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汚職腐敗の世界的3類型 ―賄賂要求型、労働対価型、贈賄側主導型― - 坂場 三男

 「世界でおよそ汚職腐敗が存在しない国はない」というのが20年近い年月にわたり諸外国を転々と渡り歩いて来た私の感想である。確かに、北欧諸国のように清廉度が比較的高い国もあれば、中南米諸国やアジアの共産主義国家のように汚職腐敗が目に余る国もある。しかし、それも所詮は程度の差であって、汚職腐敗は(悲しいかな)人間の本性に根差している。

興味深いのは、一口に「汚職腐敗」と言っても、世界各地で相異なる特徴のようなものが存在することである。贈収賄は基本的に権力と結びつく。勿論、ビジネスの世界でも経済的な利益誘導を目的とする贈収賄ないし過剰な接待はあるが、「民業の世界」にとどまる限り国家規模での政治問題に発展することはない。

 私は、最近の中南米諸国において多くの政権を揺るがしている大規模な贈収賄事件を観察していて、ラテンアメリカ世界に特有のパターンがあることに気付いた。それは「賄賂要求型」とも言うべきもので、権力(権限)の所在をちらつかせつつ、「金品を提供しなければ不利益を覚悟せよ」と脅すタイプである。

何やらテレビ・ドラマの時代劇に出てくる悪代官のようなイメージではあるが、ラテンアメリカ世界ではこれが国レベルでシステム(制度)化しているように思える。換言すれば「賄賂要求型」で、これが大臣、首相、大統領と地位が上になればなるほど、金額も大きくなる傾向がある。中南米諸国では大統領の任期が1期限定という国が多いので、在任中の4~5年間の間に蓄財に励む指導者がしばしば登場することになる。そもそも、「汚職腐敗の撲滅」をスローガンにする政治家の名前を私は聞いたことがない。

 これに対して、欧米諸国の場合は、建前として汚職腐敗は悪とされ、政治家は清廉でなければならないとの倫理観は一般化している。しかし、メディアの報道を見ていると、ここでも贈収賄事件は起きている。我々が欧米諸国を旅行していて最も煩わしいのがレストランにしろホテルにしろ従業員から何らかのサービスの提供を受けようとするといちいちチップを渡さなければならないことである。

これを怠るとサービスの質は劣化し、笑顔を見ることも出来ない。この習慣は政治の世界にも存在しており、労働・サービスの対価として高額のチップを要求するような贈収賄もどきの行為が生まれる。「労働対価型」とも言える金品の授受が行われている訳で、当人たちは「正当な経済行為」として内在する罪悪感を水で薄めているようなところがある。ただ、この場合、授受されている金品の額が巨額にはならないという救いはある。(ロシアが欧米諸国に入るか否かは微妙だか、パターンとして見れば、この国の汚職はラテンアメリカの「賄賂要求型」に入るような気がする。)

 では、我がアジアはどうであろうか。私の独断と偏見で言えば「贈賄側主導型」とも言える贈収賄の伝統があるように思える。庶民のレベルにおける「付け届け文化」・「贈答文化」は何らかの権力(権限)を持っている相手方に対して「ひとつ宜しく」という贈り手の思いを伝える手段だが、この文化は我々の生活の隅々に行き渡っており、従って、政治レベルにまで容易に発展する性質を持っている。

アジア、特に共産主義国家では、政権に権力が集中しており、許認可権限は権力機構の末端にまで分散しているので、贈収賄はあらゆるレベルで行われている。中国の習近平は反腐敗闘争(という名目の権力闘争?)を展開しているが、次々と出てくる汚職事件のすさまじさはあきれるばかりである。韓国でも家族ぐるみで権力の甘い汁を吸おうと大統領の周辺に人が群がるパターンが繰り返されている。

ベトナム、タイ、インドネシア等々皆同じである。ここで注目すべきは「家族ぐるみ」という点で、この特徴は中南米や欧米には余り見られない。収賄側からすれば、受け取った金品を独り占めすれば犯罪として指弾されるリスクが高まるが、家族や仲間の間で適度に分配すれば「有徳者」(?)の評価を受けることもある。贈収賄はアジアの伝統文化の一部という気もするが、さすがに民主主義時代の今日は公然と授受を繰り返すことは出来ない。そこには当然のリスクがある。

 ドイツに本部があるトランスパレンシー・インターナショナルというNGOが世界各国を調査対象とした「汚職腐敗度指数」というものを毎年発表している。今年1月に発表された2016年版によると調査対象176ヵ国のうち日本が20位、米国は18位で、(意外に)上位に位置している。中南米ではブラジル79位、アルゼンチン95位で、ペルーやヴェネズエラはさらに下位に落ちており、汚職腐敗が相当に深刻であることを示している。

欧州では、英国とドイツが共に10位と高位置にあるが、フランスは23位、イタリアに至っては60位と何とも不名誉な評価を受けている。アジアはどうかというと、韓国52位、中国79位で「中ないし中の下」の位置にあり、ASEANに至っては(日本より上位にいる全体7位のシンガポールを唯一の例外として)マレーシア55位、インドネシア90位、タイ101位、ベトナム113位という惨状である。

 勿論、汚職腐敗の客観的評価は難しく主観的・相対的なものにならざるを得ない。いわんや国別序列にどれほどの意味があるかは不明だが、汚職のパターンから地域的特徴(民族性・国民性)を見るのも意外に面白いのではないか。
坂場三男(さかばみつお)
 1949(昭和24)年、茨城県生れ。1973年横浜市立大学文理学部文科卒業。同年外務省入省。フランス、ベルギー、インド、エジプト、米国(シカゴ)等に勤務。外務本省において総括審議官、中南米局長、外務報道官を務める。2008年、ベトナム国駐箚特命全権大使、2010年、イラク復興支援等調整担当特命全権大使(外務本省)、2012年、ベルギー国駐箚特命全権大使・NATO日本政府代表を歴任。2014年9月、外務省退官。2015-17年、横浜市立大学特別契約教授。現在、JFSS顧問、MS国際コンサルティング事務所代表として民間企業・研究機関等の国際活動を支援。また、複数の東証一部上場企業の社外取締役・顧問を務める。2017年1月、法務省公安審査委員会委員に就任。著書に『大使が見た世界一親日な国 ベトナムの素顔』(宝島社)等がある。

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