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警察も手を焼く「地面師」 映画のような詐欺の実態 土地漂流時代の事件簿 土地漂流時代の事件簿 - 藤川大樹 (東京新聞記者)

 知らない間に自分の土地が転売されてしまう─。他人の土地の所有者に成り済まし、勝手に売却する「地面師」の摘発が近年、相次いでいる。主に狙われているのは、東京都内の一等地で、所有者が別の場所に住んでいたり、亡くなっていたりする土地だ。

土地の所有者が多数亡くなった戦後の混乱期や、土地が高値で取引されたバブル期に暗躍した地面師が、管理の行き届いていない土地を狙い、再び犯行に手を染めている。

明らかになる地面師の手口 狙われる都会の空き地

 「被告を懲役7年に処する」

 今年1月下旬、東京地裁の法廷に、裁判長の淡々とした声が響いた。量刑の理由が続く。

 「この事件は、他人の土地を売却し、2億5000万円をだまし取った『地面師詐欺』の事案である。周到に計画された犯行で、被害額も高額。被告は、ニセ地主を面接で選んだほか、中間買い主の『J』社の専務を務めるなど、刑事責任は共犯者の中でも最も重い」

 判決を聞き終わった被告の男は、落ち着いた様子で小さく頭を下げた。

 被告は、地面師グループの主犯格の1人だった。東京都杉並区にある約800平方メートルの土地を勝手に売却したとして、共犯者とともに詐欺罪で警視庁に逮捕、起訴された。過去にも同様の地面師事件で服役したことのある、名うての地面師だ。

 警視庁の捜査や被告の裁判では、地面師グループの大胆不敵な手口が明らかになった。

 被告らは杉並区の土地に目を付けると、その売却に向けてチームを組み、動き始めた。まず、神奈川県横浜市の不動産会社「K」社に、「(被告らが経営に携わる不動産仲介会社の)J社が杉並区の土地を買い取るので、それを売却したい」と持ち掛けた。K社が土地の購入に関心を示すと、土地の所有者と年齢や体形が似た「ニセの地主役」の男をリクルート。

男が「報酬目当て」でニセ地主役を引き受けた後、精巧に偽造された土地所有者名義の運転免許証、印鑑登録証、土地の権利証などを手渡した。

 偽造の身分証などを受け取ったニセ地主は土地所有者に成り済まし、J社に土地をいったん売却。その土地はJ社を通じ、K社の手に渡った。J社とK社による契約の場には、ニセ地主も同席し、土地所有者のフリをして売却の動機や経緯などを説明。

被告らは、書類に指紋を残さないよう指にマニキュアを塗って取引に臨んだという。後日、K社からJ社宛てに、土地の購入代金である2億5000万円分の預金小切手が振り出された。

 被告らがK社に直接土地を売却せず、J社を経由した理由について、詐欺や横領などの知能犯捜査を手掛ける警察幹部は「地面師事件で転売は常とう手段。売買が多い方が適切な物件に見える」と説明する。

 土地所有者は幸いにもすぐに被害に気付き、東京地裁に提訴、登記簿によると半年後に移転登記は抹消され、所有権を取り戻している。一連の経緯をうかがおうと、世田谷区の高級マンションを訪ねたものの、インターフォン越しに「すいません。もう忘れたい出来事なので……」と断られてしまった。

事件増加の背景に空き家率の上昇

 「地面師詐欺事件では、その筋のプロたちが犯行時にバッと集まり、ミッションを遂行する。まさに『オーシャンズ11』の世界ですよ」

 警察幹部は、地面師グループの鮮やかな手口を、皮肉交じりにそう例えた。オーシャンズ11は、犯罪のスペシャリスト集団がラスベガスの地下金庫から現金を盗み出すアメリカ映画である。

 地面師グループは司法書士や不動産ブローカーを巻き込みながら、高く売れそうな土地を探し出して登記簿を取得。偽造の印鑑登録証明書や運転免許証を用意し、被害会社に巧みに話を持ち掛け、ニセ地主役の共犯者を真実の土地所有者と信用させる。

 標的となる土地をどうやって探すのかは地面師グループの〝企業秘密〟で、今回の取材で直接の証言は得られなかった。警察幹部は「土地を探す人間がおり、管理が行き届いていない土地や空き家を足で探している。めぼしい土地の登記を取り、『この土地、要りますか』と声を掛け、引きがあれば、詐欺を実行する」と解説する。

 地面師詐欺の犯行態様は極めて組織的で、計画的だ。売却しても気付かれにくい土地を探す者、偽造書類を用意する者、ニセ地主役を見つくろう者、ニセ地主、ニセ地主と行動を共にする後見人役─。

 地面師グループは複数の人間が細かく役割を分担する。これが警察幹部をしてオーシャンズ11と言わしめる由縁である。仮にニセ地主が捕まっても、他のメンバーは「本物の地主だと思っていた」と、まるで被害者を装って関与を否定するため、全容解明へのハードルが高い。ニセ地主は、言わば末端の使い捨てで、全容を知らされていないケースも少なくないという。

 警察も全ての案件を解決できるとは限らず、あるベテラン刑事は「地面師事件はプロ(の捜査員)とプロ(の詐欺師)のガチンコ勝負だ」と語気を強める。

 今回の事例以外にも、新宿区や港区、練馬区など都内各所で地面師詐欺の被害は報告されている。地面師の暗躍が目立つようになった背景には、「空き家率」の上昇がある。

 総務省が5年に一度実施している調査によると、高齢の親世帯が亡くなった後、相続した子どもが住まないなどの事情から、全国の空き家の割合は1998年以降、右肩上がりで上昇している。

直近の2013年の調査結果(総務省統計局)では、全国の住宅総数は6062万8600軒で、このうち空き家は819万5600軒。空き家率は13・5%に達する。警察幹部は「こうした土地は無断で売買されても所有者が被害に気付きにくいため、狙われやすい」と指摘する。

 2020年の東京五輪・パラリンピック開催を控え、東京都内の公示地価が4年連続で上昇する中、「今後も被害が増える恐れがある。土地の所有者は定期的に登記簿を確認してほしい」と警鐘を鳴らしている。

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