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28カ月連続増「黒ラベル」復活した理由

(Top Communication 撮影=高見尊裕、慎 芝賢)

近畿圏でサッポロビールの「黒ラベル」が売れ続けている。2015年のリニューアル以降、売り上げは28カ月連続で前年超え。特に20代男性では2年前の1.6倍に伸びている。「若者のビール離れ」が課題のなかで、40周年を迎えるロングセラー商品になにが起きたのか。営業の現場を追った――。

■「すべての元凶は自分たち営業マン」

「現場の営業自身が、『黒ラベル』を信じてあげられなかった。商品ではなく自分たちが元凶なんです」

サッポロビール営業本部西日本マーケティング統括部の田邊稔博さんは申し訳なさそうに、そして同時に未来への希望に目を輝かせた様子でそう語る。


サッポロビール営業本部西日本マーケティング統括部流通企画部、副部長の田邊稔博さん

会社の中に、商品の真価が理解されず、本当は売れ筋になるものが潜んでいることがある。「サッポロ生ビール黒ラベル」がまさにそんな商品だった。

2017年の夏も西梅田スクエアというJR大阪駅の真ん前に、期間限定の「パーフェクトビヤガーデン」が営業している。2017年で3年目になるこのビヤガーデンでは、提供の仕方を突き詰め、黒ラベルの生のうまさに徹底的にこだわった「パーフェクト黒ラベル」を味わうことができる。

1Fは英国にありそうなパブ風で、2FはテレビCMの「大人エレベーター」の世界観を再現し、エレベーター扉の先に完全予約制のプライベートバーが広がるという設計だ。

「ここはビヤガーデンではありますが、『一杯飲み』ができます。残業帰りの方や、少し飲み足りないという方が2軒目として立ち寄ってくださります」

パーフェクトビヤガーデンを運営する、ニューミュンヘンの上杉竜太郎専務はそう説明する。

黒ラベルを楽しんでいる客層は幅広い。20代、30代の若い世代が多く、女性や外国人も大勢交じる。40年前に発売された黒ラベルのシンボル「黒丸に星マーク」は年配世代には見慣れたものでも、若い人たちにはかえって新しさを感じ、「カッコいい」対象のようだ。

■「売れない」という決めつけを取り除く

ずいぶんと勢いを感じる黒ラベルだが、ほんの3年前までは「黒ラベルはそれほど売れるブランドではない」と近畿エリアの社員の誰もが思い込んでいた。03年に入社し東北で約4年間過ごした後、近畿圏本部に異動になった田邊さんも同じ思いだった。

「スーパーマーケットを担当していると、黒ラベルは自社のヱビスよりも売れていなかったので、さほど売れるブランドではないのだと勝手に決めつけていました」

ところがその5年後、営業に加えてマーケティングの仕事も始めるようになって驚くべきデータに出合う。スーパーでこそヱビスのほうが売れていたものの、コンビニエンスストアではヱビスの1.9倍、酒量販店では1.2倍売れていたのだ。


取材場所になった「パーフェクトビヤガーデン」を運営するニューミュンヘンの上杉竜太郎専務

「これが黒ラベルの本来の姿で、取り組みさえすれば必ず売れると思いました。でも、にわかには信じられないことなので、まずは営業担当者全員を巻き込んで、全体会議、エリア戦略会議、全体会議と繰り返し討議しました」

最初に手がけたのが社内の意識改革。

「売れない」という決めつけを取り除くのだ。黒ラベルを知るためのネタ本づくり、黒ラベルのジャンパーづくり、それと黒ラベルの売り上げを全員に人事考課の評価項目として義務付けた。

「ジャンパーのロゴは若手の営業担当者に作ってもらい、私たちだけでなくお得意様にも配りました。評価項目は通常は会社が設定した項目を挙げるのですが、初めて全員が黒ラベルを項目に入れたので、これはチャレンジでした」

社内で黒ラベルを売る機運を盛り上げながら、得意先にもアプローチ。積極的にバイヤーサンプリングを行った。毎回、商談のときに黒ラベルを持参し、「ご自宅で飲んでください」と渡した。

「しつこいほど黒ラベルを持っていきました(笑)。新商品のサンプリングを持参することはありますが、既存商品を毎回持っていくのは異例ですね」

■ビヤガーデンで爆発、熱い思いが飛び火する

田邊さんは社内の意識改革を通して、得意先の「黒ラベルは売れない」という意識を変えていく活動を展開する一方で、本社に2つのことを依頼した。一つが「大人エレベーター」のテレビCMに関西人を登場させること、もう一つが「パーフェクトビヤガーデン」を大阪でも開設してほしいという要望だ。

それまでは大がかりなイベントを実施するといったら東京と北海道だった。大阪のど真ん中でビヤガーデンを開くことが決まると、「自分たちの意見が通った」と営業はがぜん盛り上がった。


(上)パーフェクトビヤガーデン1Fの様子。
(下)後から泡を載せる“二度注ぎ”で最高品質の「パーフェクト黒ラベル」を提供する。


黒ラベルを売ろうという熱い思いは得意先にも飛び火していった。得意先を絞りながら、テスト展開してみると、やはり黒ラベルはヱビスよりも売れた。やがて以前は黒ラベルを置いてくれなかった店舗でも、黒ラベルの扱いが増えていった。その結果、近畿圏で350ミリリットル缶を取り扱う店は2年間で20%も増えた。

社員の本気と取引先の本気が重なり、ビール売り場で黒ラベルが動き出した。それと同時に、ビヤガーデンで「パーフェクト黒ラベル」のおいしさを体験した客が、店頭でも黒ラベルに手を伸ばすようになる。

「ビヤガーデンでは若手のメンバーが中心になり、夕方5時の暑い中でお客様をお待ちし、お土産を渡す作戦を自主的に行っていました。そういうところからも、お客様に親しみを持ってもらっているのでしょう」

いろいろな策がつながりながら効果を出し、黒ラベルは15年のリニューアル以降、近畿圏での売り上げは直近の2017年7月まで28カ月連続で前年超えした。30%以上伸びた月も珍しくない。年齢層では20代、30代からの支持が高く、とりわけ20代男性では2年前の約1.6倍の伸びだ。

近畿エリアの営業担当者たちは、40年間のロングセラーを再び活気づかせるという偉業を成し遂げようとしている。

■▼サッポロビール 高島英也社長
原点は世界随一のモノづくり「自分たちを信じるしかない」

サッポロビールという会社の源泉はビールづくりです。一番の象徴が黒ラベル。当社はビール大麦とホップの両方を育種(品種改良)から手がけています。ビールをつくるために農業からやっている会社は世界でもうちしかない。

ただし、モノづくりのプロセスがお客様の価値に変わらなければ何の意味もありません。それを今、自分たちを信じてやっているところです。


(上)サッポロビール 高島英也社長
(下)黒ラベルのCM「大人エレベーター」シリーズには俳優の妻夫木聡さんが出演。


一つが15年に「サッポロ生ビール黒ラベル」をリニューアルしたときに、脂質を分解する酵素を持たないビール大麦を増やしたことです。私たちは「旨さ長持ち麦芽」と呼んでいますが、脂質が酸化されないので時間がたっても味や風味が変わりません。そのうえ、ビールの泡が非常にクリーミーな状態をキープできるようになりました。

黒ラベルはさらにおいしくなりましたから、あとはお客様にそれを体験してもらうだけ。東京と大阪では夏季限定で「パーフェクトビヤガーデン」をオープンし、黒ラベルを味わってもらっています。さらに数日間、仙台や名古屋、福岡など全国8都市で「パーフェクトデイズ」のイベント会場を設け、黒ラベルを提供しました。

若い人たちへの訴求は、10年から一貫して「大人の☆生」をテーマに続けているCMの「大人エレベーター」シリーズも相乗効果を生んでいます。

お客様に「おいしい」と感じていただければ、家庭用商品にも波及します。実際、黒ラベルの缶も好調です。

私たちの黒ラベルへの自信がお客様へ伝わり始めている気がするのです。

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