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北朝鮮のミサイル発射兆候 信頼できるのは“Aアラート”?


【北朝鮮が8月29日に打ち上げた「火星12」(写真:時事通信フォト)】

 東日本の広範囲で早朝に「Jアラート」が鳴り響いた8月29日。しかしほとんどの人はそのわずか4分後に上空を通過していく北朝鮮のミサイルに対し、何も対処できなかった。が、その危機を半日以上前から察知していたとしか思えない人物がいた。発射を受けて「ミサイルの動きを完全に把握していた」と胸を張った安倍晋三首相である。

「これは、(ミサイル発射が)分かっていたってことじゃありませんか?」

 北朝鮮の核実験が行なわれる4日前の8月30日、衆院安全保障委員会の閉会中審査で、民進党の後藤祐一・代議士が、安倍首相が公邸に宿泊する“タイミング”について質問した。

 安倍首相が8月に公邸に泊まったのは25日と28日の2日のみで、いずれも翌朝に北朝鮮がミサイルを発射していた。そのため、“事前にミサイル発射の情報が入っていたから前泊していたのでは?”という疑惑を指摘したものだった。

 質問を受けた西村康稔・官房副長官は、「まぁ、様々な判断のもとで公邸に泊まるという判断をされていると思うので、そのようなことだと思う」と答弁。

 それに対して後藤氏は、「“様々な判断”というのは非常に含蓄のある答弁でございますが、まぁ、分かっていたというように見えますよね。良いことなんですよ。ただ、バレバレになっちゃいますから、普段からちゃんと公邸に泊まった方が良いと思います」と皮肉を交じえて質疑を終えた。

 翌日、菅義偉・官房長官にはマスコミから同様の質問が相次いだが、「事柄の性質上、答えることは控えたい」と煙に巻いた。

 西村氏や菅氏はいずれも肯定も否定もしていないが、そもそも北朝鮮のミサイル実験を事前に把握することは可能なのか?

 これまで北朝鮮は日本上空を通過するミサイルについて、国際海事機関などに打ち上げの期間や発射時間、落下予定海域を事前に通告していた。その際は「人工衛星の打ち上げ」などと申告してミサイル実験してきたが、8月26日と29日は19年ぶりの「無通告発射」だったとされる。

 それを安倍首相が事前に把握していたとすれば、どういう情報入手ルートが考えられるのか。安全保障に詳しいジャーナリストの織田重明氏が解説する。

「北朝鮮内の動きは米国が軍事衛星などで監視しています。発射場周辺を警戒警備する保安部の活動が活発化してきた、金正恩の護衛部隊が発射場の近くを視察しているなどの情報が“発射の兆候”として報告されています。

 8月のケースは、ICBMに液体燃料を注入している様子が見られたことがきっかけだったと言われています。液体燃料を入れるのに1~3時間かかり、腐食を避けるため遅くても一両日中には発射しなくてはならない。こうした動きを米軍が把握後、ただちに在日米軍司令部から自衛隊の統合幕僚監部に通報。防衛省経由で官邸に上げられ、“今日か明日には発射される”という認識が官邸で共有されていたのではないでしょうか」

◆なぜ国民に教えないのか

 8月25日は、安倍首相は夏休み明け初の公務日だった。午前9時55分に公邸に着くと、来客などの対応をしてから午前10時30分に韓国の文在寅大統領と40分間の電話会談を行なっている。

「ミサイル発射兆候については日米韓で共有していますから、この時点で把握していた可能性が高い。さらに午後3時頃からは谷内正太郎・国家安全保障局長や防衛省の前田哲・防衛政策局長、河野克俊・統合幕僚長らと面談しており、対策を協議したのでしょう。28日は、二階俊博・幹事長や岸田文雄・政調会長、菅官房長官らと夕食を共にしていますが酒をあまり飲まなかったのは、翌日の対応を考えてのことではないか、と見られています」(防衛省幹部)

“予習”の賜物か、26日、29日の両日とも安倍首相は北朝鮮のミサイル発射直後に官邸で記者団の取材を受け、その後、国家安全保障会議に出席するなど迅速な対応を見せた。

 だが、国民としてはミサイル発射の兆候を得た時点で教えてほしいというのが本音だろう。29日の早朝、Jアラートが警報を鳴らしたが、日本上空を通過するわずか4分前では、何の対応もできない。ただし、それは決して国民には知らされることはないのだという。

「米軍との軍事機密協定があるため、情報は公開できません。それにミサイルがどこに向けて飛ぶかもわからない状態で発表すれば、無用な混乱を招くことにもなりかねない。現状は北朝鮮が事前通告したものはマスコミを通じて“発射の兆候”などと報じられることがあるが、それ以外の公表は困難でしょう」(前出・織田氏)

 国民ができ得る現実的な対策は、通信社や新聞社がインターネットで速報する「首相動静」を見ることかもしれない。安倍首相が公邸に宿泊した翌日、北朝鮮が何らかの動きを見せる可能性があるということになるからだ。滅多に公邸に泊まらない安倍首相であればなおさらわかりやすい。

“A(安倍)アラート”は、Jアラートよりは役に立つか。

※週刊ポスト2017年9月22日号

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