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特集:北朝鮮の核とミサイルを考える

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この2週間で、日本を囲む安全保障環境は大きく変化しました。8 月 29 日早朝に北朝鮮が発射した中距離弾道ミサイルは、北海道上空を超えて太平洋に落下しました。そして 9月3日には、6度目の核実験が行われました。米中による暗黙の「レッドライン」は、あっけなく踏み越えられてしまった模様です。

北朝鮮の軍事的能力は格段の進化を遂げていて、国際社会がどう対応するかはまことに悩ましい。とはいえこれは昔からの脅威を、米国などが無視してきた結果でもある。今回はいよいよ逃げられなくなったのか。「核とミサイル」について考えてみました。

●日本:米朝のどちらが怖いのか

傑作なマンガを発見した1。米朝の両巨頭が、巨大なミサイルを抱えて立っている。そしてこんな会話を交わしている。

金正恩「気をつけな。俺は危険なうえに、何をするか分からないんだぜ」(Watch out. I am dangerous and unpredictable..!!)
トランプ「俺もだよ」(So am I..!)

よく見ると、トランプ大統領の長過ぎる赤いネクタイが地面に垂れ下がっていて、それを金正恩委員長が踏みつけている。つまり北朝鮮が米国の「レッドライン」を越えている。
Dangerous で Unpredictable な者同士、次の瞬間には果たしてどうなるのやら…。

 真面目な話、日本にとって北朝鮮からミサイル(だけ!)が飛んでくるリスクは、それほど怖いものではない。国内に命中したら確かに痛いけれども、よほど変な所に落ちない限り大事には至るまい。核搭載の場合は重大な脅威となるが、核兵器をミサイルに乗せて運んで、確実に起爆させるまでの技術は、北朝鮮はまだ持ち合わせていないものと見られている。だったら発射のたびに J アラートで大騒ぎする必要はなくて、「今日は隕石が降ってくるらしい」くらいに緩く構えていればいいはずである。

 むしろおっかないのは、「北朝鮮の本気よりも米国の本気」である。すなわち本当の北朝鮮リスクとは、「米国が軍事オプションを行使するかもしれない」ということなのではないか。本誌の前号でお伝えした通り、スティーブ・バノン首席戦略官(当時)は、”There is no military solution, Forget it.”「北朝鮮に対する軍事的解決などない。忘れろ」(最初の 30 分間にソウルの 1000 万人が通常兵器で死んでしまう)と断言していた2。韓国国内には、米国の民間人も多く住んでおり、その数は 10 万人と言われている。リスクを冒すつもりがあるなら、まずは自国民に対する退避勧告から始めなければならない

 加えて言えば、米軍が軍事攻撃に踏み切った瞬間に、北朝鮮軍が日本海に向けてノドンを撃ちまくるかもしれないし、難民の大量流出の怖れだってある。中朝国境は大変なことになるだろうし、海を越えて日本にやってくることもあるだろう。米国の軍事オプションは、周辺国に大波乱をもたらしかねないのである。

 トランプ大統領は就任後になってから、北朝鮮の危険性を学習したようである。その後の試行錯誤は、軍事的圧力、経済制裁の検討、中国への関与など、歴代の米政権がやってきたことを一通り繰り返した。結論は「迂闊に手は出せない」であり、その思考経路は間違ってはいない。

 最初に北朝鮮の核開発が表面化したのは 1994 年のこと。当時のクリントン政権は軍事作戦を真剣に検討したが、このときはカーター元大統領の仲介によって危機は回避され、米朝枠組み合意ができた。ところが核開発停止の見返りに、軽水炉の建設と重油を提供するという約束は、結果的に北朝鮮に「食い逃げ」されることになる。

 その次のブッシュ政権は、中国が主導する「六か国協議」によって北朝鮮の動きを封じようとしたが、これは時間稼ぎの機会を提供しただけだった。オバマ政権は「戦略的忍耐」で、これまた実態は「見て見ぬ振り」であった。この間に、北朝鮮の軍事技術は長足の進歩を遂げてしまった。米国がこれから軍事行動に訴えるとしたら、「本降りになって出ていく雨宿り」という川柳の通りになってしまう。

特に 8 月 29 日の弾道ミサイル発射の直後、9 月 3 日の核実験が重なったことの意味は重い。ここまで来ると、核兵器を積んだ ICBM が米国本土に届くのは時間の問題と考えなければならない。他方、今からサージカルアタック(外科手術的攻撃)を行ったとしても、すべての核施設を破壊することは容易ではないはずである。

●米国:軍事オプションから直接交渉まで

 それでは米国はどう出るのか。軍人的なリアリズムから言えば、「これから未来永劫、米国は北朝鮮の核という脅威と共存しなければならない」という事態は、何としても避けたいと考えるだろう。この先、待っていても状況が改善する見込みはまったくない。そして「作戦の中心となる太平洋軍は、ワシントン政治の影響力からは完全に独立している」と言われている。たぶん入念な戦争計画が立案済みであると考えるべきだろう。

 それでは具体的にどんな手段があるのか。8 月 30 日の日本経済新聞”Deep Insight”ページで、秋田浩之コメンテーターが寄稿していた「北朝鮮、第 3 のシナリオ」という記事が役に立つ。軍事オプションとして、①全面攻撃、②限定的な空爆、③特定の標的に対する秘密作戦、の 3 パターンが考えられるという。①は核やミサイルを除去できる可能性があるにせよ、あまりにも犠牲が大きくなるので考えにくい。むしろ③は「あり得る」との見方が多いという。

 具体例として、「北朝鮮の通信網を破壊したり、潜水艦をひそかに沈めたりすること」が挙げられている。それだけでは核とミサイルの排除は困難だが、さらなる挑発を止めさせることは期待できよう。記事にはさりげなく、「米軍首脳はすでに約 10 通りの作戦案をまとめ、ホワイトハウスに提示したという」との記述がある。議会とハリケーンの対策が山場を過ぎたところで、来週にもトランプ大統領が決断するかもしれない。

 それでは外交はどうか。純粋に「アメリカ・ファースト」原則で考えるならば、米国が米朝 2 国間の交渉に乗り出すことが論理的な帰結となる。その上で北朝鮮の核保有を認め、相互不可侵を確認し、代わりに長距離ミサイルの開発を止めさせることが「落としどころ」となる。この場合、日本と韓国はまったく蚊帳の外に置かれるし、引き続き北朝鮮の短距離ミサイルや核兵器の脅威にさらされることになる。日本外交としては「それだけはご勘弁を」と食い下がらねばならないところである。

 既に 5 月 3 日時点で、ティラーソン国務長官が「4 つのノー」を宣言している。これは米国として、①北朝鮮の体制転換を求めない、②金政権崩壊を求めない、③朝鮮半島統一を急がない、④北緯 38 度線越えて米軍が侵攻を目指さない、というもの。従来の路線から言えば、米国側が大きく譲歩したと言うべきである。

 ところが金正恩委員長は乗ってこなかった。数年前であればともかく、これだけ軍事的実力をつけたのだから、体制保証だけではなく、核保有国として認めてくれなければ嫌だ、といったところであろう3。いわば掛け金を釣り上げてきたようなもの。これが先代の金正日総書記の時代であれば、既にハワイかどこかで米朝直接交渉が始まっていたかもしれない。それはそれで、日本にとっては悪夢のシナリオとなるのだが。

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