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"残業するヤツが偉い"と信じた50代の末路

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これからのキャリア形成では、なにが正解なのか。マーケティング戦略アドバイザーの永井孝尚さんは「『あなたという商品』の価値を高める方法を考えるべき」といいます。永井さんの知人に「残業するヤツが偉い」が口癖のモーレツ社員がいました。現在は50歳。大企業の部長職ですが、社内の待遇には不満ばかり。しかも家庭不和で妻と娘は家から出て行ったといいます。どこで間違ったのか。教訓とあわせてお伝えしましょう――。

■「会社員なら社長を目指すのは当然」

今どきのキャリアをどう考えたらいいのか。失敗から学ぶことはたくさんあります。50歳のある「モーレツ社員」の話を紹介しましょう。彼の名前は服部タカシ(仮名)。口癖は「会社員なら社長を目指すのは当然」。そして「残業するヤツが偉い」です。

有名大学を卒業し、日本を代表する大企業B社に入社した彼は、入社式会場にいる1000名以上の同期を眺め、ニヤリと笑みを浮かべてこう思いました。

(まずはこいつらの中で、トップに立つことだな)

同期というライバルを前に、学生時代から体育会系で培ってきた闘争心に火がつきます。

永井孝尚『「あなた」という商品を高く売る方法』(NHK出版)

競争でトップに立つには、働く時間でライバルを圧倒すること。そう考えた服部は、とにかく会社で働きました。夜10時前の退社なんて、上昇志向とやる気がない社員がすることであり、午前さまは当たり前。週に1~2回は徹夜です。そんな翌日でも定時出社する。周りはちゃんと見ているものだし、睡眠時間を削ってでも頑張って仕事を続けること自体に意味がある。彼はそう考えていたのです。

「団塊の世代」の上司も、彼と同様に「残業するヤツが偉いのは、当たり前だろ」という考えで、ウマも合いました。そんな服部への人事評価も高かったようです。30歳にして、同期の先陣を切って課長に昇進。部下も数人持つことになりました。部下にも当然ながら自分と同様の働き方を求めます。はるか遠くにある社長の椅子が、少しずつ見えてきました。当時はバブル崩壊のあと。峠が過ぎて景気は悪くなりつつあり、企業の淘汰が始まっていましたが、彼は「こんな時こそホンモノが輝き、生き残る」。そう思っていました。

■同期は「上昇志向がない連中」のはずだったが……

そして現在。

50歳を過ぎた彼は部長になっています。世間一般の基準では、大企業B社の部長と言えば立派な立場です。しかし、社長を目指してきた彼には昇進が遅すぎて不満です。同期の中では、既に専務や副社長になった者もいます。彼にいわせれば、ライバルだった同期は「頑張ってこなかった、上昇志向がない連中」のはずでした。彼らより出世が遅かったのです。

たとえば同期の一人は地方の営業所でノンビリやってきて、服部に遅れること数年、30代後半に課長になったかと思ったら、すぐに部長に抜擢され、数年後に役員に昇進しました。またもう一人の同期は、仕事はこなしますが、土日はしっかり休みを取って旅行ざんまいです。しかしいつの間にか役員になっていました。次期社長はそんな彼らの中から選ばれるのは確実でしょう。服部が社長になる可能性は限りなくゼロです。

一方で入社した頃はピカピカに輝いていたB社は、この十年間で売り上げ半減。彼の目下の仕事は人員削減です。数十人いる部下から半数の退職候補者を選び、一人一人呼び出して、退職を勧告します。しかし応じる社員はほんの一部。「私はちゃんと仕事をしている。なぜだ?」と大声をあげる者。「老いた両親の介護がある。退職すると生活できない」と泣き出す者。そんな中でも、粛々と人員削減の仕事を進めなければなりません。精神的なタフさが売り物だった彼ですが、さすがに心身ともに消耗していきました。

仕事が終わり、帰宅する都内一等地の一軒家はいつも真っ暗です。家庭を顧みずに働き続けた結果、妻とは離婚調停中。愛する一人娘は妻が連れて行きました。娘は妻の味方なので、もう1年も会っていないといいます。さらに自身の身体も長年のムリがたたり、生活習慣病を抱えていました。会社でも腹を割って話ができる相手はほとんどいません。

最近、服部と話をする機会がありました。昔の面影はそのままですが、さすがに疲れは隠せません。最後に彼はポツリと自嘲的につぶやきました。「結局、競争に負けたヤツは、すべて失うんだよね……」

■「頑張ること」が行動原理になってしまった

これは実際にいる知人をモデルにして一人の話にまとめたものですが、あなたの周りにもきっと同じようなかつての「モーレツ社員」がいると思います。

彼の何が問題だったのでしょうか? 結論を言えば、「社内の出世競争」だけを考えてきたことです。彼は新入社員時代から、団塊の世代である上司に自分が得意な「頑張ること」を高く評価されてきました。不幸なことに「頑張ること」が彼の基本的な行動原理になってしまったのです。

服部の新入社員時代は、高度成長期末期の1980年代。大量生産・大量販売の「つくれば売れた時代」です。当時、効率よく大量生産・大量販売をするために、大企業は軍隊組織になりました。「24時間戦えますか?」というCMがはやったのも、この時代です。当時は、「競争すること」や「頑張ること」は、時代に合った合理的な考え方でした。頑張って競争しても得るものがありました。だから彼のような人材は、高く評価されてきたのです。

しかし30年近くたった今、消費者はワガママになり「つくっても売れない」時代になりました。ニーズは多様化しています。この市場の変化をまとめたのが、次の図です。



高度成長期は、市場は大きなくくりでまとまっていました。このような固まりを英語で「セグメント」といいます。企業はセグメント化した市場ごとに激しく競争をしていました。彼のような「優秀な兵士」が必要だったのです。

高度成長期のように市場が成長していれば、全体のパイも拡大しているので、パイの争奪戦をしても得るものがありました。しかし今は市場そのものが縮小しています。戦っても得るものは減り、お互いに消耗する一方です。このようにライバルが激しく競争し合う市場を、サメ同士が獲物を食い合って血で真っ赤に染まった海にたとえて、「レッドオーシャン」と呼びます。

しかし市場が成熟した現代では、消費者はぜいたくでワガママになりました。ニーズが多様化したため、大きな塊のセグメントは粉々に粉砕されて、市場はまるでメッシュのように細分化された状態になっています。図の通り、市場は無数にあるといえるでしょう。このような細分化した市場では「顧客に特化する」ことが何よりも必要であり、競争する意味そのものが失われています。現代ではむしろ競争の兆候が現れたら、戦わずにできるだけ早くその場を立ち去り、戦わなくても済む新天地を探すことが大切です。

顧客ニーズに合わせ「競争を避けよう」というと、「そんなの軟弱だ。頑張って勝ち取った勝利にこそ意味がある」という人が必ず出てきます。まさに服部タカシのような「頑張ること」に価値を見いだしてきた人たちです。しかし下の世代から見れば今や「老害」と見られかねません。

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