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“アムラー”がいた時代

平日はいろいろなものに追われていて、ろくろくニュースを見る暇もなかったので、新聞の社会面のベタ記事を見て、「お!」と思ったくらいだったのだが、週末、テレビのワイドショー番組で繰り返し取り上げられていて、懐かしさとともに違和感すら感じたのがこのニュース。

「歌手の安室奈美恵さん(40、略)は20日、2018年9月16日に引退することを、自身の公式ホームページで発表した。安室さんは今月16日でデビュー25周年を迎えていた。HPで「最後にできる限りの事を精一杯し、有意義な1年にしていきたい」とコメントした。」(日本経済新聞2017年9月21日付朝刊・第38面)

確かに、フェイドアウトすることはあっても「引退」とはっきり言い切ることまではあまりしないのが、従来のアーティストたちの定番行動だっただけに、まだ40歳という若さでそれを断言したことにニュース価値がある、といえばあるのだが、今の彼女は少なくとも“旬の人”ではない。むしろ、どちらかと言えば“昔の人”になりかけていたくらいの存在。

今、テレビや新聞メディアでそれなりの地位にある人々の中には、自分と同世代くらいの、まさに「安室奈美恵が天下を取っていた時代」に音楽を聴いていた人たちも多いはずで、それが番組でも新聞記事でも大きく取り上げられることにつながったのだろうけど、街角のインタビューの映像を見ても、何となくピンと来ていない感(それでも取材者に合わせた感)のある絵がチラホラ散見された*1

もちろん、世代的にどハマりな自分にしてみれば、BGMで流れる楽曲とともに、いろいろと思いかえすことも多かったのであるが・・・。

振り返れば、90年代のアムロ旋風、というのはとにかく壮絶で、沖縄から軽快なダンスミュージックとともにグループで上京してきた頃から、印象は鮮烈に残っている。

最初の数年は、NHKの音楽番組でバックダンサーみたいなことをやっていたり、幼児番組に出ていたり、という感じのキャラだったのに、グループ名が“安室奈美恵 with”になり、ユーロビートの波に乗ったことで一気にブレイク。

そして、ソロ名義になり、当時の大ヒットメーカー・小室哲哉と組んで立て続けにミリオンヒットを飛ばしたことで彼女の地位は揺るがぬものとなった。

あの頃はCDがとにかく売れた時代だったとはいえ、僅か1,2年の間にスターダムにのし上がり、立て続けにホームラン級の売上を叩き出すアーティスト、という者には、早々お目にかかれるものではない。そして、プロモ等で本場っぽい外国人ダンサーを引き連れてR&B調の楽曲を熱唱する姿は、「世界」を意識させるに十分すぎるものだった*2

それまでの日本の音楽シーンは、ビーイング系のロック調な音楽と、80年代からの流れを引き継ぐポプコン系ニューミュージック、そして、いわゆる小室系のダンスミュージックが、増えたパイを取り合う、という状況だったのだが、彼女の快進撃は、前2者を一気に“時代遅れ”なものに追いやってしまう*3

「アムラー」が、バブルの残滓のように残っていたジュリアナ系ファッション*4を街から駆逐した、というようなことは自分にとってはどうでもよい話だったのだが*5、「メロディラインがどんなに美しくても踊れない曲は売れない」時代になってしまったことに対しては、いろいろと思うところもあった。

だが、そんな80年代への郷愁を吹き飛ばすくらい、安室奈美恵という歌い手の存在は際立っていたし、時代の先端で尖がっていた。大量に生産され、消費される“小室サウンド”の山の中でも、彼女が歌う曲だけは、ある種異質で、追随を許さないオーラが漂っていたのである。

少なくとも、1997年10月の電撃発表の時までは・・・。

人生の選択は人それぞれでいいし、トップスターだからと言って、一般人と同じような経験をしてはいけない、という理屈はない。

ただ、常に新しいものに目移りするファンを相手にしないといけない大衆音楽の世界、それも、好景気の下で次々と新しい才能が世に送り出されていた時代に、あの1年のブランクは決して小さなものではなかった、と思う。

彼女と組んでミリオンヒットを飛ばしまくったヒットメーカーが、その後苦難の道のりを歩んだのと同様に、安室奈美恵という稀代の歌姫も、浜崎あゆみ、宇多田ヒカルといった個性的なアーティストの後塵を拝し、「独自路線」を進むことを余儀なくされた。そして、その後の20年で、音楽の楽しみ方、消費のされ方自体が劇的に変わる中で、彼女の存在自体が(現役のアーティストであるにもかかわらず)“懐かしいもの”に変わりつつあった。そんな中での今回の電撃引退宣言・・・。

今でも楽曲の売上はオリコンランキングの上位に食い込んでいるようだし、ライブをやれば多くのファンが足を運ぶ。

だから、「過去の人」と片づけてしまうのがあまりに失礼なのは承知の上なのだけど、一気に頂点に駆け上がった最初の5年とその後の20年の彼女のアーティスト人生はあまりに対照的。それだけに、最後に残された一年で彼女が誰と何を表現しようと試みるのか、が、気になって仕方ない。

そして、どこかで、彼女自身がこの25年+1年を自分の言葉で語ってくれる機会に巡り合えることを、今は願うのみである。

*1:実際の取材は、放映されたインタビュー×αくらいの手間をかけて行っているはずで、良いコメントを取るのに相当苦労したんじゃないかな、という印象すら受けた。

*2:その数年後、宇多田ヒカルがR&B路線でブレイクしたが、派手さでいえば安室の方が数段上だった。

*3:自分がいた環境はそれでも、まだ「ニューミュージック」が根強い人気を誇っていて、部室でも時代に抗して渡辺美里だの谷村有美だの槇原敬之だのがガンガン流れていたのであるが、それもいつしか小室サウンドの裏で藻屑と消えた・・・。

*4:バブルの象徴のように取り上げられるが、「ジュリアナ東京」自体は「ポストバブル」期に出来上がった箱ものだし、それゆえ90年代半ばくらいまでは、太眉もピチピチ系の服もまだ健在だった。

*5:あの頃のドラマを見比べると、たかだか1,2年の放映時期の違いで、女優さんたちのメイクもファッションも劇的に変わっていることに気づかされる・・・。

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