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ドラッカーとナチスとボランティア ~「エクセレントNPO」がめざすもの~

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1.ドラッカーが注目した阪神・淡路大震災とオウム真理教

ドラッカーは、その著書の中で、たびたびボランティアやNPOについて言及している。私は、ドラッカー著『非営利組織の自己評価手法』(ダイヤモンド社 1995年)に翻訳機会に恵まれた。1995年といえば、阪神・淡路大震災が起こった年だ。翻訳の過程で、氏と直接、話す機会が何度かあった。

氏が熱心に尋ね、メモを取っていたのは、阪神・淡路大震災でのボランティアや企業の社会貢献活動と、そして95年3月に起こったオウム真理教による地下鉄サリン事件に関してであった。そのメモは、先の翻訳本の「日本語への序文」に見事な論考となって表れた。しかも、阪神・淡路大震災のボランティアとオウム真理教の若い幹部層の間に、ひとつの接点を見出し、指摘していたのである。

翻訳をしながら、全く真逆の2つの出来事を同一のテーブルに載せて記してよいものか、迷った。しかし、ドラッカーの文章には全くの迷いはなかった。この2つをつなぐものとして、氏は「流動する知識ワーカー」を挙げた。知識ワーカーとは、高学歴のワーカーのことをさす。彼らは従来ワーカーとは異なる性格を有する。

従来のワーカーは、会社に忠誠心を持つ。これに対して、知識ワーカーは自らの知識に忠誠心を持つ。だから、「より面白い仕事」、自身の知識やスキルをより活用できる仕事があれば、職場を移ることにさほど躊躇がない。そのため、知識ワーカーは、より転職をすることになるだろう、とドラッカーは述べた。

だが、人間は、自らが根を下ろし位置と役割をもつ場を本能的に欲する。以前であれば、終身雇用を前提とした企業がその役割を果たしたが、流動する知識ワーカーについては、企業はその役割を果たすことが難しくなる。だが、流動する知識ワーカーも「位置と役割」を欲する。それを持てない時、人々の欲求のエネルギーは大きくマイナスに振れることがある。それが、オウム真理教に象徴されるような現象である。他方、阪神・淡路大震災のように、その欲求をプラスに向けることもできる。つまり、知識ワーカーの「位置と役割を求める」エネルギーは、マイナスにも、プラスにも振れるというのだ。

2.ナチスの批判的分析とさまよう人々

なぜ、ドラッカーはそのような考えに至ったのだろうか。なぜ、オウム真理教の若い幹部層をみて、すぐさま、日本社会は危ういと感じたのだろうか。その答えにたどりつくためには、第一次大戦前後に生きた、若いユダヤ人青年のドラッカーに着目する必要がある。

『経済人の終わり』(1939年)は、ドラッカーの最初の本格的な著書で、ナチスを批判的に分析した著である。ナチス・ドイツが前線する最中での執筆であるので、相当な覚悟がなければ記せなかったはずだ。ドラッカーは、大量の失業者と社会的排除の問題に着目する。

これらの人々の言動や家族関係などを観察しながら、「失業した人は、社会とのつながりが持てず、社会は半分しか見えない。半分しかみえない社会は恐怖でしかない」と述べている。そして、このような人々の不安を巧みに捉え、それを煽ることで、政権を掌握したのがヒットラーだった。そして、人々は、生活の安定のためであれば、思想の自由、言論の自由、経済の自由を放棄してもよいと考えるようになっていった。

ドラッカーは、ナチスについて「結局は、ドイツ市民が選んだのだ」と述べている。つまり、社会の中で「位置と役割」を持つことのできない人は、時に、恐ろしい選択をしてしまうことがあると述べているのだ。

3. 現代の知識社会とさまよう人々 ~人生100年時代に浮上する新たな層~

オウム真理教の若手幹部に、ドラッカーが関心を抱き「危うい」と指摘したのは、「位置と役割」をもつことができず、ナチスに傾倒していったドイツの人々に何らかの共通点を見出したからではないだろうか。それはまさに、「位置と役割」を容易に見出すことのできない、さまよう知識ワーカーのことではないか。だからこそ、ドラッカーは、彼らには会社以外のところで、「位置と役割」を見いだせる受け皿が必要であると述べている。

2017年現在、流動する知識ワーカーとは別の意味で「位置と役割」を必要とする年齢層が浮上している。人生100年時代といわれる中で、退職年齢に相当する60歳から75歳の層である。知的にも肉体的にも活発なヤング・シニアだ。だが、大抵の場合、退職すれば、職場に「位置と役割」を持たなくなる。仮に、「位置と役割」を見出すことができなければ、社会とのつながりが希薄になり、大きな不安を抱えるのではないだろうか。

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