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研修が「ある種異様」になる理由 - 朝生容子(キャリアコンサルタント・産業カウンセラー)

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2013年にゼリア新薬工業株式会社に入社したAさんが、新入社員研修受講後に自殺。2015年に労働災害と認定されたことが明らかになりました。さらに遺族が同社と研修を請け負った会社、講師を相手取って損害賠償を求める訴訟を起こしたと報道されました。
(「ゼリア新薬の22歳男性「ある種異様な」新人研修受け自殺 両親が提訴(バズフィードニュース 2017年8月8日)

まずは、ご遺族にお悔やみ申し上げるとともに、亡くなられたご本人のご冥福をお祈りいたします。

事業会社の人材開発部勤務や研修会社の社員、そして企業研修講師と、長年、人材育成に携わってきた人間として、今回の事件には強いショックを受けました。悲劇を繰り返さないために、私たちがこれから何をしていったらよいか、研修を企画・実施する立場から改めて考えてみたいと思います。

■知られたくない過去の吐露を強いられる新入社員研修

記事によると、ゼリア新薬の新入社員研修は4月から8月初旬まで、約4カ月間続きます。労基署が注目したのは、その中の3日間の「意識行動改革研修」。そこでの亡くなったAさんに対する、講師の指導方法が問題とされています。

研修の中で、Aさんの「吃音」や、いじめを受けた経験があることが話題にされ、過去の悩みを吐露するよう講師から強く求められたとのこと。Aさんは、一番知られたくなかった同期に過去を知られたことに強いショックを受けたと研修報告書に記載していました。

その報告に対し、講師はさらに「何バカな事を考えているの」「いつまで天狗やっている」「目を覚ませ」と、さらにAさんの自省を求めるようなコメントを返したとあります。

問題となった講師を派遣したのはビジネスグランドワークス社。同社ホームページ(※)によると2004年の設立で、「効果の高い“実践型研修”」を訴求しています。またチーフ講師は、「受講生の皆様に、研修後にも成長し続けていただけるよう、私たちが常に心がけていること」として「感動のある研修」を提供するとうたっています。
(※ビジネスグランドワークス社のホームページは、8月13日時点でアクセス不能状態。内容は8月10日に筆者が確認したもの)。

■なぜ研修会社を変えなかったのか?

前掲の記事によると、当のゼリア新薬側の新人研修担当者も受講経験があったとのこと。そしてその内容について疑問を持っていました。原告たちの聞き取り結果として、以下のような彼らのコメントが報じられています。
「軍隊みたいなことをさせる研修だなと感じました」
「いつも大きな声を出す必要があり、機敏な行動を要求され、指導員が優しくない」
「指導員は終始きつい口調」「大きな声で命令口調だということです」
「バカヤローといった発言も多少あった」
「最終的には感極まって涙を流す受講者も出るような研修」
「研修会場はある種異様な空間でした」
「個人的にはもう受けたくない」
「途中で体調不良者が出ることもあります」

なぜ担当社員がこうした疑問を持ちながら、この新入社員研修は実施され続けていたのでしょうか?

前掲の記事には、「ゼリア新薬への取材を申込み回答待ち」であり、公式な見解は掲載されていません。現時点で同社の方針や研修内容詳細については確認できないので、一般論から推察します。

継続された一番の理由は、ビジネスグランドワークス社の行う研修でみられる成果が、人事担当者にとって報告しやすかったからと考えます。

■研修成果を表面的現象で測りがちな理由

そもそも、企業が行う自社社員を対象とした「研修」の目的は何でしょうか?

企業での人材育成を研究する東京大学の中原淳准教授によれば、それは「企業の経営活動に資する」ことです。単に「従業員のスキル、能力を獲得させる」「そのための学習を促進する」だけではなく、その先にある「企業の戦略達成」や「組織事業の存続」の実現にどう寄与するか、研修の意味付けを行うことが必要と定義されています。

しかし、たとえその意味付けができたとしても、実際の研修成果を測定するには困難がつきまといます。教育というものが、本質的に成果を出すまでに時間がかかるものだからです。かつ、職場環境や上司や同僚たちとの人間関係など、変動要因が多く、たとえ成果があったとしても、それを研修成果と特定できるとは限らないのです。

研修担当者は、仕事である以上、研修終了直後にはその成果報告が求められます。そこで、研修中の受講生の様子や研修直後の満足度アンケート調査結果などを報告としてまとめます。

成果として訴求しやすいのは、涙を流すなどの極端な受講生たちの反応です。研修中に常と異なる様子が見られれば「研修の効果」として上長に対する説得力があるからです。

新入社員研修に関していえば、一般的にその目的は「学生気分を払拭し、社会人としての意識を醸成すること」です。入社したばかりの社員たちは、私語が絶えなかったり、ふざけあったり、集合時間に遅れたりと、いわゆる「学生気分が抜けない」状態です。新入社員同士が集まっても私語がない、挨拶を元気よくきちんと行う…こうした行動が見られれば「社会人としての」の意識が身についたと判断します。

人間が、行動を変化させるのは、本来時間がかかるものです。一説によると、最低6か月はかかると言われています。したがって、ゼリア新薬の4カ月の新入社員研修期間中は、明確な行動変容までは本来難しいのです。

人事部は、「今年の新入社員は教育がなっていない」「研修で何を教えているのか」と配属後の職場から苦情を言われがちです。それを回避しようとして、研修期間中に何とか行動変容を起こそうと努めると予想されます。

研修を請け負った会社は、こうした会社の期待に応えるべく、大声による恫喝といった高圧的な方法で、受講生の行動をコントロールし、成果を短期間で出そうとしたと考えられるのではないでしょうか。それが研修会社や講師の「評価」になり、次のビジネスにつながるからです。

本事件で問題になっている「講師の高圧的な受講生指導」「人格を否定するような指導」が企業側から疑問が持たれていたにもかかわらず継続していたのは、研修会社側と依頼した人事部門とが、お互いに成果をより強く訴求するといった共通の目的から生まれたものと考えられるのではないでしょうか。

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