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マクロン大統領のEU救済の大きな賭けは功を奏するか

Frederic Legrand - COMEO / Shutterstock.com

著:Richard Youngsウォーリック大学 Professor of International and European Politics)

 フランスのマクロン大統領はヨーロッパの市民がEUの将来について意見を述べる一連の「democratic conventions(民主主義大会)」の開催を約束した。マクロン大統領の着想はEUが困難な時期に機運を高める計画の目玉だ。

 マクロン大統領は各国の中央政府がEUの将来行なうべきことを討議するために全国民を巻き込んだ議論の形で大会を主催することを提案し、再び団結する方法を示唆している。マクロン大統領は2017年末から半年から10か月間大会の大会運営を構想している。各国政府は各国の大会後EUに報告書を提出し、加盟国は結果を受けて5年間のEU改革計画に結論を出すために作業する。

 加盟国のうち何か国がこの構想に参加し、どのような具体的な形で「大会」が実施されるかははっきり分からないが、現時点では、この考えははずみがついているようだ。なかでもドイツのメルケル首相はこの考えに対する幅広い支持を表明している。

 マクロン大統領の着想は興味深く、おそらく非常に重要だ。この着想はブリュッセルのEU諸機関の民主化に関する最近の熱い議論に共感したものだ。多くの人がさらなる参加型のプロセスが、EUが正当性の危機の問題ばかりではなく、複数の問題に取り組むのに役立つと信じている。

 この大会は、そのような要請をこれまでで最も真摯に受け入れた実用的な提案だ。ただし、国民の意見聴取の実施を約束することはリスクの高い戦略だ。大会によりEUの市民の期待は高まる。各国政府にとって最悪の結果は、大会を開催したが討議の中で出てきた示唆や懸念が受け入れられないことだ。

◆過去の教訓

 主な課題は、各国政府が大会によって明らかになった国民の優先課題を進んで成就しようとするかどうかだ。そのためにはEUや加盟国の諸機関がEU改革の標準的な型に当てはまらない考えを受け入れる必要があるかもしれない。例えば一部の国のEUの市民は、EU諸機関からの権力回復、国境警備の強化、緊縮政策の緩和、社会的不平等是正の取り組みの強化、いわゆる「柔軟な統合」に対する全く異なるアプローチなどを希望しているかもしれない。

 もし政府が国民の意見に対して具体的な形で答えることができなければ、EUに対する国民の不満は単純に募っていくだろう。

 過去の経験から、単に政府の既存の優先事項を正当化するために国民の意見が操作されたり、演出されたりする明らかなリスクが示されている。もし各国政府が先手を打ってあらかじめ基本的な結果を得るようなことがあれば、大会は利益以上に害をもたらすものとなる可能性がある。

 これは2000年初頭、欧州憲法の起草に関する国民の意見を聴取した際に実際に起きた。オランダとフランスの投票者は国民投票で欧州憲法を拒否したが、主要な変更が2009年のリスボン条約で通過し、ヨーロッパの人々の懸念にもかかわらず取り上げられた。このようなエリートによる議事妨害は、2008年以来EUを悩ませている長年の危機の土台となっている。今日のヨーロッパのリーダーは、期待が打ち砕かれるサイクルを繰り返す状況を作り出さないよう注意する必要があろう。

 マクロン大統領は表面上、国民が将来のEUに何を望んでいるかについてエリートが知り、理解するために民主主義大会を招集しているが、自身のビジョンはかなり定まっているようだ。マクロン大統領はより深く一元的な経済同盟、より奥行きのある安全保障の統合を望んでいる。この目標を、国民の幅広い意見に一致させることかどうかは全く確信できず、その前に両者の間に緊張があるかもしれない。

 より奥行きのあるEU統合は長年ブリュッセルの外では受け入れづらかったが、ここ数か月、EUは自信をつけてきている。多くの欧州の政府やEUの機関は再び、より奥行きのある超国家的な統合を推し進めている。

 現在の確固たる勢いを利用しようとしているEUの政府や諸機関は民主主義大会が運営されている間に新たな計画が延期されることに気が進まない可能性がある。民主主義大会が国民の求めるものを明らかにするのであれば、進路を反転させることには尚更気が進まないかもしれない。

 EUにはもっと純粋にオープンで幅広い位置づけがされた参加モデルの見解が必要だ。これらの大会は、この考え方を試すある一種の実験室となるだろう。多くの思想家は、無作為抽出方式を通して少なくとも部分的にあらゆる職業や社会的地位の市民を含めたEUの意思決定プロセスを擁護している。

[画像をブログで見る]
欧州委員会 IDN / Shutterstock.com

 欧州委員会は意見を求められれば現状を擁護する市民社会組織を多くの意見聴取に参加させるが、このような思想家はその傾向を批判している。現在、統合の現状に批判的なグループが今のプロセスから排除されていると感じるという事実は、市民がポピュリズム政党に突き進むひとつの要素となっている。統合の現状に批判的なグループが今のプロセスから排除されている

◆慎重に前進

 各国政府は、ほとんど宣伝目的で民主主義大会を形成する誘惑に屈してしまうかもしれない。マクロン大統領の提案が現在策定されている通りに根本的に新しい、一層制約の少ない自由な参加プロセスを提供するのか、それとも過去にEUが見てきたようなかなり管理された意見聴取の構想が再現されるのかはっきりしない。

 民主的な説明責任が意味のあるものであるとすれば、各国政府とEU諸機関は大会結果をどのように導入していくのかを明確にする必要がある。単に大会の結果としての標準的な5年改革を約束するだけでは十分ではない可能性がある。EUの歴史の中では、そのような多くの計画が反故にされたことが何度もある。

 最後に、各国政府は大会後の結果を検討することが必要となるだろう。大会そのものがEUを民主化するのではない。市民は、EUの意思決定により大きな影響を与えるためのこれまでよりもずっと恒久的な手段が必要だ。大会が数か月しか開催されず、その結果EUが現在の不透明な交渉と取引決定のパターンに戻るならば、得るものはほとんどないだろう。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by サンチェスユミエ

Text by THE CONVERSATION

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