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大阪とハーレムが育んだ2冊の本「よしもとで学んだ『お笑い』を刑務所で話す」&「よい謝罪」

友人の竹中功さんがまたニューヨークにやってきた。一緒に北インドのカレーを食べ、最近、出版した2冊の本をいただいた。「よしもとで学んだ『お笑い』を刑務所で話す~自分を愛するコミュニケーション」「よい謝罪~仕事の危機を乗り切るための謝る技術」というタイトルだ。



 2冊目はビジネス・マナーのハウツー本のようなタイトルだが、後書きには竹中さんが2年前の夏を過ごしたハーレムのことが書かれている。竹中さんは熱心なジャズ・ファンなのだ。

 "私は友人の紹介でアパートの一部屋を借りて世話になっていたのだが、トイレとテレビが壊れていても、黒人の家主は「すぐ直すわ」。インターネットがつながらなくなっていると、「今から料金、払ろてくるわ」。魚釣りに行くので約束通り早起きすると、「眠たいから今度にしようや」などなど、家族か兄弟みたいに気楽に返事をしておいて、残念ながら約束はだいたい守らない。実現したとしても、いつも何日も時間がかかった。

 このエエ加減な対応と許さざるを得ない陽気な人柄はどこから来るのかと思って、家主や同じアパートの住人に聞いてみると、軽い口調で「わてらは400年前、何代も前のじいさんがアメリカに奴隷として連れてこられてん。今日も元気に生きてられることを、わしはホンマに先祖や神さんに感謝してるねん。生きてさえおったら、明日はまたエエことが起こるねん」"


 冒頭のアパートを紹介した友人とは私のことで、黒人の大家とは私の友人ケヴィンのことだ。ケヴィンほど気のよい人間はほかにいないが、竹中さんが書いているように細かいことにはかなりテキトーでもある。しかし竹中さんは、そんなケヴィンとハーレムから良いところだけをエキスのように抽出し、吸収して、少々の(かなりの)不便をものともせず、ハーレム暮らしを300%満喫した。それができたのは、竹中さんが実はそうとうな "他者とのコミュニケーションの達人" だからである。

■「よい謝罪」

 竹中さんは吉本興業で広報、雑誌編集、芸人育成、劇場オープン、映画プロデュースなど、芸人としてステージに立つ以外はほとんど全てを手掛けてきた人だ。吉本総合芸能学院(よしもとNSC)を立ち上げたのも竹中さんだ。「よしもとで学んだ『お笑い』を刑務所で話す」に出てくるが、入学申し込みにやってきた若き日の松ちゃん・浜ちゃんを見初めて入学させたのも竹中さんだった。(竹中さんがいなければ、ダウンタウンは世に出なかったかもしれないのだ!)

 そんな竹中さんの重要な仕事のひとつが、不祥事を起こした芸人の謝罪記者会見の仕切りだった。正直、日本の芸能人の謝罪記者会見のありように私自身は疑問を抱くことも多いのだが、ああした会見も背後での仕切り方によって成果がまったく異なることを「よい謝罪」で知った。

 ハーレムで明るく正直でテキトーなケヴィンと親友になれた竹中さんも、明るく、正直な人だ(テキトーではなく、緻密で論理的なことは本書を読めば分かる)。謝罪も小手先ではなく、正直に誠心誠意おこなう。最も重要なポイントは、被害をこうむった相手に心から謝ることだと言う。そこは絶対に譲らない前提とした上で、プロならではのコミュニケーション術を駆使し、プロならではの仕切りをおこなうのである。そしてこの謝罪スキルは、芸人ではない一般人にも応用できるのである。

■「よしもとで学んだ『お笑い』を刑務所で話す」

 一流のプロだからこそのさりげなさゆえに、逆にプロとは思わせないナチュラルなコミュニケーション・スキル。今、竹中さんはそれを意外な場所で活用している。刑務所だ。出所を控えた収容者たちに出所後のコミュニケーション法を伝授しているのだ。根っからの人間好きゆえ、収容者だけでなく刑務官にまで適正な距離を保った上で人としての眼差しを向けているが、そこにはやはりプロのノウハウがある。それをかなり具体的に綴ったのが「よしもとで学んだ『お笑い』を刑務所で話す」で、これも塀の外にいる私たちにも応用できる。

 加えて竹中さんはそもそもは凝り性らしく、日本の刑務所の実態や歴史をリサーチし、それも丹念に書き込んである。だから刑務所を知るための読み物としても楽しめる。合間合間に吉本興業の裏話や日本のお笑いの歴史が挟まれている。通読すると、あちこちに網走番外地高倉健、エリック・クラプトン、桂春団治、ブルース・リー、渡辺直美といった古今東西のセレブの名が現れ、やや「え?え?え?」となるが、「よしもとで学んだ『お笑い』を刑務所で話す」は一粒で三度、もしくは四度おいしい内容といえるのかもしれない。


■「あれ」も「これ」も「それ」も。

 2冊併せての散漫な書評となったが、要は竹中さんは多才かつ好奇心の旺盛で、あれもこれもそれもやりたくなる人なのだ。そして、一見つながりのない「あれ」と「これ」と「それ」が本人の中では無理なくスッと一本につながり、そこから人とのコミュニケーションのための新たなアイデアが湧き出、実行に移せてしまうのだろう。まったくもって羨ましい限りである。竹中さん、大阪戻ったらまたおもろい本を書いてください。それでまたハーレム来てください。ケヴィンにも会ってやってください。ほなお元気で。



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