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秋刀魚が高級魚になる日 -公海の資源は人口比で分配すべし(?)という中国の無茶な屁理屈

 日本はかつて世界一の漁業国であった。世界中の海をところ狭しと駆け回り、世界中の魚を獲っていたといってよい。典型的な魚食民族であり、戦後初期の頃、水産物は全輸出の1割を占めていた。

 秋の味覚として庶民に愛されるサンマは、今年も8月23日、北海道沖で獲れた20tが気仙沼港に初水揚げされた。中程度の大きさが中心で、昨年と比べてキロ当たり100円ほど高いという。しかし、最近ではそのサンマに暗雲が立ち込めている。

<海洋法条約に加盟するには漁業資源の保全制度の導入が条件>

 1976年、200海里時代の幕開けの頃、企画課の係長だったが、約20年後の1994年秋に水産庁企画課長を拝命した。私は水産庁に3回も勤務している。農業の専門家としていろいろ言われているが、実は農林水産省30年間の勤務のうち、約3分の1は水産に関係している。20年の歳月は海を巡る状況を一変させた。第三次国連海洋法条約がまとまり、水産資源保護のために資源量を把握して、これ以上獲ってはいけないという制度の導入を進めざるを得なくなっていた。TAC法と呼ばれ、海洋法条約に加盟するための条件でもあった。

 鉱物資源はそれぞれの国が権利を持っている。だから輸入して、それを加工して、それを輸出して日本の加工貿易は成り立っていた。ところが海の資源へのアクセスは簡単で、12海里の領海外は自由に漁業ができたのである。勿論日ソ漁業交渉、日米漁業交渉等で漁獲量は減らされたが、締め出されることはなかった。そこに突然出てきたのが200海里時代である。沿岸から200海里はそれぞれの沿岸国に主権を与え、資源管理を任せるというものである。沿岸国で獲りきれなかった場合は、外国に割り当てるという今のルールが出来上がった。

<日本の遠洋漁業が急がせた200海里排他的経済水域>

 200海里のルールは日本が世界中の海で縦横無尽に獲り歩いたことに原因があるかもしれない。どうせ来年か再来年に漁獲量を削減されるから、今のうちに儲けておこうということになる。網で相当な魚を大量に獲ったとしても「地産地消・旬産旬消」に最も反することになるのだが、冷凍、冷蔵して日本まで持たせて採算を合わすとなると、高級魚しか残さず余計な魚、小さな魚は皆海に捨てる。こうしたことが繰り返されたのだ。言ってみれば、他国の庭先(EEZ内)で魚を獲り放題だったがために、もうやめて出て行けと言われただけのことだ。

<中・台・韓が遠洋漁業に参入して日本近海は一変>

 その意味で200海里時代を当然のことだと思う。ところが日本も勝手な国である。遠洋漁業に乗り出す力のない中国と韓国に対しては、200海里ではなくお互いに12海里の外については自由に獲りつづけようということにしていた。ただ、ロシアが200海里を引いて日本に対して締め出しをしてきたので、対ロシア用に200海里を設定していた。ところが時代は過ぎ、中国・台湾・韓国漁船が日本に押し寄せてくるようになると、日本の漁船が資源管理をして休漁中なのにもかかわらず、目の前で中国・韓国・イモ漁船がやたらと魚を獲っている。これでは日本の漁業はやっていけない。早く200海里を設定しろという声が一斉に沸きあがった。つまり、日本が一昔前に世界中でしていたことを、近隣の中・台・韓がし始めたのだ。

<長くかかった国連海洋法条約会議>

 今はTPP、日EU・EPA等が日本の紙面を賑わしているが、最も長くかかった国際交渉は海洋法条約である。第一次、第二次、第三次海洋法条約と続き、1982年にやっと採択され発効したのは1994年である。第三次海洋法条約だけでも1973年に開始され10年もかかっている。日本は前述の通りTAC法等を変え1996年に批准した。そして海の日7月20日はその海洋法条約の発効日であり、私が手塩にかけたTAC法等の関連法案の施行日でもあった。

 既にこの時、今の中国のサンマに対する頑固な姿勢が垣間見られていた。海の資源は人類共有の財産(common heritage of mankind)といわれている。この関連の議論はなかなか卓越していた。

 大きな国際会議で始めて先進国と発展途上国の利害がぶつかり合った。当然先進国(北)は資源を有効活用するなり開発する能力がある。一方で発展途上国(南)には十分な技術も資本力もない。問題は人類共有の財産の典型といわれる深海底(seabed)におけるマンガン団塊等の扱いだった。一般的には200海里なり大陸棚で基本的には沿岸国が第一義的な権利を持っているが、公海上のものは無主物であり誰が採ってもよいということになっていた。

<人類共有の財産は人口比で按分すべしという中国のとんでもない理屈>

 中国がとんでもない提案をしたことを私は今でもよく覚えている。なんと、「人類共有の財産であるから、人口に比例してその資源を配分するべきではないか」というものである。そして人口比というのは、人口大国中国にとってこんなに都合のいい理屈はない。私はその屁理屈にびっくり仰天した。勿論こんなとんでもない理屈が通るわけがなかったが、深海底の資源は発展途上国のためにより多く使われるという妥協が成立した。

<共産国には都合のよかった遠洋漁業>

 一方漁業の世界では全く新しい動きが生じていた。ソ連がなぜ漁業に力を入れたのか。コルホーズ(集団農場)、ソフォーズ(国営農場)等の農業はうまくいかなかった。それに対し遠洋漁業は海上の大きな漁船の中ではごまかしもきかず、ノルマ達成なり資源の管理等、ソ蓮ないしロシアの遠洋漁業の成果を見て、今や中国・韓国・台湾真似をし始めたということである。つまり、日本が沿岸漁業国と成り下がり、遂に中・韓・台が遠洋漁業国となり、攻守を換えて交渉することになったのだ。

 かつての日本は他国の200海里内でも昔から獲っていたので少しは獲らせて欲しい、魚はいくら母川に帰って行くといっても少しは海洋で獲らせてくれ等と懇願していた。ところが、サンマもサバもカツオも公海で一生を終える。誰が獲ってもいいではないかと開き直られると反論の余地はない。漁獲を抑える理由としてあるのは資源保全だけである。日本だけが多く獲り続ける理屈は成り立たない。

 世界の人々はかつてそんなに食べなかったマグロを食べるようになり、サンマも食べるようになっている。

<日本のサンマ漁獲割り当て提案は合意に達せず>

 7月13日から15日まで、3日間に渡って開かれた北太平洋漁業委員会の会合で、日本はサンマの国・地域別漁獲量の新設を提案したが、参加国の中国・韓国・ロシアが反対して合意できなかった。今年中から一年後に限り中国・台湾・韓国が自国の漁船許可数の増加を禁止するというフワっとした合意しかできなかった。ただ、許可外の違法船が横行すれば、この合意は尻抜けなる。

<サンマが高級魚になるおそれ>

 日本のサンマ漁獲量は20~30万トンで推移し秋の味覚の代表格となったが、2015、16年と2年連続11万トン台に低迷している。中・台・韓の大型漁船が、サンマが日本近海に来る前に先回りして排他的経済水域(EEZ外)、つまり公海で乱獲をし始めたからである。サンマにはEEZは無関係で水温と餌で回遊ルートが決まる。公海では船舶の航行も自由であり、漁業も原則自由である。

 放置するとサンマは高級魚となり、秋の味覚などと悠長なことを言っていられなくなるおそれがある。さてどうするか。知恵を働かせないとならない。

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