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児童虐待とカント

■なぜ児童虐待は(親から子へと)連鎖してしまうのか

児童虐待の数が過去最高の12.2万件でその半数が心理的虐待(言葉の暴力)だと報じられてから(児童虐待、過去最多12.2万件 5割が「心理的虐待」)しばらくたつが、僕はずっとその児童虐待の「連鎖」について考えている。

虐待が生じてしまう神秘的な「瞬間」については、中途半端ながら当欄でもとりあげてきた(虐待「発生」の瞬間を語ることができるか子どもへの暴力のその瞬間、あなたの筋肉はどう動いているのだろうか)。

この「暴力の発生」というテーマについては引き続き考察していきたいが、これとは別の「発生」の問題も児童虐待にはつきまとう。

それは「連鎖」の問題であり、

なぜ児童虐待は(親から子へと)連鎖してしまうのか

という直球の問いだ。

■この違いはどこから?

児童虐待の本には、虐待は連鎖すると書いてあるし、僕も現場でかかわっている中でそれは実感する。

これまではその原因として僕は、経済階層ごとの「しつけ」と「暴力」の定義の違いという点で主として説明してきた(虐待連鎖の切断のための、ビートルズ)。

だがここには、そうした硬い価値(しつけは暴力ではない)をなぜ虐待親子は受け継いでいくのかという問いの答えはない。

ある行為に関して、それをしつけとみなそうが虐待とみなそうが、なぜその人(虐待を受けた子ども)が大人になって暴力(虐待)をするのかしないのかの理由にはなっていない。

その暴力をしつけとみなす人でも親になってから暴力をふるわない人もたくさんいるし、虐待してしまう人もいる。また、しつけではなく暴力と捉える人でも虐待してしまう人=親もいるし、虐待しない人もいる。

その行為(人によってはしつけ、人によっては虐待)の捉え方はさておき、実際に子どもの「規範以前」の行為(それをわがままと捉える人もいれば、「人間以前」の行為と割り切ってしつける人もいるだろう)に接した時、暴力(どなることを含む)に出る人とそうではない人(諭したりユーモアでくるんだり)がいる。

同じ暴力を受けた人が大人=親になり、よくわからない子の行為に直面した時、殴ったりどなったりする人と、諭したり笑ったり見守ったりする人がいる。

この違いはどこからくるのだろうか。

■美しくないから

ということを知り合いの支援者に訪ねてみたら(よく知られる高校居場所カフェを運営するIさん)、それは「美意識」の違いでは? という答えが帰ってきた。

怒鳴ったりたたいたりすることは、たとえ自分がその被害者だとしても、自分が親になった時は絶対にできない。

それはつまり、かっこ悪いから、哲学風に言い直すと自分がたとえ暴力の被害者だとしても同じことを自分の子にしてしまうのは、

美しくないから

だから、そうした行為はしないのだそうだ。

なるほど、暴力は美しくない。つまりは醜いし、ダサい。

ではどうして、その醜くダサい行為をダサいから絶対自分の子どもにはふるわないIさんみたいな人もいれば、そんなに細かく考えず衝動的に暴力を子にふるったりもっと正当化して「しつけ」的にたたく人がいるのだろう。

そのふたつ、暴力=ダサいという考え方、暴力=倫理基準になるほど厳密な行為ではなくそれは日常の中に埋没した「フツー」の行為という考え方の違いはどこで生まれるのだろうか。

■カントにたどり着きたい欲望

これが定義できれば、児童虐待の連鎖を予防できると僕は思っている。

虐待を悪いことと本心では思わない若い親たちに「矯正」しようと思ってもそれは困難な取り組みになるが、虐待=ダサいという価値を受け入れることができれば自ずとその行為はなくなる。

僕としては連鎖の源泉は美意識だけでもないと思っている。もっと単純な、「痛み」への鈍感さ、みたいなものも大きいと思っている。1.規範(しつけか暴力か)や2.美意識(カッコいいかダサいか)とともに、3.「他者の痛みを感じることができるかできないか」という自己/他者の問題ではないか、ということだ。

そう考えると、1はカントの『実践理性批判』、2もカントの『判断力批判』につながり、そして1はあの『純粋理性批判』にもつながるのではないかという、大それた妄想を思い描く。

児童虐待は思わずカントにたどり着きたい欲望をいだくほどの、ヒトにとって謎な行であることも確かだ。★

※Yahoo!ニュースからの転載

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