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米朝核戦争の悪夢 ―英誌が描く仮想シナリオ― - 坂場三男

 悪夢は、2019年3月、米韓合同の軍事演習フォール・イーグル実施時に始まる。この時の演習は北朝鮮の相次ぐミサイル実験に対抗すべく、米軍2万、韓国軍30万の兵力が参加する例年になく大規模なものとなる。

 北朝鮮は、これに先立ち、核弾頭搭載のICBMを大気圏に再突入させた上、デコイ(おとり弾)をまき散らしてミサイル防衛システムを攪乱させる実験を行っていた。更に、米側諜報筋から、北朝鮮は、米韓合同軍事演習がピークを迎える頃を狙って、熱核爆弾の高度空中における爆破実験に踏み切るのではないかとの情報が寄せられる。この核爆弾は地表70㎢範囲内の全ての生命を一瞬にして死滅させるだけでなく、近接地点にある衛星を破壊し地上の発電施設にも致命的被害を与えるほどの威力を持つ。

 かかる事態を受けて、トランプ大統領は「北はレッドラインを超えた」と判断し、軍事行動に慎重なマティス国防長官やマクマスター補佐官の助言に耳を傾けなくなる。マクマスターは解任され、後任にタカ派のボルトン元国連大使が任命される。ボルトン大使はかつてサダム・フセインが大量破壊兵器を所持していると主張し、対イラク軍事攻撃を主導した人物である。

 北の体制転換の必要性を主張する彼は、トランプ大統領に、北の熱核爆弾実験は間近かに迫っていると語る。トランプ大統領としては、中国の出方が読めないこともあって、直ちに軍事行動に訴えることにはためらいもあったが、自身の支持者に「困難な決断が出来る大統領」であることを示す必要に迫られ、韓国のムン大統領を無理やり説得し(軍事行動への)同意を取り付ける。

 トランプ大統領は軍事顧問団に「本格戦争には至らないが北が核実験を思いとどまるに十分なほどに強力な作戦」の策定を命じる。策定された作戦の内容は北の核ミサイルを発射直後あるいは上昇段階で撃ち落とすというもので、(やってみると)懸念された金正恩の反撃もなく、トランプ大統領は作戦成功に酔い、支持率も大幅に上昇する。

 しかし、金正恩は18万といわれる特殊部隊に命じて韓国内のいくつかの目標にゲリラ的な攻撃を仕掛け始める。彼らは、地下トンネルや潜水艦、あるいは古典的な複葉機を使って韓国に潜入する。韓国の沿岸海域に機雷を敷設して海上交易ルートを遮断し、基幹インフラへのサイバー攻撃も繰り返される。

 他方、ソウル近郊に神経ガスを散布するといった戦争誘発の契機になるような決定的行動は控え、韓国内にパニックを引き起こし、政府に圧力をかけて米軍の行動を抑止出来れば取り敢えず良しとする作戦をとった。しかし、ここに北の読み違いがあった。米韓同盟側は北の作戦を大規模攻撃の前兆と捉え、ソウルなどに在住する外国人(15万の米国市民、4万の日本人、そして100万人以上と言われる中国人)の大規模な国外脱出が始まり、北を驚かせる。

 ここに至って、米韓軍は最悪の事態に備えるべきことを提言し、訓練中の部隊にも直ちに作戦に参加すべきことを命じる。作戦の第一段階は米軍がそのミサイル、スマート爆弾、バンカー・バスターを動員して北の核基地、ミサイル発射台、指揮所を破壊する一方、韓国軍が奇襲攻撃によって北の指導層に対する斬首作戦を遂行するというものである。

 こうした予防的攻撃によって戦争が短期・限定的なものになるとの計算である。問題は北の核施設の一部は山岳部に隠され、移動式発射台も洞窟の中に避難しているため、全てを破壊し切れないことである。このため、米軍は空母及び本国の基地から新たに戦略爆撃機500機を追加投入することを決定する。米軍の本気度を示すことによって金正恩に本格反撃を思いとどまらせる狙いもあった。

 金正恩としてもここで本格反撃をすれば不帰点を超え、ひいては体制崩壊につながりかねないことは承知していたが、さりとて何の対抗手段も講じない訳にも行かず、長距離砲を1時間限定で南に向けて一斉射撃して撤収するという作戦に出た。米韓軍が軍事作戦を続ければどうなるかを思い知らせる暗示である。しかし、この反撃で既に軍民合わせて数千人の犠牲者を出している米韓側は、北の本格反撃が始まったと判断した。そうなれば、数時間以内に10万人以上のソウル市民が犠牲になり、まごまごしていると更に被害が大きくなる。この時点で、トランプ大統領から金正恩あてに声明が発出され、北が核ミサイルを使えば米側も核の反撃を加え金体制を殲滅すると警告する。

 米韓軍の精密誘導兵器による攻撃で既に保有兵器の多くを失っていた金正恩は、体制崩壊の危機を前に大反撃に出る。ソウルを目標に化学兵器による砲撃、潜入部隊による毒ガス攻撃を展開し、生物兵器も使っているとの噂が広まる。破れかぶれになった彼は、ついに後先を考えることなく、ICBM2基を、また東京及び在沖縄米軍基地を目標に中距離ミサイル・ムスダン3基を発射するが、いずれもパトリオット・ミサイルによって着弾前に撃墜される。在韓のTHAAD及びパトリオット・ミサイルも中距離ミサイル2基にうまく対応した。

 しかし、短距離ミサイル2基がソウル市内に着弾するのを防ぐことは出来なかった。これによって、ソウル市民30万人が犠牲となり、更に数ヵ月以内に核汚染によって米国人を含む多数の死者が出る見込みとなった。ことここに至って、トランプ大統領は北を核攻撃する決断をする。B2ステルス爆撃機によって最新のB61-12核爆弾を誘導投下する。4発が投下されて戦争が終結する。金正恩及び司令官たちは地下壕で死亡し、ほとんど全ての攻撃用兵器が破壊されている。これによる北の死者は数十万人に達し、更なる攻撃を恐れた平壌市民100万人以上が中国国境に向かって避難を開始する。大規模な人道支援の必要性が生じる。

 驚愕した習近平総書記がこの事態にどう出てくるのかは不明である。世界の株式市場にショックが走り、世界的不況の前触れとなる。しかし、トランプ大統領は全くくじける様子もなく次のようにツイートした。

 「悪魔・金正恩によるソウルへの核攻撃はひどい。核で反撃するしかなかった。私の果断な行動によってアメリカの安全が取り戻された。」

 以上の内容は、英誌「エコノミスト」の最新号が掲載している記事の要約である。興味深いのは米朝核戦争が相手の出方・意図を相互に読み違えることでエスカレートする様子を描いていることであろう。

 また、いずれの段階においても、中国(習近平指導部)の反応・対応が全く描かれておらず、「不明」とだけしている点も非現実的シナリオという印象を与える。こうした記事を掲載した同誌の意図するところは、シナリオの適否はともかく、朝鮮半島情勢の行きつく先に待ち受ける「暗い未来」を具体的に示し、政治指導者の愚かな判断が何をもたらすかに警鐘を鳴らすことにあるのであろうか。

坂場三男(さかばみつお)略歴
 1949(昭和24)年、茨城県生れ。1973年横浜市立大学文理学部文科卒業。同年外務省入省。フランス、ベルギー、インド、エジプト、米国(シカゴ)等に勤務。外務本省において総括審議官、中南米局長、外務報道官を務める。2008年、ベトナム国駐箚特命全権大使、2010年、イラク復興支援等調整担当特命全権大使(外務本省)、2012年、ベルギー国駐箚特命全権大使・NATO日本政府代表を歴任。2014年9月、外務省退官。2015-17年、横浜市立大学特別契約教授。現在、JFSS顧問、MS国際コンサルティング事務所代表として民間企業・研究機関等の国際活動を支援。また、複数の東証一部上場企業の社外取締役・顧問を務める。2017年1月、法務省公安審査委員会委員に就任。著書に『大使が見た世界一親日な国 ベトナムの素顔』(宝島社)等がある。

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