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ソニーらしさとは一体何なのか? - 川手恭輔 (コンセプトデザイン・サイエンティスト)

 今年に入ってから「ソニーの復活」が盛んに報じられるようになり、最近では株価も堅調に推移しています。平井社長は5月の経営方針説明会で、現行の中期(3年)経営計画に掲げた営業利益で5000億円以上という数値目標を、その最終年度となる今年度に達成できる見込みだと説明しました。

 営業利益5000億円は20年ぶりの利益水準で、5年が経過した平井体制のソニーグループにとっての悲願ですが、果たして、その目標を達成できるでしょうか。そして、それはソニーの復活を意味するのでしょうか。

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(David Ramos/Getty Images)

コンスーマーエレクトロニクスの再生 

 平井社長は「この5年間の取り組みによりそれを十分狙えるだけの力はついてきた」と自信を示し、その裏付けとして「長年苦戦が続いたコンスーマーエレクトロニクスが再生し、安定的な収益貢献が期待できる事業となった」ことをあげました。

 ソニーのコンスーマーエレクトロニクスの事業セグメントは、スマートフォンを中心とするモバイル・コミュニケーション(MC)、ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)、デジタルカメラなどのイメージング・プロダクツ&ソリューション(IP&S)、テレビを含むホームエンターテイメント&サウンド(HE&S)からなります。中期計画の期間における、コンスーマーエレクトロニクスの事業セグメントの第一四半期(4月~6月)の売上高の推移をグラフにして眺めてみましょう。


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 昨年は熊本地震でイメージセンサー工場の生産ラインが停止した影響で、イメージング・プロダクツ&ソリューションの売上げと営業利益が落ち込みました。今年はその影響はなくなったものの、デジタルカメラ市場の縮小によって2015年のレベルには戻っていません。しかし、4月から6月のデジタルカメラ全体の出荷台数が2015年の70%に落ち込んでいる(CIPA)ことを考えると、対2015年の売上げが95%(1556億円)というのは、人気のRX100シリーズなどの高価格帯の製品へのシフトが成功していると考えられます。

 8月1日に発表された通期の営業利益見通しによると、営業利益5000億円という目標を達成するには、「その他、全社(共通)及びセグメント間取引消去」という項目で、2290億円のマイナスを計画しているので、半導体や映画や音楽や金融を含めた各セグメントの営業利益の合計が7290億円にならなければなりません。

 コンスーマーエレクトロニクスの営業利益の見通しは3150億円(7290億円の43%)となっていますが、そのうちゲーム&ネットワークサービスは1800億円と、金融の1700億円、半導体の1300億円を上回り、すべてのセグメントの中で最も大きい。しかし、その第一四半期の実績は177億円(前年同期から263億円の減益)に止まっています。にも関わらず、通期の見通しは「主に為替のユーロ高ドル安の影響により」4月時点の1700億円から100億円上方修正しています。そこには、何がなんでも「営業利益5000億円という目標を達成する」という気持ちが滲んでいます。

 発売から5年目を迎えるPlayStation 4の販売は、今年の3月までに累計6000万台を突破しています。前年同期比で5%の増収にも関わらず減益となった理由を、前年にはゲームソフトのヒット作があったことと、PlayStation 4本体の値下げによるものと説明しています。まだ数年残っていると思われる製品寿命(PlayStation 3は7年)を考えると、小規模なモデルチェンジで売り上げを拡大していかなければなりません。昨年の10月に発売されたPlayStation VRは、目標の半年を少し超えた時点で100万台の販売を記録していますが、まだ製造が追いついていない状況なので、その実力、事業への貢献度は未知数です。

 モバイル・コミュニケーションについては、スマートフォン市場の成長が鈍化しているということ以前に、ソニーのスマートフォンは世界市場での存在感がまったくありません。依然としてアップルのシェアが50%を超える日本市場において、残り半分のシェアを他の日本メーカーと奪い合うというのでは、この先の事業の成長は望めません。

 ソニー復活の象徴的な存在がテレビ事業でしょう。2004年から10年連続で赤字を計上してきたテレビ事業は、2014年に分社化され、本社費用やオペレーション費用(販売や在庫のコスト)の削減によって黒字に転じています。しかし、ホームエンターテイメント&サウンドの売上げは横ばいです。コンスーマーエレクトロニクスは「規模を追わず、違いを追う」という方針とのことですが、「4Kを中心とした大型画面の高付加価値商品に注力し、ソニーの高画質技術の詰まったプロセッサーを組み合わせることで、有機EL、液晶ともに他を凌駕する映像を再現できる(平井社長)」ことが、中国や韓国の競合メーカーとの違いになるとは思えません。

 今期は目標の5000億円の営業利益を搾り出すことはできたとしても、その先の成長のための戦略やシーズが見えていません。確かに、ソニーのコンスーマーエレクトロニクス事業は黒字化し「再生」しました。それはソニーの復活かもしれませんが、期待されている「ソニーらしさ」の復活とは言えないでしょう。

ソニーらしさとは一体何なのか?

 コンスーマーエレクトロニクスの再生は、ソニーがオペレーショナル・エクセレンスの会社に変身したことによって達成されました。オペレーショナル・エクセレンスとは、研究開発、企画、生産、サプライチェーンなどの企業を構成するあらゆる業務の高度(エクセレント)な遂行能力を意味します。

 オペレーショナル・エクセレンスは高効率、高生産性を追求し、現場においても徹底的に無駄とリスクの排除を行うので、イノベーションとの共存が非常に困難になります。オペレーショナル・エクセレンスは、新しい事業を創造するための試行錯誤を伴うイノベーションの取り組みを「無駄とリスク」として排除しようとします。

 コンスーマーエレクトロニクスの再生を果たしたソニーが、このジレンマを克服して次の成長を目指してイノベーションに取り組むのか、M&Aなどによって多角化、コングロマリット化戦略を採るのかは、二者択一の経営戦略になるはずです。しかし、ソニーはオペレーショナル・エクセレンスの中でイノベーションに取り組むためのSAP(ソニー・シード・アクセラレーション・プログラム)を、2014年4月に社長直轄のプロジェクトとしてスタートしました。

 経営方針説明会で平井社長は、「新規事業創出プログラムSAPはプログラム開始以降、3年間で10を超える新事業を創出しました」と、その成果を報告しました。しかし、『子どもたちの創意工夫で大きく広がるおもちゃ』『三日坊主を防止するスマホのアプリケ—ション』『欲しいボタンをまとめて複数の機器を手軽に操作できるリモコン』『パーソナルアロマディフューザー』『電子マネー機能を搭載した腕時計用レザーバンド』など、SAPから生まれたという「商品」はいくつか思いつきますが、まだ事業セグメントの柱となるようなものは見当たりません。

 ソニーの採用情報のホームページに、「Sony's DNA」というタイトルで次のような記述があります。

ソニーらしさとは一体何なのか?
 1946年の設立以来、ソニーは人々のライフスタイルを変えるイノベイティブな商品を生み出し続けてきました。そこには、世界を相手に、まだないものをつくりあげるというチャレンジ精神、人々に喜びや感動を提供したいという強い意志がありました。 これは、60年以上経った今もなお受け継がれているソニーのDNAともいえます。

 SAPは、イノベーションという絶滅危惧種のDNAを培養するための、オペレーショナル・エクセレンスから隔離された部屋のような印象を受けます。しかし「人々のライフスタイルを変えるイノベーティブな商品」は、コンスーマーエレクトロニクスの事業セグメントにこそ求められています。その成長のためには、スマートフォンやカメラや音楽プレイヤーやテレビなどを置き換え、自らディスラプション(成長のための破壊)を起こすようなイノベーティブな商品が必要です。しかし、それを隔離された部屋で行おうとすれば、必ず社内に不協和音が生まれます。

 平井社長はSAPについて、「社内に常に新しいことに取り組む風土を植え付けるとともに、事業を経営するマインドとスキルを持った若手社員の育成にもつながっています」と話しています。SAPで培養したイノベーションのDNAを、コンスーマーエレクトロニクスの既存の事業セグメントに植え戻して広げることが、ソニーらしさの復活に必要なことだと思います。

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