北朝鮮が核廃絶、武装放棄ともなれば大義名分を失ってしまう人もいるわけです。自国の軍需産業と結びつきが強い政治家ならば、軍備増強を進める隣国こそが友であり、逆に軍縮を進める隣国の指導者は政敵に他なりません。では隣の国からの北風を望むなら、自国は何をすべきでしょう?

 悪ふざけに付き合う人が誰もいなければ、その人は哀れな道化になってしまいます。しかし悪ふざけにもムキになって土俵に登ってくる人がいるのなら、興行の始まりです。舞台に上がった両者は、どちらもファンからの喝采を浴びることでしょう。「圧力」で国民が困窮することはあっても、国家元首の地位が危うくなるわけでもない、隣国の政府も支持率の回復が続くとあらば、ある意味でwin-winの互恵関係が構築されているとすら言えます。

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