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ベトナムで繁盛する盗聴ソフト販売―妻の嫉妬が押上げ?― - 坂場三男

 男女を問わず配偶者の異性関係に嫉妬する心は世界共通で、それはそれで微笑ましいような気もするが、ことベトナム人妻の場合だけは「恐怖」の領域に入るようだ。彼女たちが逆上すれば「阿部定事件」に発展することも稀ではない。私がベトナムに在勤していた当時にも「2時間以内なら接合可能」といった新聞記事を何回か見かけた。とにかく、男どもは謹厳実直な日々を送っていないと五体満足で生涯を終えることもままならない。恐ろしい国である。

 この8月末、携帯電話などの通信機器に不正にアクセスし個人情報を盗み取るソフトウェアを販売していた男が、ベトナム南部ホーチミン市で逮捕・起訴された。このソフトウェアを活用すれば、携帯電話の発着信記録や着信メッセージなどのアカウント情報が簡単に入手出来るらしい。このサービスに着目したのがベトナム人妻たちで、夫の行動を監視するために月額7千円ほどの利用料を支払っていたという。年間で契約すれば4万円近く、(賃金水準が低いベトナムでは)月額の平均所得額並みであり、決して安くはない。逮捕された男はソフトウェア輸入代金の2倍以上のサービス料金を徴収して大もうけをしていたというから着目点は悪くなかった(?)と言うべきか。

 携帯電話の普及はベトナムの男どもにとって功罪相半ばする。逢引きする相手との連絡には便利だが、同時に妻から常に「どこで、何をしているか」の確認電話を受け続けなければならない。ハノイで私が個人的に雇っていた運転手の場合、走行中にも頻繁に携帯電話が鳴るので、不審に思って発信者を尋ねると、ほとんどの場合「女房からです」との返事だった。固定電話が普及する前に携帯電話が普及してしまったベトナムでは、職場での仕事上の連絡も携帯電話ですることが多いので、その通信記録が入手出来ればその人物の日々の動静は概ね判明する。亭主の愛人関係に神経をとがらせるベトナム人妻たちからすれば、かつてのように高額な私立探偵を雇うことなく、より確実に夫の動きを察知出来るとあれば盗聴サービスに飛びつくのも、むべなるかな、である。

 ベトナムの女性が嫉妬深いことは世界的に(?)知られているが、彼女たちの名誉のために一言すれば、それには歴史的な事情が絡んでいる。ベトナムの歴史は内戦、外戦を含めてほぼ戦争続きの歴史であり、いつの時代にも年頃の男の多くが戦場に引き出され命を落とした。このため、壮年の男女比が大きく狂い、男1人に年頃の女が2~3人という割合になり、男が愛人を持つのは甲斐性というより「社会的要請」にすらなっていた時代が長く続いたのである。これを女性の側から見れば、「結婚出来るのは幸運」というような状況だった訳で、一度つかまえた男を他の女に取られることに異常な警戒心を燃やすのは当然であったろう。

 アオザイを着た若いベトナム女性は実に嫋(たお)やかであり、女性的魅力に満ち溢れている。外国人男性と結婚するベトナム女性が毎年10万人ほどいるそうだから、彼女たちの魅力は国際的な評価(?)すら得ているのではないか。他方で、ベトナム人の民族的特徴の1つが「女性が強い」ことであり、戦争時には銃後を支えるだけでなく、戦場で勇名を馳せた女傑も少なくなかった。世の男性諸君はベトナム女性の「外見」に騙されてはならない。

 昨今、ベトナム女性と結婚する日本人男性も増えており、ここ1~2年だけでも私の友人の何人かがそうした「運命」を辿っている。彼らの幸福を祈りたいが、その前に先ずこれからの人生を無事生き抜いて欲しいと思わずにいられない。
坂場三男(さかばみつお)略歴

 1949(昭和24)年、茨城県生れ。1973年横浜市立大学文理学部文科卒業。同年外務省入省。フランス、ベルギー、インド、エジプト、米国(シカゴ)等に勤務。外務本省において総括審議官、中南米局長、外務報道官を務める。2008年、ベトナム国駐箚特命全権大使、2010年、イラク復興支援等調整担当特命全権大使(外務本省)、2012年、ベルギー国駐箚特命全権大使・NATO日本政府代表を歴任。2014年9月、外務省退官。2015-17年、横浜市立大学特別契約教授。現在、JFSS顧問、MS国際コンサルティング事務所代表として民間企業・研究機関等の国際活動を支援。また、複数の東証一部上場企業の社外取締役・顧問を務める。2017年1月、法務省公安審査委員会委員に就任。著書に『大使が見た世界一親日な国 ベトナムの素顔』(宝島社)等がある。

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