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体罰が「ケースバイケース」で許されてはいけない理由 - 網尾歩 (ライター)

 ダウンタウンの松本人志といえば、昔は一言で常識を覆すキレの良さを持っていたものだが、今やテレビの前で悪態をついているおっさんと変わらない。

「子どもには暴力で言うことをきかせていい」は大人側の論理

 何か事件があるたびに議論されるのが教育現場でのいじめや体罰問題。10~20年前にはそれこそ、「いじめられる方にも問題がある」「体罰にも愛がある」なんて言説がまかり通ってきたが、さすがにここ最近は、いじめや体罰は悪である、という認識が広まりつつあるように見えた。ようやく。

 しかし、ジャズトランペット奏者の日野皓正が壇上で男子中学生の髪をつかみ、往復ビンタしたと報じられている件では、「体罰は絶対に許されないことなのか」という議論が再燃している。男子生徒がコンサート中に身勝手な演奏を続けたため、仕方のない処置だったという論調もある。

 もしこれが、会社の中で上司から部下へ行われたことであればパワハラであり、暴行罪もしくは傷害罪に問われる事件になりかねない。たとえ部下が仕事上で暴走したとしても、それを暴力で罰していいという話にはならない。それなのになぜ、指導者から子どもに対して体罰が行われるときだけ、「アリかナシか」の議論になるのか。

 それは、「子どもは言葉で言ってもわからない存在だ」「だから体で教えてもいい」という認識を一部の大人が持っているからではないか。自覚的にしろ、無自覚にしろ。

 確かに大人に比べて子どもは判断能力に欠けるところがあるだろうし、自分の欲望を理性で止められない部分もあるだろう。「子どもには言葉で言ってもわからない」は、実際に子どもを育てたり指導したりしたことのある人の多くが抱える実感かもしれない。しかし、「だから体で教えていい」は、おかしいだろう。なぜ大人から子どもに対してだけ、暴力が条件付きで容認されるのか。それは大人側の論理ではないのか。

「なぜ今はダメで昔はよかったのか」の答えは出ている

 この件について、ダウンタウンの松本人志が、レギュラーコメンテーターとして出演する「ワイドナショー」で、「わりとシンプルに、この中学生の彼が叩かれたことを『クソ!』と思ったとしたら、指導として間違えていたんじゃないですか? 反省を本当にしたのであれば指導として正しかったんじゃないかなと思うから、中学生の心の中が答えだと思うんですよね」と発言した。

 これはかなり問題のある発言だ。体罰を受ける側の反応によって体罰がアリかナシかが決まるのであれば、体罰を行う側はいつでも「こいつと俺の関係ならアリのはず」という見切り発車で暴力を行っていいことになる。実際、日野は事件後の取材に対して、男子中学生が自分の楽屋に謝罪に訪れたことなどを挙げ、「俺と彼との間には親子関係に近いものがあり、問題はない」とも語っている。

 また、体罰を「ケースバイケース」で、「許される場合もある」と大人が口にすることの危険性を、松本や松本の意見の賛同者は気付いていないのだろうか。体罰がケースバイケースで容認される世の中であれば、図々しい加害者ほど「自分は体罰をしてもいい」と思い込むだろう。子どもを虐待死させてしまった親が「しつけのつもりだった」と弁解することはよく知られている。

 スタンフォード監獄実験の例を挙げるまでもないが、人は与えられた権限によって増長する。しかも教育現場は「密室」の状態になりやすい。いったん暴力の権限が与えられたとき、それを行使せずにいられる人の方が少ないだろう。教育現場での指導者と被指導者の関係の危うさ、構造の中での強弱関係を認識していない人だけが、したり顔で「ケースバイケース」を口にする。

 人間というのはときとして感情的になるものだから、言うことをきかない子どもに暴力を行使したくなる衝動を理性で止められないこともあるだろう。普段、「いい先生」と認識されている人が「ついカッとなる」ことはあると思う。しかし、それを行ってしまった大人がやるべきことは、「正当性のある暴力もある」と主張することではなく、素直に「手段として暴力を選んだことを謝罪する」ではないのだろうか。

 さらに松本は、「我々世代の人はすごく体罰を受けたけれど、今の時代ではそんなものありえへんってみんなよく言うじゃないですか? でも、なぜ今の時代にありえないのか、明確な理由を誰も言ってくれないんですよ」「なぜ今はダメで、昔はよかったのか、明確な理由が分からないんですよ」とも語っている。

 なぜ今はダメで、昔はよかったのか。こんな問いの答えは簡単だ。昔は今のように子どもの人権が守られていなかったから、体罰を辞めてほしい側の意見が通らなかったのだ。国連で「子どもの権利条約」が採択されたのは1989年、日本が批准したのは1994年。松本の子ども時代には、「子どもの権利」の概念がそもそも広まっていなかったのだ。子どもの権利なんて昔だって守られていたと主張するのであれば、それは不勉強が過ぎるだろう。

 松本は続けて「体罰を受けて育った僕らは今、変な大人になってないじゃないですか? なんなら普通の若者よりも常識があるわけじゃないですか?」とも語っている。絶句である。体罰について「今はダメでなぜ昔はよかったのか」程度の問いについて、周囲の誰からも回答をもらえない(もしくは、遠回しに諭されていても気付かない)大人が、常識があってまともなのだろうか。かつて若者から絶大的に支持されていた芸人がただの老害となっていく瞬間を、私たちは目撃している。

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