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野党共闘 「理念と政策が違う」と敵視するのは疑問

今、野党は何を目指すべきか。

「自民党にとってかわる」のが野党の大目標であるのだから、すでに「失敗した」と見られている「民進党」という器にこだわらず、国政の転換のための野党勢力の大きな結集を実現し、一対一の構図を作り出すべき、というのは、前回の論考で書いた。

で、こういう書き方をすると、「理念なき数合せでは駄目」みたいな評論が必ず出てくる。それはその通りだが、しかし私が見ている限り、バラバラで遠心力ばかりが働いているように見える野党勢力だけれども、当面の政権政策となりうる政策の一致は、本当のところ、十分に可能であるように思える。

まず、前原新代表が政治生命をかけていると言ってもいい“ALL FOR ALL”についてだが、トリクルダウンに対してボトムアップを重視するその経済社会政策のコンセプトは、野党勢力には共有されているものであると思う。

ひと握りの富裕層が世界の富を独占し、それ以外の大多数の人達が不安と生活困難に陥りつつあるのは、全世界的に共通の現象である。米国ではそれがトランプ大統領を押し上げる原動力となり、英国では国民投票によるブレクジットをもたらし、欧州やイスラム圏では過激派勢力に身を投じるジハーディストを生み出す要因となっている。

そして、技術の進歩によって、この格差はいよいよ拡大する。人間の行なっている仕事の49%までがAIとロボットによって置き換えられると言われている時代だ(野村総研調査)。稀少なスキルや創造力の持ち主でない限り、定型的な労働は、いずれ機械に代替されるものとなり、定型的な労働しか提供できない労働者は、自らの市場価値を低下させる一方となる。つまりは働いても食べていけなくなるということだ。

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金融やIT(情報技術)など、賃金が力強く伸びてきた産業も多少ある。しかし、こうした産業が生み出す雇用は比較的少ない。金融は企業収益全体の25%を占めながら、雇用の4%しか生み出していない。金融業界は商取引の中枢を占めており、料金や手数料を好きに課すことができるからだ。一方、富と権力は引き続き、どの産業よりもハイテク業界へ流れ込んでいる。25%以上の利益率をたたき出している米国企業の半分はハイテク企業だ。だが、フェイスブックやグーグル、アマゾン・ドット・コムといった今日のハイテク界の巨人が生み出す雇用は、ゼネラル・モーターズ(GM)やゼネラル・エレクトリック(GE)のような過去の産業界の巨人と比べてはるかに少ないだけでなく、IBMやマイクロソフトのような前世代のハイテク企業と比べても少ない。
さらに言えば、企業の富の過半を支配しているのは、産業のトップに立つ業種だけでなく、トップ企業自身だ。最も収益性が高い米国企業の上位10%は、平均的な企業の8倍の利益率を誇る。1990年代には、この倍率は3倍にとどまっていた。
トップ業種とトップ企業が経済のパイのこれほど多くを獲得できる最大の理由の一つは、最もデジタル化が進んでいるのがこれらの業種、企業だからだ。これは2階層の経済が誕生することを意味している。非常に収益性が高く、富の過半を手に入れ、ごく少数の雇用しか生まない上流の階層と、低迷する下流の階層に分かれるのだ。
(英フィナンシャルタイムズ8月7日記事より抜粋)
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富を生み出すことのできる、価値あるスキルを有する労働者は限られてくる。労働の投入量の対価として報酬を得るという単純な比例関係はもはや成り立たなくなるだろう。なぜならばそれはAIやロボットがやってくれるからだ。

何らかの価値創造的な仕事を担える有能な少数の人々だけが「稼げる労働者」として残り、その人々へと世界の富が集中する。反対に、大多数の人々は、先進国・途上国を問わず、まずは全世界の労働者との競争、やがては機械との競争にさらされ、やがて働けど働けど稼げなくなり、ついには仕事そのものが消滅していくのだろう。その結果として、市場価値を失い、自前では稼げず、食べていけない人々が量産されるおそれがある。その人々をどうするのか。世界共通のテーマとなりつつある。

一方、医療と社会福祉の進歩により、世界中の人々はより長生きするようになる。人生100年時代。にもかかわらず、そこには仕事がないかもしれない。より多くの人々の生活が、公的な社会保障、つまりは再分配に依存する時代がやってくる。再分配機能の強化は世界各国の政府において不可避な選択と言わざるを得ない。

再分配機能の強化は、悪平等を生み、労働のインセンティヴを失わせるとの批判がいつもつきまとう。働いても働かなくても生活できるなら、頑張って働く意味がなくなる、といった意見は根強い。生活保護批判の多くはこの意見に根差しており、「車に乗っているのはけしからん」とか「贅沢させるな」とか、受給者は肩身が狭いことこの上ない。その結果、わが国では受給権がありながら受給しない世帯が生活保護対象世帯の7割にのぼっているとされる。

努力と労働が成功の条件であり、その対価として富がもたらされる。この幸せな等式が成り立っている限りは、成功/不成功、富裕/貧困の問題は、「当人がどれだけ頑張ったか」というモラルの程度の問題になる。この見方が主流を占める、いわゆる競争社会では、貧困世帯の人はただ生活が苦しいだけでなく、「努力が足りないからそうなる」と道徳的に劣位と見られる立場にも立たされてきた。

自己責任の結果として、成功/不成功、富裕/貧困がもたらされるならそう言えるだろうが、今の拡大する格差と貧困、それによる社会の分断は、自己責任の結果として身にふりかかっているものなのだろうか。そうではない、やむを得ざる経済社会の構造変化、労働と報酬との分離、それによって起きる人間の疎外、その帰結として、いびつなまでの格差と貧困の拡大、社会の分断が起きざるを得ないのだと考えるのが私達の立場だろう。その意味で、貧困を自業自得と考えるような、冷たい自己責任社会との訣別を訴えた、井手英策教授の問題提起は、まことに時宜にかなったものであったと思う。

で、これについては、野党勢力のどれもが、時局認識として共有しているのではないかと思われる。人間の生存を脅かすような行き過ぎた格差と貧困の拡大を是正するために、再分配機能を強化し、万人への生活保障を確保していく、それにより生活の安心を万人にもたらし、ためらいがちな消費意欲の開花につなげていく、それは自己責任の競争社会とトリクルダウンの経済成長を基本原則としている(としか思えない)アベノミクスに対置する経済社会政策の軸として、十分に共有できるものだろう。

私自身が早くから提唱してきたベーシックインカムの構想も、同様のコンセプトに基づくものだと言っていい。世界的にもベーシックインカムの社会実験が各国で行なわれるトレンドとなっている。ただしベーシックインカムの導入にあたっては、既存の社会保障の施策のスクラップアンドビルドとのセットで行なわれるべきであって、行政の簡素化をともない、「大きな政府」一辺倒でないところが特性である。ここのところについては、“ALL FOR ALL”として語られる子育てや教育や介護といった現物給付の社会保障サービスの無償化が、どのような財源的な陣立てで行なわれる構想であるのは不分明だが、ゆめゆめ増税容認の建前として語られるようなことはなきようにして頂きたいと思う。

いずれにしても、財源論や支給形態といったディテールの相違はあれど、これからの経済社会を展望し、定型的な労働の価値低下により、ひと握りの階層への富の独占と格差の拡大が進行し、大多数の人々が労働の対価として生活の糧を十分に得られなくなりかねない、結果として生活困難に陥りかねない、それにより格差と貧困の世代を超えた再生産という結果を招きかねない、という構造変化への対応のため、公的な再分配機能の強化により、政府が最低生活保障の責任を果たすことが求められるという認識は同じであろう。

この点については、離党した細野豪志代議士もコンセプトとしては賛同の意を示しており、その意味において、「理念と政策が違う」と断定的に敵視すべきものかどうかは、私はいささか疑問に感じる。私達が掲げる最重要政策で共通項を見いだせるのなら、それこそ、小異を残して大同につく、これまでの野党連携で語られてきたはずの、私の言うTHINK BIGを、恩讐を超えて貫くべきではないのだろうか。

(政策論は次回に続きます)

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