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財政健全化のような話は国民には耳障りだとしても、しっかりと主張し続けることが行政官としての責務だと思う - 「賢人論。」第45回八幡道典氏(後編)

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中編「保育サービスの充実は喫緊の課題。しかし、その財源を借金で賄い、負担を将来世代に先送りするのは、ある意味で本末転倒」で、財政の観点も踏まえ、子育て支援、働き方改革、地方創生などを語った、財務省主計局・八幡道典氏。待機児童や働き方改革をはじめとして、現代日本にはまだまだ課題が山積みだった。最終回となる後編では、いよいよ財政の“肝”に切り込んでいく。“破綻する”と騒がれて久しい日本の財政…その真実やいかに。※2017年7月10日付で金融庁に異動。肩書は2017年6月12日時点のもの。

取材・文/佐藤 舜(編集部) 撮影/公家勇人

年金の受給者が増えても制度は揺るがない

みんなの介護 2017年の8月1日から、年金の受給資格が拡大されたそうですね。それまでは25年間年金を払い続けなければ受給できませんでしたが、それが10年に短縮されました。

八幡 年金の受給資格に必要な期間が短縮されると受給者が増えますから、その財源が必要で、そもそもは消費税率を10%に引き上げるときに同時に行われる予定でした。税率の引き上げは延期されましたが、資格期間の短縮は、無年金者対策として喫緊の課題であり、税率の引き上げを待たずに実施すべきということで、先般、法律改正が行われました。

みんなの介護 ただでさえ「年金が危ない!?」などと言われているのに、受給者を増やして大丈夫なのでしょうか?

八幡 消費税率の引き上げ延期により、消費税の増収分を財源とすることはできませんでしたが、受給者の増加で必要となる費用は、歳出全体の効率化などで手当されています。したがって、今回の改正によって財政的に制度が揺らぐようなことはありません。

また、よく誤解されがちなのですが、そもそも社会保障制度の中でも「年金制度」は、持続可能性が高い制度です。もちろん「年金制度が危うい」という議論はよく聞かれます。実際、現役世代の所得に比べた割合を示す「所得代替率」は、若い世代になるほど、低くなっています。ただ制度が持続可能かどうかという観点で言うと大丈夫、というのが年金です。

みんなの介護 少子高齢化による影響も織り込み済みでつくられているので、よほどのことがない限り年金制度は揺らがない、と。しかし、特に若い世代には年金にたいする不信感もありますよね。

八幡 最近も大学で講演する機会があり、彼ら若者と意見交換しましたが、確かに年金には不安を感じていました。多分、今はまだ実感の湧かない医療や介護よりも年金の方が不安なのでしょう。所得代替率などの概念も、分かりづらいですよね。

でも彼らにも、少し時間をかけて制度をよく説明したところ、そうなのかと納得してくれました。年金不安の問題は、“消えた年金”問題などに象徴される、実務的な問題ともごっちゃにされているかもしれません。

もちろん、改革すればするほど、制度の安定性は高まりますから、不断の改革は必要ですが、今の制度が持続可能ではないというのは明らかに誤解です。むしろ、社会保障制度の中でも、医療保険や介護保険は今の制度のままでは持続的ではなく、そちらの方が制度改革としてはより喫緊の課題というのが、我々の問題認識です。


「2025年問題」に対応するための医療・介護制度の早急な見直しが必要

みんなの介護 確かにそれは、誤解が生まれやすい部分かもしれません。介護保険・医療保険に関しては、持続可能ではないのですか?

八幡 現行の制度のまま放っておくと、高齢化等による給付費は増加します。厚生労働省の推計によれば、2012年から2025年にかけて、GDPは1.27倍増加するという前提を元に考えたとき、年金給付は1.12倍の増加はGDP成長率の範囲内に収まっています。一方、医療の伸び率は1.54倍、介護は2.34倍となっており、GDP成長率を大きく上回って伸びています。

2025年には、いわゆる団塊の世代の方々がみんな75歳以上になりますが、そうすると公費負担が大きい後期高齢者医療制度の対象になってきますし、加齢に伴って1人当たりの医療費が増えることも明らかです。要介護状態になる人も増えるでしょう。社会保障の関係者間で、「2025年問題」と呼ばれているものですね。

ですので、医療保険、介護保険は、今のままでは持続可能とは言えず、2025年を迎える前に、給付を抑制するか税金や保険料といった負担を増やすなど、制度を持続可能なものとするための何らかの見直しが必須なのです。

みんなの介護 介護に関しては、今でさえ介護士さんの低賃金や人手不足が問題になっています。これ以上何かコストを切り詰める余地などあるのでしょうか?

八幡 現場の状況は仰る通りだと思いますし、私自身、親が介護サービス利用者であるわけで、利用者の立場からみても、制度を厳しい方に見直すことは、嬉しいことではありません。それでも、やはり制度自体が立ちゆかなくなっては元も子もありませんから、何とか見直していくしかないとも思います。役人はとかく現場を知らないとも言われるのですけど、それほど知らないわけではない、ということもご理解いただければと思っています。

私は、2000年に厚労省で制度の施行準備に携わったのですが、当時は、まずは制度を何とか施行し、定着されることが大切で、その後も走りながら考えようと言われていました。そういう意味では、常に制度の見直しを続けることは仕方ないとも思います。少し主観的かもしれませんが、当時想定されていた保険料の水準からすると、今の介護保険料の負担はかなり重くなっているように思います。

制度スタート時の1号保険料の全国平均は2,911円でした。ちょうど当時生まれた私の長男の体重とどっちが上かと言っていたので、この数字は忘れません。当時は3,000円を超えると大変と言われていたのですが、今では5,514円です。そういう意味では、やはり給付の見直し、重点化は考えざるを得ないのではないかなと思いますし、そうでなければ、さらなる負担増も考えないといけません。負担を増やすのか、給付を抑えるのか、あるいはそれらを組み合わせるのか。いずれも難しいことではありますが。

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