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本当に残酷な教育とは(ビンタ事件に思うこと)

最近、ようやくアクセプトされた質的研究(長かった、、、)。実はその前に、某日本の医学教育学の雑誌にrejectされています。それもeditor's kickで。

採択率が10%前後、あるいはそれ以下の一流雑誌であれば査読効率を上げるためにエディターの判断でreject というのはありだと思います。ぼく自身もそのような経験を何度もしてきましたし、「仕方のないことだ、次いこ次」と別の雑誌を探したものです。査読者を乱用しないことにより、提出論文が査読されるまでのスピードも上がりますから、合理的です。

しかし、アクセプト率が60%を越えるといわれ、シンプルなアンケート結果やワークショップの体験記すら採択されてしまう、某国内医学教育の専門誌で、オリジナルな研究論文が査読にすらかけてもらえないというのはどうかなあ、と思わないでもありません。最近、論文提出時に悪意で足を引っ張る査読者を回避するために事前に査読してほしくない査読者を指名できる雑誌が増えています。しかし、我々はeditorを指名できないのです。

そのeditor in chiefはなぜかぼくのことをすごい嫌っていて、通路で挨拶しても目を背けて無視してくるような方です。ぼく自身がその方に個人的な攻撃やハラスメントをしたことは一度もありません。この人物が関係する事業は確かに手厳しく批判したことはありますが。「こと」である論文ではなく、ぼくという人物に対して個人攻撃的に、しかもこういう形で対応されるのはどんなものかとは思います。

急に話は変わります。最近、ジャズミュージシャンがビンタをしたとかしなかったとかが議論になっていますが、ぼくはこの議論はわりと事の本質を見失っていると思っています。

もちろん、暴力を教育に取り入れてはいけないというのは当然のことです。ぼくは学生や研修医に絶対に手はあげません。厳しいと有名だった沖縄中部の喜舎場先生も絶対に暴力は奮いませんでした。NYのこれまた厳しいことで有名だった元ボスも暴力は皆無でした。

それはそれとして、ぼくは暴力の有無よりもずっと大事な問題がここにはあるのでは、と思っているのです。

喜舎場先生は非常に厳しかったですが、その叱責はその場限りでした。翌日の回診で前の失態が後を引くことはありません。むしろ、逆に叱りすぎて研修医が凹んでないか気にしているようにも見えました。OCHの指導医たちは(当時は)厳しめの人が多かったですが、内科も外科もさっぱりしている人が多くて、いわゆる「目をつけられる」とか、いじめということはほとんど観察しませんでした。彼らは患者の生命に危機が及びかねないような診療には非常に厳しい目を持っていましたが、「人間」=研修医に対して攻撃的になることは皆無だったのです。「こと」と「ひと」は明確に区別していた。

あのジャズのニュースを見てすぐに映画「セッション」みたいだ、と思った人は多いでしょう。ぼくも思いました。でも、あの映画で本当にこわいのはビンタをされたり、椅子を投げつけられるシーンではありません。目をつけられ、心がボロボロになるまで何度も同じところをやり直しさせられ続けるところ、そして(ここからネタばれです)、最後の「あの」部分です。教育者は教え子を貶めることのみを目的として教え子を罠にかけます。そこには教育的配慮や目的など何もありません。「セッション」での教官(JKシモンズ)の教育哲学はできる人は伸ばす、自分の理想を教え子を通して体現する、ですが、最後の最後で教育が目的を失って報復の手段に転化(あるいは劣化)するのです。

ビンタはよくない。でも、瞬間風速的なビンタなど、大騒ぎするようなたいした問題ではありません。問題は良い悪いの二元論ではないのです。程度問題でいえば、一回のビンタなどどうということはありません。あれを見て例のヨットスクールとのアナロジーが語られましたが、それは間違いです。執拗で慢性的で目的を見失った「善意」の暴走以上に暴力的なことはないのです(だから、件のヨットスクールは問題なのです)。

要するにあの問題を「暴力か否か」の二元論で語ったのがすでに問題の本質を見誤っていました。そのカテゴリーよりも重要なカテゴリーが教育にはあります。そしてそっちのほうがはるかに残酷でたちが悪く、そして予後が悪いのです。

白状しますが、ぼくにはそういう「より予後が悪い」教育に突っ走ってしまいかねない、粘着的な気質があります。途中で放り投げたくないので、回診で研修医や学生に「絡む」のです。これが度を過ぎるといじめになってしまう。ビンタなんか些事に過ぎないと思われるようないじめに。

これが度をすぎないように「もう1人の自分」が自制と自省を重ねていく必要があると思っています。だから、たぶん、この10年でぼくの教育セッションの粘度はだだ下がりしているはずです(ほんま)。

僕自身が感染症屋にありがちな粘着質をもっているので、他者のそういうあり方にもビンカンで、すぐに気がつきます。そして、そういうのは放任され、むしろ賞賛されてすらいます。しかも、教育業界のど真ん中で。そういうエートスが人間そのものを全否定したり、パワーを駆使して他者を貶めたりする悪行を平気でえげつなく行うのです。

神戸大感染症内科内科は横断的な診療科なので、他の診療科といっしょに仕事をすることがとても多いです。ある診療科に、臨床能力がパッとしないドクターがいて、この方は本当にトラブルメーカーでうちのスタッフを大いに困らせていました。臨床能力はからっきしなのに海外での基礎研究の経験を勘違いして臨床能力と思い込み、奇妙奇天烈な感染症内科マネジメントの方針を信じ込んでいました。我々のスタッフを推奨も頑なに拒む狭量な人物でもありました。この人物の上司に「非常に迷惑しています」と苦情を申し上げねばならなかったことすらあるくらいです。

しかし、この方の昇進人事をぼくが担当した時、ぼくは資料を見てすぐに昇進には賛同しました。それは研究系の教員人事だったのですが、なるほどこの人物は研究者としては優秀だったのです。それはCVや研究プレゼンからも明白でした。大学では活躍しづらいマイノティーを活用するためのその人事にぼくはイエスの一票を投じ、彼女は(女性です)そのポジションを得たのです。たしかに彼女は臨床家としてはイマイチでしたし、当科としては頭の痛い迷惑な存在でしたが、「それはそれ、これはこれ」なのです。報復人事くらい卑怯なことはありません。また、それは一種の教育効果ですらあるのです。

バラバラな話を続けましたが、本日の話は全部同じ一本の筋で繋がっているのです。お気付きでしょうか。

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