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入社と葛藤

最初は「青田買いの何が悪い?」の一部だった自分語りが論旨と関係ないので分割・加筆する。久しぶりに自分が働き始めた頃のことを思い出しながら、在学中に就職するとはどういうことか考え直してみた。僕は1998年2月、20歳の時に学部2年の終わりで前の会社に入社した。2002年10月、25歳で今の会社に転職したから4年半ほどお世話になった訳だ。
ところで僕が働き始めたのは就職してからではない。大学が決まってすぐフリーランスで働き始めた。高校時代はアルバイトしてたし、浪人中から秋葉原で名を馳せて(?)仕事をくれるという人が周りにいたのだが、あいつに仕事を出すと大学を受験しなくなるというので、とりあえずどっかの大学に入るまでは仕事を出さないという就職協定(?)が敷かれた。だから大学の合格通知を貰うや否や翌日には喜び勇んで働き始めた。
最初はIT系出版社でフリーランスのライターや、ソフトウェア開発の補助(競合製品の仕様をまとめたり云々)のような仕事をした。次いで電話会社の研究所で派遣の研究補助や、外資系半導体会社の受託調査を。当時の最大の壁は19歳でまだ未成年だったことだ。大手企業だと契約当事者になれず、間で別の会社に入ってもらうとか苦労もあった。今にして思えば契約書の締結とかもあったので、面倒をみてくれる方々がいたことは非常にありがたかった。
その後いくつか失敗したり居場所をみつけたりしながらも業務委託契約で仕事をこなしたが、最初に困ったのは収入が百ン十万を超えると親の扶養を外れることである。扶養所得控除がなくなった分は余計に家に入れる必要があるし、国民年金&国民健康保険に入る必要があるのだが、これが割高だし給与天引きじゃないものだから非常に重税感がある。だから大学2 年の終わりにまず探したのはアルバイトではなく福利厚生を提供してくれる会社を見つけることだった。幸い悩んでいた時期に、前の会社が健康保険の面倒は見ようじゃないかと拾ってくれた。やることが決まるまでは週2回の全体ミーティングに出ること、周りの色々なエンジニアと話して仕事は自分から社内で探してこい、当面は月固定いくら出すという、いま考えると随分と緩い条件だった。
大学には半分も通わなくなっていたし、定期試験の日に休暇を貰って大学に行っても必須科目だった英語の試験会場が分からず留年が決まった。会社に入って2ヶ月も経つとデスマーチ案件の立て直しを買って出て会社に泊まり込むようになり、いつの間にか大学に行こうとしても「後からちゃんと教授にご挨拶に行くから、ともかく今月は会社に缶詰で働いてくれ」と懇願される始末だった。お陰で3ヶ月目からは社員並の給料に引き上げてもらい、翌年度から有給休暇と別に定期試験休暇をつくってもらった他は完全に正社員扱いで、上場時にはストックオプションを受け取り、学生結婚した時には勤続3年で普通に住宅ローンも組めた。
福利厚生とは別に自分が就職した動機として、社会に出る前から当たり前のように気づくべきことだが、自分より優秀な人は山ほどいる訳だ。コンサルティングの真似事のようなことをしてると建前としては客よりも詳しい前提で働く訳で、常に自分よりも知識水準が低いか、現場は分かっているのだが政治的な事情で上が外部の意見を必要としている(このケースが割と多いことに気づいたのはオトナになってからのこと)訳で、どっちにしてもプロ相手に一端の口をきかなきゃなんないし、学部生にしては随分と背伸びする必要がある。
で、背伸びばかりしてると場数は踏める面もあるのだが知識が追いつかない。もちろん自分なりに勉強はするんだけど、行き当たりばったりで勉強したことを切り貼りしても砂上の楼閣ではないかという不安があった。会社に入れば分からないことを堂々と先輩に聞ける、もうちょっと効率的かつ体系的に勉強できるんじゃないかという期待もあった。そういう論理も後から教え込まれたというか、会社に誘われた当時は「君は赤子の手を捻って得意がり過ぎている。このままじゃダメな大人になるぞ。もっと先輩から鍛えられて、苦手な技術も勉強しなきゃダメだ」と叱咤され誘われたのが後から内面化したのかも知れない。
けれども当時、僕はそんなに長く会社のお世話になるつもりではなかった。当時は最低資本金規制があって会社をつくるにはまとまったお金が必要だったんで、それを稼ぐまでの辛抱ってつもりでいた。入社2年目の時には先輩ばかりで同世代のいない会社に飽きてしまい、歳の近い経営者のベンチャーを手伝い始めた。そこへ転職するつもりだったのが大手に買収されて話はなくなった。その余波で僕の仕込んでた銀行との案件が宙に浮いてしまい、妙な責任感で自分からプロジェクトに飛び込むと、重層的な下請け構造とか、理不尽な要求とか、フラットなネット業界では知る必要のなかった様々な面倒なことに巻き込まれ、SEっぽい仕事そのものがすっかり嫌になってしまって逃げ出した。
仕事を放り出して社内NEETのような感じでIPモビリティの研究をやっていたら、動く実装が何も手元にない間から割とウケて、方々から講演依頼を受け、専門誌の取材を受けたり、複数のVCから投資のオファーを受けるようになった。もし独立するチャンスがあったとしたら、あの時だったかも知れない。けれども僕は怖じ気づいた。無線LANでアドホック通信とIPモビリティを組み合わせて面的に展開し、利用者同士が相互に回線を融通するというアイデアは、当時日本で解放されていた周波数帯域だけでは機能しない公算が大きかったし、仮に良いアイデアだったとしても主要プラットフォームが製品に組み込んでしまえばベンチャーの梯子は外されるだろうと考えた。
その後の展開を考えると僕の読みは確かに正しかった。2.4GHz帯だけでは輻輳が激しく、後に帯域が拡大された5GHz帯では屋外のカバーは難しい。ホワイトスペースを使えばスケールするかも知れないが、日本での実用化にはまだ何年もかかるだろう。アドホック通信はバッテリー消費を加速するので自動車で使えてもモバイルには向かない。いろいろ夢想しては結局のところ何も実装しなかった。けれども例えば無線LANでのネット接続共有はFONが事業化したのだし、やれることから始めて走りながら考える手はあったのかも知れない。どっちにせよ僕には仲間がいて、何かに挑戦し始められる程度の注目を浴びたのに、結局のところ踏み出さなかった。様々な目に遭って大人の世界に対して臆病になり、結婚して子どもができてリスクを負えないと勝手に思い込み、まだ若いんだし今は力をつける時期だと逃げた。その罪滅ぼしという訳でもないが、足掻きながら気づいた電波政策やIT産業の構造を巡る問題に対しては転職後もコミットし続けている。
フリーランスとしてキャリアをスタートさせ、いくつものベンチャーの立ち上げに関わった学生時代の僕にとって、就職とは学生の次のステップとしてのゴールよりは独立を棚上げできる一種のモラトリアムであり、先輩相手に自分の弱いところもさらけ出してでも勉強できる場であり、自分の力が及ばない世界と噛み合うための歯車のひとつだった。案件に追い立てられなくなってからは自分が本当に何をしたいかを考えるようになり、金儲けよりは社会の仕組みの特におかしいと思う部分を変えていきたい欲求に従って生きた。少しずつ世の中が自分の正しいと思う方向に近づいたとしても、それは世の中の大きな流れであって、自分が関わろうとすることに意味があるのだろうと自問することがある。
シューカツを経験していない僕が問題をどこまで実際に理解できているのか分からない。恐らく新卒一括採用の問題はいくつかに腑分けできて、企業の採用活動としての効率性や合目的性、社会的にはホワイトカラー上層の雇用流動性の低さ、そして仮に日本が近い将来それなりに雇用を流動化できたとしても後からキャリアの空白を埋められず階層間移動が生じ難いといった世代論的な課題もあり、就職氷河期世代としては今後の採用方法の見直しだけじゃ取り返しのつかない深刻な問題と認識している。
一方でこれは本来、大企業の採用の在り方だけで解決できる問題ではなく、これまで企業に依存し過ぎた社会関係資本の形成を再び社会化し直すプロセスこそ必要なのではないか。企業の在り方、学校の在り方から模索が始まっているところだけれども、その上位として社会がどう構成員に対して居場所をつくっていくのか、もっと広い視座で考え直す必要がある。
自分語りと新卒問題との接合を悩み続けて長文となってしまったが、受験に失敗したものの居場所は諸々あった自分を振り返るに、必要なのは社会に巻き込まれながら人々の振る舞いや組織の仕組みを理解し、自分から居場所を見つけていけるまでの補助輪であって、それを企業による新卒採用と新人教育だけに求める限り選考の公平性で議論が止まってしまう。
どんなに今よりフェアな選考が行われ、雇用の流動性が高まったとしても、量としての雇用が増えてキャリアの空白に対する認識が改まらない限りはミスマッチはなくならない。議論を今後の新卒採用の在り方だけに矮小化するのではなく、既卒も含めて社会の中でどう修錬の機会が与えられ、努力が報われて、居場所を確保できるよう社会を再構築できるか考える必要がある。そうすれば結果的に新卒採用での一発勝負でもなくなるし、途中で路を踏み外しても軌道修正のための獣道を探しやすくなるはずだ。

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