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「どうせ」を死語に - 書評 - NASAより宇宙に近い町工場

ディスカヴァーより献本御礼。


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NASAより宇宙に近い町工場


植松努

この一年に出た自己啓発本の中では、啓発力No.1の一冊。あなたの自尊心は、ロケットのように舞い上がることうけあい。
ただし、技術本として見た場合、つっこみどころ満載一冊でもある。
よって本entryでは、まず「穴」に対して「だったらこうしてみたら」を提案した上で、本書の特長を紹介することにしたい。

本書「NASAより宇宙に近い町工場」は、カムイスペースワークスでロケットを作ることで「どうせ無理」という言葉をこの世からなくすることを試みている著者の主張。

目次

第1章 僕たちの宇宙開発

なぜ町工場で宇宙開発?

全額自腹でやっていく

成功する秘訣は、成功するまでやること

僕たちがロケットをつくる意味

お金では得られないものを得る

第2章 「よりよく」を求める社会をつくろう

「しんどい」と思うところにビジネスチャンスがある

ニッチ=すきまは自分でつくれ

「よりよく」を求めなくなったとき、社会はダメになる

「壊れやすい製品」をつくらなければならないのは悲しい

大量生産・大量消費社会はもう終わりつつある

「だったらこうしてみたら」をこれからのキーワードにしよう

「できる」と思えばできるんだ

第3章 「夢」って何だろう?

小学校の卒業文集に書いた「夢」を先生から叱られた

すべてのモノは、最初は「手づくり」

大人になって、夢をかなえるチャンスが訪れた

実現できそうな夢が本当の夢だろうか?

第4章 教えてくれる人がいないなら、自分で学べばいい

「普通」って何?

いろいろな「普通」があっていい

お金よりも「知恵」と「経験」

僕の原点は紙飛行機

ペーパークラフトで何でもつくれる

夢を潰された進路相談

知らなかったら調べればいい。間違ったらやり直せばいい

教わらなければ始められないのか?

どんなことでも自分で学べる

第5章 楽をしないで努力を楽しもう

大学の勉強は小学校からの趣味と同じだった

憧れの航空機開発の仕事に就けた

好きなことがない人は学ぶことができない

楽をすると「無能」になる

自信がない人は「評論」をして他人の自信を奪う

自信剥奪の連鎖を止めろ!

楽をしないで努力しよう

第6章 他のどこにもない経営方針

経営方針は「稼働率を下げる。なるべく売らない。なるべくつくらない」

どんなことがあっても壊れない製品をつくる!

僕たちの製品を誰も真似しない理由

時間を余らせて、新しいことに使う

給料分だけ働いていると、給料分の人間で終わる

第7章 あきらめないで世界を変えよう

人との出会いで人生が変わる

ロケットエンジンは家でつくれる

買うのではなくて、つくることを考えよう

失敗を生かして改良する

悲しければ悲しいほど、乗り越えたときの喜びは大きい

あきらめないで、工夫をし続ける

宇宙のゴミを片づけるロケットに

著者が作っているのは、単なるロケットではなく、革命的に安価かつ安全なロケットである。
P. 17
今、僕らがつくっているロケットは、北海道大学大学院の永田晴紀教授が開発したもので、ポリエチレンを燃料にしています。爆発しない、安全なロケットです。

ここまでは、いい。CAMUIロケットが安価かつ安全であり、そして実際にロケットとして機能することはJAXAも認めている。


しかし、その直後にこれである。
一般のロケットが危険なのは、ガソリンを燃料にしているからです。

口からガソリン吹いたよ、わたしゃ。
ガソリンを使ったロケットは不可能ではないはずだが、そんなロケットがどこにあるのか私は知らない。使われているのは、液体燃料ならケロシンか液体水素。そして固体燃料だったら、合成ゴムに酸化剤を練り込んだもの。
CAMUIが画期的なのは、燃料が個体で酸化剤が液体酸素という、ハイブリッドであること。


CAMUIが安全な理由、それは燃料と酸化剤がきちんと分かれていて、かつ燃料が比較的難燃なことにある。これだとどうやって燃料を燃やすのかという問題があるが、そここそがCAMUIのチャームポイントであることは、上のリンクを読めばわかる。
ところが、本書には「ハイブリッド」のハの字も出てこないのである。辛うじてオビのCAMUIロケットの写真に"HYBRID ROCKET"という文字が認められるだけである。
他にも本書には、ずっこけるような間違いがいくつも認められる。
P. 147
そこで僕たちは人工衛星もつくることにしました。僕たちは人工衛星の開発を始め、二〇〇六年に打ち上げました。僕らのロケットでは打ち上げることができなかったので、日本のN5というロケットに載せてもらいました。

この人工衛星は実在した。

ただし、同ページにあるように、打ち上げたのはM-Vというロケットである。N5などというロケットは存在しない。
要するに、著者は無知であり、ロケット業界という世間を知らないのである。
著者は、バカである。
愛すべき、バカである。
著者は無知ではあっても無能ではない。そして忌むべきは無知ではなく無能であり、無知を責めるように見せかけて無能を諦める言葉、それが「どうせ無理」というのが著者の主張であり、そしてその主張を口ではなく手で証明するために自らロケットを作って飛ばしているのである。
その事に、感動せずにはいられない。
P. 53
 僕の友達で、一生懸命葡萄を育てている人がいます。将来はワインをつくりたいと言っていました。葡萄を育てるだけでも大変で、畑の手入れを一生懸命しています。

 そんな彼の悩みの種は、ワインをつくるためにはステンレスでできたドイツ製の素晴らしい装置が必要だけれども、とても高価なので買えそうにないということでした。

 そこで、僕は彼に尋ねました。

 「ワインっていつからあったっけ?」

 そうしたら、彼の顔が輝きました。ワインの歴史をとうとうと語り始めます。「ワインはね、古代ギリシャのね、紀元前から…」というところで、僕は話をさえぎってしまいました。

 「紀元前に、ドイツもステンレスもないよね」

 と言ったんです。「そういえばそうだね」と彼も言います。

 「最初、どうやってつくったのさ?」

 「足で葡萄を踏んづけてつくったんだよね。そういえば今でも、フランスに足で踏んづけてつくっている人たちがいるね」


 という話になりました。「だったら、やってみればいいでしょ」と彼に言ったら、あれはチャレンジする気になっていました。

本書には、こうして著者自らの手で培った言葉があふれている。
それだけに、著者の「無知」が本来こういう言葉を最も届くべき人々から彼らを遠ざけてしまうことを恐れずにはいられない。少し調べればこうした部分はいくらでも補正できたはずだ。
ディスカヴァー社長室blog: 科学って面白い! 技術ってスゴイ! 理系ってステキ! DIS+COVERサイエンス創刊! 記念講演会にいらっしゃいませんか? ●干場
科学っておもしろい! 技術ってスゴイ! 理系ってステキ!

というのであれば、編集側にだって「だったらこうしたら」という責任はあるはずだ。私が指摘した間違いというのは、ちょっとWebを検索するだけですぐに見つかる(だからリンクを貼ってある)。ちょっと著者の言葉を鵜呑みにしすぎていないか?「だったらこうしたら」という著者の願いをスルーしすぎてはいないか?
著者のようなタイプの「バカ」が、日本でバカのままでいられるのは珍しい。しかし、この国が必要としているのは著者のようなバカであり、学校でちやほやされるような「おりこうさん」ではないのだ。
「バカ」のままであれとは、言うまい。
しかし、「どうせ」というのであれば黙ってもらっていた方がいい。言うのであれば「だったらこうしたら」、だ。「どうせ」は宇宙に捨ててもらうじゃないか。著者がそうしたように。

Dan the Makers' Little Helper

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