記事

持病を抑えるために痴漢した高校生の末路

1/2

(精神保健福祉士・社会福祉士 斉藤 章佳)

痴漢をする人は何を考えているのか。その思考が理解できなければ撲滅は難しい。精神保健福祉士・社会福祉士で、加害者臨床が専門の斉藤章佳氏は、「ストレス対処法が少ないサラリーマンが痴漢に走りがち」と分析する。幼い頃からの持病に耐えるため痴漢に及んだという高校生の話から、彼らの根底にある「認知の歪み」をつまびらかにする。

※以下は斉藤章佳『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)「まえがき」と第2章からの抜粋です。

数は多いのに、実際にどんな人物なのか表に出てこない。それが痴漢です。それなのに社会では、ありあまる性欲を持て余した気持ちの悪いモンスターのような男性や、女性に相手にされない非モテ男性といった誤った“痴漢像”が定着しています。これでは痴漢をひとりでも多く捕まえて撲滅しようにも、適切な対策がとれません。

痴漢という日常的な性暴力、そして痴漢に対する社会の態度に、私は日本における性犯罪の問題点が凝縮していると感じます。痴漢の実態を知り、彼らが何を考え、痴漢行為をとおして何を得ているかを知ることが、痴漢撲滅を目指すうえでの第一歩となります。

『男が痴漢になる理由』(著:斉藤章佳/刊行:イースト・プレス)

痴漢とは学習された行動です。つまりその行為は、新たな学習や治療教育で止めることが可能です。性犯罪のなかでも痴漢は比較的、再犯率が高いことで知られています。自身の罪を償い、専門医療機関での治療を受けて痴漢行為を手放す者が増えれば、痴漢の発生件数そのものを減らすことができます。私たちがそれを目指し、日本ではじめて「再犯防止プログラム」を立ち上げてから、2017年で12年が経ちました。

■意志が弱いから依存症になるのではない

すべての依存症には、自身の内にある心理的苦痛や不安感、孤独感を一時的に和らげる効果があります。この仮説を私たちは“依存症における自己治療仮説”と呼んでいます。

依存症のなかでも身体に物質を入れるもの、つまり薬物依存やアルコール依存は特にその傾向が顕著に表れます。お酒や薬物は、彼らにとって鎮痛剤。それを飲んだり投与したりすることで身体と心を麻痺させ、ほんのいっときでも苦痛や不安から逃れようとしているのです。

意志が弱いから、あるいは性格がだらしないからこうしたものに溺れるのではなく、彼らなりの目的があっての行動です。酒や薬は、自分を裏切らない。確実に酔いが得られるからこそ、最初の一杯、最初の一回に手を出してしまい、やがて自分では止められなくなる……。エスカレートするのはSOSのサイン、と前述しましたが、苦痛や不安がいままさに増大しているのを周囲に知ってほしくて、ますますしていきます。このような逆説的なSOSを「パラドキシカル・メッセージ」といいます。

痴漢はギャンブルなどと同じく行為・プロセスにハマる“行為依存”ですが、自己治療仮説はここにも当てはまります。強いストレスや劣等感、不安感、孤独感に心が支配されたときに一時的にでもそれを棚上げしたい……。その一心でギャンブルに興じ、痴漢行為に耽溺します。

日本人男性は自身の感情を言語化することに慣れていません。女性と比べると感情豊かなコミュニケーションの機会が少なく、気持ちを小出しにすることに長けていないので、自分でもいま自身の内面で何が起こっているのかがよくわからないまま痴漢行為に走り、次第に頻度が高くなり、常習化します。何がなんだかうまくいえないけど、でも苦しい。彼らはそんな状態からどうにか脱出したいのです。

■「自己治療」として機能してしまった痴漢行為

めずらしい例では「幼少期から患っていたパニック発作をやわらげるため」に痴漢行為に及んだ者もいました。

高校に進学して電車通学をはじめた。電車は僕にとってはストレスが多いから、できれば自転車で通える学校に行きたかったけど、お母さんがあの学校に行ってほしいと思っているのはわかっていたから仕方ない。ああ、今日も電車に乗ると発作が出てしまう。苦しすぎる。早く駅に着いてくれないかな。こんな日が明日も明後日も……いや、3年間も続くと考えるとそれだけで死にたくなる。

だけどあるとき僕は気づいた。近くに立っている女子高生の身体に触れ、その行為をバレないように続けていると、発作が治まることに。手の感触に意識を集中しているから、発作前の緊張感が和らぐのかな。最初は狐につままれたような感覚で信じられなかったけど、何度試してもそうだったから、もう間違いない!

女性専用車両が導入されて15年以上がたつが……。

痴漢が自己治療として機能してしまっているので、彼はその後、何度もその行為をくり返しました。一度ならずたびたび補導され親にも知られるところとなりましたが、それでもやめられずに高校在学中、大学進学後も犯行を重ね、社会人になってから逮捕されました。いうまでもなく、痴漢行為に発作を止める効果はありません。しかしそれをしているときにパニック発作の前兆を回避できたというのは、彼にとっては真実でした。

本人がどんな苦痛を抱えていても、女性に加害行為をするのは許されることではありません。される側からすれば理不尽な暴力以外の何ものでもなく、加害者の事情などどうでもよいことです。しかし、もし彼が早くから自身の苦痛を自覚し、適切な相談機関へつながり、まったく別の対処行動を学ぶことができていれば、被害者を出さずに済んだかもしれないのです。

あわせて読みたい

「痴漢」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    大雪で帰宅命令より朝出社禁止に

    かさこ

  2. 2

    幸福の科学 総裁長男が衝撃退職

    女性自身

  3. 3

    橋下氏 会見開いた岩上氏を批判

    橋下徹

  4. 4

    東京は費用対効果的に雪対策ムリ

    おときた駿(東京都議会議員/北区選出)

  5. 5

    性行為なしの援助交際続ける少女

    渋井哲也

  6. 6

    白米を食べられない子供が増加中

    NEWSポストセブン

  7. 7

    堀江氏「新幹線高すぎ」に反響

    THE PAGE

  8. 8

    センター国語に直木賞作家が挑戦

    NEWSポストセブン

  9. 9

    羽生竜王vs藤井四段 対局は幻に?

    大村綾人

  10. 10

    安倍首相が平昌を欠席すべき理由

    門田隆将

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。