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なぜ北朝鮮は米国の"報復"を恐れないのか

■ホワイトハウスでは「軍人」が力を増すが…

北朝鮮は6度目の核実験を強行することによって、ミサイル実験を受けて北朝鮮に対する圧力を高め、政策変更を迫ることで一致していた日米両国の対応を嘲笑うかのような行為を平然とやってのけた。


トランプ米大統領(右)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長。(時事通信フォト=写真)

なぜ、北朝鮮は米国による報復を恐れることなく次々と挑発行為を繰り返すのだろうか。その理由は米国に朝鮮半島において軍事行動を展開する外交・安全保障上のリソースが揃っていないことを見透かされていることにある。

対外介入に消極的であったバノン氏が首席戦略官を事実上更迭されたうえ、ホワイトハウス内の力関係が軍人出身者に傾いており、一部の有識者には米軍が朝鮮半島で軍事行動を起こす政治的な環境が生まれたと見る向きもあるようだ。ただし、トランプ政権を取り巻く情勢は単純なものではない。

朝鮮半島で軍事行動を起こすことは、シリアへの一時的な攻撃を実施することと次元が異なる。北朝鮮の背後には国境を接する中国・ロシアが控えており、プーチン大統領が警告する通り、北朝鮮の有事は大規模紛争に発展する恐れがある。

仮にトランプ政権が北朝鮮に対して軍事行動を起こす場合、軍事力の行使だけでなく対中・対ロを含めた東アジア地域全体の外交・安全保障戦略が確立されていることが前提となる。しかし、東アジア向けの外交政策を立案するためのトランプ政権の政治任用職の登用は一向に進まない。

特に韓国大使、東アジア・太平洋担当国務次官補、軍備管理と国際安全保障のための国務次官など、政権が任命するはずの主要メンバーは未確定のままだ。これはトランプ大統領が共和党系の東アジア地域の外交・安全保障の専門家らと大統領選挙の過程で対峙してきた結果、それらの人材を政権に登用することが困難になったことに原因がある。

■「北朝鮮以外」にも対応すべき問題は多い

トランプ政権の外交・安全保障上の関心は中東・南米・東欧等に傾斜しており、東アジア情勢を優先できる環境となっていない。

マクマスター国家安全保障問題担当大統領補佐官やマティス国防長官らは対イスラム・中東地域の専門家で、増派を決定したアフガニスタンへの対応やISIS壊滅後のシリア情勢安定化に向けた地上軍の駐留問題など処理しなければならない案件が山積みとなっている。

ケリー大統領首席補佐官は元南方軍司令官で、南米・ベネズエラの政情不安への対処に関心が高いだろう。彼らは米ロ関係が悪化の一途を辿る中で、9月半ばから予定されている東欧地域でのロシアの大規模軍事演習にも神経を尖らせる必要もある。国内を見渡してもテキサス州を襲ったハリケーンへの対応に忙殺されている状況だ。米国には北朝鮮以外にも対応しなくてはならない問題が多い。

北朝鮮への軍事力行使に関するトランプ政権の「本気度」は極めて低く、今後も米国独自の追加制裁や国連における石油禁輸を含めた制裁の提案という善後策が講じられていくことになるだろう。トランプ政権は北朝鮮情勢で主導権を持った交渉を展開するというよりも、同盟国の日本とともにある、というメッセージを発しながら、北朝鮮問題について日本を北朝鮮の矢面に立ててお茶を濁していくものと予測される。

安倍首相とトランプ大統領は蜜月関係を演出してきているものの、実際にはトランプ政権が東アジア情勢に関心が低かったことは明らかだ。

日本はミサイル防衛システム強化や通常兵器のさらなる拡充など、この状況に乗じて平時なら中ロに反対されそうな防衛力を整備するチャンスを生かし、トランプ政権に東アジア情勢に関する外交・安全保障上の人事を早急に進めることを要請するべきだろう。

その際、米国の東アジア戦略全体の青写真を日本に有利に設計するため、わが国にとって都合がいい人物の登用をトランプ大統領に呑ませるべきだ。従来の日米の連携を演出するだけの見せかけの文言を並べる行為は不要だ。安倍政権はトランプ政権に対して対米追従姿勢を取るだけではない本当に影響力を行使することができるのか。

(早稲田大学招聘研究員 渡瀬 裕哉 写真=時事通信フォト)

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