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保育サービスの充実は喫緊の課題。しかし、その財源を借金で賄い、負担を将来世代に先送りするのは、ある意味で本末転倒 - 「賢人論。」第45回八幡道典氏(中編)

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前編「国の歳出増の最たる要因は社会保障費。その伸びを抑制していかないと社会保障制度も国の財政も持続可能ではない」で、社会保障制度の改革は日本の喫緊の課題であることを語った財務省主計局の八幡道典氏。社会保障費の抑制のためにも、様々なアプローチを検討する余地がありそうだった。中編では「子育て」「働き方改革」「地方創生」などの観点から、日本の財政の“今”を訊いた。※2017年7月10日付で金融庁に異動。肩書は2017年6月12日時点のもの。

取材・文/佐藤 舜(編集部) 撮影/公家勇人

待機児童の問題は解決に至っていない課題

みんなの介護 政府は、子ども・子育て分野にも重点的に予算を配分する方針を出しています。

八幡 社会保障の中でも子ども・子育て分野は、国の予算において非常に重要な分野です。特に保育サービスが十分でないと、働きたいと思う親の労働参加を妨げてしまいますね。すなわち、少子化対策、労働人口減少の問題への対応、どちらの意味からも、子育て分野は重要です。

みんなの介護 “待機児童”というトピックが取り沙汰されるようになって久しいですが、まだ解決には至っていないのですか。

八幡 確かに長らく言われていますが、残念ながら、待機児童はなかなかゼロになりません。もちろん保育所が充実すればまた働きたい親が増える、というイタチごっこの面もあるのですが、いずれにせよ課題の解決には至っていません。

みんなの介護 待機児童対策として何か新しい動きはありましたか?

八幡 一昨年、安倍政権が掲げた“新三本の矢”のひとつの柱が「子育て支援の充実」です。政府全体として、待機児童解消を加速させるというのは大きな課題のひとつです。消費税率引き上げによる増収分も、多くが保育サービスの充実に充てられていますし、質・量ともに子育て環境を整えることの政策的な優先度は間違いなく上がっていると思います。

みんなの介護 具体的な施策としては、保育所をつくるための予算をより多く割いていく、ということがメインになるのでしょうか?

八幡 よく間違えられがちですが、より問題なのは、保育所をつくること以上に、それを運営するための予算や人員の確保の方なんです。”ハコである”保育所をつくるというワンショットの話ではなく、保育サービスが適切に運営される必要があり、そのための財源や人員をどのように確保できるか、という問題が重要です。

保育サービスの充実が喫緊の課題であることは明らかなのですが、だからと言ってその財源を借金で賄うのかというと、そこはまたよく議論されるテーマのひとつです。喫緊の課題であるから借金しても仕方ない、という声も根強くあります。

しかし、子ども分野の施策の財源を借金に頼る――つまり負担を将来世代に先送る――というのは、ある意味で本末転倒です。喫緊の課題というのは、すなわち”今”の話であるのですから、現世代の負担で対応すべきです。将来世代は今はまだ声なき存在ですが、仮に彼らに尋ねることができたならば、同じ答えが返ってくるのではないでしょうか。


労働人口が減少する中で経済成長するためには労働生産性の向上は必須。働き方改革は、重要な課題

みんなの介護 少子化対策のひとつとして「移民政策をとるべきかどうか」という議論も盛んですが。

八幡 それに関しては、私自身にあまり定見はありません。少子化対策の議論の中では必ずテーマには挙がりますし、そういう意味では議論が盛んともいえますが、一方で具体的な検討が進んでいる感じでもないかなと思います。確かに国のあり方としてとても重要な話ですし、個々の役所ではなかなか議論が進まないテーマですから、メリット・デメリットも含め、国民的にしっかりと議論しないといけない話かもしれませんね。

みんなの介護 最近ホットなテーマとしては「働き方改革」もありますね。「プレミアムフライデー」や「ノー残業デー」を導入し始めた企業も増えてきましたが、まだまだ一般化しているとは言い難い状況です。

八幡 働き方を変えなければいけないということは、かなり多くの人が共有している感覚かと思います。でも、なかなか変わらないですよね。我々のような役所もまだまだです。先日まとまった「基本方針2017」でも、働き方改革は重要な要素になっています。

これは必ずしも予算でどうこうできる話ではありません。私の立場からは答えにくいような、答えやすいような話ですが、やはり日本社会の文化や慣行、日本人のメンタリティーとも相まって複雑な問題だと思います。 “サービス残業”という概念も日本独特のものですよね。5分でも残業したらその労働対価を主張していく、というような感覚は日本人にはあまりありません。

みんなの介護 ”日本人的”な感覚ではそういうことも難しそうですね。

八幡 私は、ドイツで合計5年間生活したのですが、例えばドイツの大手スーパーだと、閉店の5分くらい前からレジの人が帰る支度を始めていて、時間になった瞬間バタッとレジを閉じてしまう、なんてことも珍しくありませんでした。仮に少しでも定刻をオーバーすれば、しっかりと残業代を請求するでしょう。

私たちの感覚からすれば、少し違和感を感じますね。そこまでして時間通りに帰りたいとは思わないですし、スーパーに限らず、日本人には「仕事を残したまま帰るのは気持ち悪い」とか、「同僚に嫌だと思われたくない」とか、そんな感覚も強いかなと思います。

仮に残業代が出なかったとしても「まあ仕方ないか」というくらいの緩い感じの人が多いのではないでしょうか。良い悪いの話ではないのですが、あえて悪い方で言えば、働く側も経営者側も、コスト意識は薄いのかなという気がします。ドイツのスーパーの事例のようにギスギスするのが良いわけではないですが。

みんなの介護 労働生産性が低いというのはそういうこともあるのでしょうか。

八幡 そうですね。人口減少の下でも経済成長を目指すには、労働生産性を高めることは必須です。働き方改革は、そのためにも重要ですね。少子化対策の意味でも大きな柱ですから、しっかりと進めていく必要があるテーマかと思います。

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