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「あたりまえの日々を生きたいだけです」――福島の住民の小さな声を聴く / 服部美咲 / フリーライター

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福島の人びとを苦しめている、デマや偏見による理不尽な差別があります。「STOP!福島関連デマ・差別」がお届けするシリーズ「不条理の壁を越えて」では、そうした経験をひとつずつ丁寧に集めていきます。

はじめに

東京電力福島第一原発事故が起きた2011年3月以降、放射線等の計測と公表が徹底された。現在でも福島県内全域にいわゆるモニタリングポスト(リアルタイム線量測定システム)が設置され、県の公式ホームページでも空間線量値がリアルタイムで公表されている。県内で収穫されたコメは出荷前に全量全袋検査を受け、土壌の検査も継続されてきた。

線量の計測とともに、農地の除染も徹底され、コメの出荷前測定で基準値100Bq/kgを超えるものは2015年から0袋となり、その他の流通する農産物も基準値未満であることはもちろん、検出されるものすらほとんどないという状況が達成されている。

こうした除染や生産の現場ばかりではなく、福島県民一人ひとりが未曾有の震災と原発事故から立ち上がり、新しい日々を歩もうとしている。今回はそんな住民の一部の声を伝える。

「福島県民は来るな」

突然投げつけられた言葉に、aquaさん(仮名・40代女性・福島県郡山市在住)は雷に打たれたように竦んだ。首都圏の巨大テーマパークの長蛇の列を予想した長男(小学校6年生)が、いわゆる「位置ゲーム」と呼ばれる、GPS機能を利用して仮想空間でユーザー同士がデータの交換をしながら遊ぶゲームを開始した直後の出来事だった。同じゲームをしていたらしい小学生が、同じ列の中から鋭い声を発した。

「福島県民、来るなよ!」

「あとから考えてみれば、子どもの言葉でしたし、深い意図はなかったのかもしれません」とaquaさんは振り返る。それでも母子はその「何気ない言葉」に強いショックを受け、その後混乱が長く尾を引いた。

「悪意はなかったのかもしれない」「たまたまプロフィールに福島県としたユーザーが大勢ゲーム画面に表示されたのかもしれない」等のショックを打ち消す考えも浮かんだが、一方で「大人が日頃福島のことを悪く話している影響を受けたのかもしれない」「たまたま一人出会ったということは、見えない差別は想像以上に広がっているのかもしれない」とも思え、気持ちが落ち込んだ。

長男は今もってこのときの体験を外では話しておらず、aquaさんが理由を訊くと「福島の友だちに言ったら、嫌な思いをするだろうから」と答えたという。

「私の6年が吹き飛ばされた」

福島第一原発事故当時、aquaさんの長男は幼稚園卒業間近だった。県外に親戚がいたり経済的に余裕があったりした家族は原発事故の直後に一時避難をしやすかったものの、そうではない家族は避難に踏み切れない場合も多く、情報が錯綜していた原発事故直後は、必ずしも不安が拭い切れないまま県内での生活を続ける若い母親も少なくなかった。

「放射線、こわい?避難する?」というaquaさんの質問に、長男は「怖いけど、友だちが皆ここにいるから、僕もここにいる」と答えた。その言葉を聞いて、「福島でこの子を育てよう」と覚悟を決めたaquaさんは、インターネットや書籍などで当時まだ少なかった放射線の情報を集め始めた。

そんな中で2011年の秋、「もともと人間の体には6000ベクレルくらい放射性物質が含まれている」と知り、「なんだ、私も放射線を出しているのか」と目から鱗が落ちるような感覚を味わった。それをきっかけにaquaさんは「わずかな線量に怯える必要はない」と気づき、多くの同じように不安を抱える人たちにそのことを伝えたいと考え、自身も放射線の勉強会などの準備に関わるようになった。

放射線の勉強を続けながらも、aquaさんの生活の中心は長男の成長だった。中部大学の武田邦彦特任教授やフリージャーナリストの岩上安身などの著名人までが福島の住民に対する心ない中傷を広めているという状況の深刻さを見て、「将来わが子が福島に生まれ育ったことをどう受け止めるだろうか」と不安を感じた。

そこで、今後県外に出ても、「福島に生まれてよかったのだ」と子どもが思えるように、震災と原発事故があっても変わらないふるさと・福島の文化を子どもに伝えていこうと考えた。2013年11月、東北各地の郷土色が顕れる「芋煮」を食べる「芋煮会」を郡山市で企画したところ、東京など県外からの参加者も集まった。aquaさんにとって、長男や福島の子どもたちと県内外の参加者が一緒に福島の郷土料理を囲む姿と、何より震災前と変わらず屋外で芋煮会を開催できたことが喜びと安心につながった。

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しかし、原発事故の後、他県のガソリンスタンドで「福島ナンバーお断り」と貼り紙があったという話や、「福島から一刻も早く避難するように」と呼びかける団体の言葉、また「福島で子どもを育てる母親は人殺しだ」などの中傷、さらには県外で福島から避難してきたことを理由にしたいじめのニュースにも触れ、知らず神経がすり減り、過敏になっていたのかもしれないと前置きした上で、「自分なりに頑張って、一所懸命に強くなろうとしてきたつもりでした。でも、あのたった一言で、私の6年が全て吹き飛ばされたような気がした」とaquaさんは小さな声で呟いた。

一般に、いじめや家庭内DVなどの慢性的な心的外傷を長期にわたって受け続けると、関連したわずかな刺激が引き金となって強いショック状態やうつ状態を引き起こすことが知られている(Herman, 1992)。また、福島県立医科大学の教授でPTSDを専門とする精神科医前田正治氏によれば、「人との関係性の中での傷つき体験は最も高頻度でPTSDを発症する」という。

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