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子供たちがそこにいるだけで立派である理由

アウストラロピテクスの家族

半年ほど前、ある小学校の全校生徒向けに、「家族について」というお題で特別授業を依頼された。カリキュラム的には「道徳」の一貫だ。各教室での授業では、自分が生まれたときのことを親に聞いて育ててくれたことに感謝しようとか、家族の一員としてお手伝いをしようみたいな話をしたようだ。両親がいない子供はいるだろうし、複雑な家庭事情を抱えている子供もいるだろう。いろいろな家族の形があることは前提としたうえで、僕からはあえてこんな話をした。

「僕も一応親として子育てもしているけど、子供に感謝してもらいたいなんて思っていないよ。むしろうちに生まれてきてくれてありがとうだよ。たぶんみなさんのお父さん、お母さんもそうだと思う。あれこれやってもらったんだから感謝しなさいというのは他人同士の関係って感じだよね。他人同士だったら何かしてもらったら感謝の気持ちを伝えないと、関係は維持できないよね。

家族同士だって感謝を伝え合ったほうがいい。でも家族というのはたとえ『ありがとう』と言ってもらえなくてもその人のためになることをしてあげようと思ってしまう関係なんじゃないかな。逆に、あれこれしてあげたんだから感謝しなさいという大人は“まゆつば”だよ。そういう大人が寄ってきたら、気をつけたほうがいいよ」

「ありがとうというのなら、親だけじゃないよね。親の親、つまりおじいちゃんやおばあちゃんがいなかったら、キミたちは生まれていないよね。ありがとうだよね。さらにおじいちゃんやおばあちゃんのまたその親もいなければ、今日ここにキミたちはいない。僕もいない。計算してみよう。親の親の親の親……というふうに10世代さかのぼると何人の親が必要かな。

1000人を超えるんだよ。30世代となると、1億人を超えるんだよ。それだけの親の存在があって、僕たちは今ここにいる。みんなにありがとうだよね。さらにいえば、人間だけじゃなくて、動物や植物にもありがとう、お日様にも宇宙にもありがとうだよね。感謝をしなくていい相手なんていないよ」

「お手伝いって誰のためにするの? たしかにキミたちがお皿洗いやお買い物の手伝いをすれば、お父さんやお母さんもそのときは助かる。でもいちばん得するのは自分たちだよね。だってお手伝いをすることで、将来の生活で本当に役に立ついろいろなことができるようになるんだから。だとすると、親のためにお手伝いをするって、何か変だよね。自分のためじゃん。

じゃあ、キミたちが親への感謝の気持ちを込めてできることって何だろう。キミたちは毎日自分らしく生き生きとしていればそれでいいんだよ。それを見ているだけで、お父さんもお母さんも力が湧いてくるんだ。強くなれるんだ。

多くのお父さんやお母さんは社会の中で人の役に立つお仕事をされていると思うし、それはとっても立派なことなんだけど、実はお父さんとお母さんがそうやって立派に働けるのは、キミたちがいるということがとっても大きいんだよ。だからキミたちはキミたちでいるだけで世の中の役にも立っているんだ。キミたちはすごいんだよ」

「感謝」って押しつけがましく教えることではないと思う。大人が「感謝」する姿を見ることで、子供も「感謝」の気持ちやその表現方法を学ぶ。

「勤労」によって直接的に世の中の役に立つことはもちろん立派だけど、人はただそこにいるだけで間接的に世の中の役に立つこともできる。「働かざる者食うべからず」は弱者を包摂することで生き延びてきた人類の生存戦略にも反する。

「道徳」の仮面を付けた、「社会的強者に都合の良い思想」の刷り込みにはご用心を。

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