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石川・加賀市「生命尊重の日条例」制定の背後に「中絶反対」運動 (大橋由香子)

石川県加賀市が6月の議会で、「お腹の赤ちゃんを大切にする加賀市生命尊重の日条例」を制定した。「お腹の赤ちゃんを社会の大切な一員として迎える」のが条例の趣旨である。なぜ「生命尊重の日」が7月13日か? 堕胎罪の例外規定として人工妊娠中絶を許可した旧優生保護法(現、母体保護法)の公布日だからである。

生命尊重、優生保護法と聞けば、ピンとくる人も多いだろう。「生命尊重」は海外でも日本でも、中絶に反対する勢力が使ってきた言葉だ。アメリカではプロ・ライフ(生命尊重=中絶禁止派)とプロ・チョイス(選択派)が激しく対立し、前者であるトランプ大統領になってから、中絶規制がますます強まっている。

日本でも1982年、旧優生保護法の中絶許可条件から経済的理由を削除しようとしたのは「生命尊重国会議員連盟」だった。また、82年来日したマザー・テレサの「日本は美しい国だが、中絶が多く、心の貧しい国だ」という言葉をきっかけに、84年「生命尊重センター」ができ、「生命尊重ニュース」の発行、講演会やビデオなどで啓発活動を重ねてきた。

91年には、国際生命尊重会議・東京大会が開かれ「胎児の人権宣言」を採択。この大会では、菊田昇医師に対し、87年養子法改正に貢献し中絶から胎児を救ったとして「世界生命賞」を授与。講演者のドクター・ジョン・ウィルキー国際生命尊重連盟会長(当時)は、「胎児は生まれていれば、いずれ国の宝・働き手になるのです。殺してはいけません」と、中絶胎児を写したショッキングなスライドを上映しながら発言していた。

このように、生命尊重派の主張は、“胎児は人間→中絶は殺人だから許されず妊娠したら産むのが女性の使命→中絶せずに出産すれば出生率も上がる”というものである。今回の加賀市も、「生命尊重の日」制定を出生率向上策の一つだと説明している。

生命尊重センターを母体とするNPO法人「円ブリオ基金センター」は、「産むか産まないか悩む妊婦さんに安心して産んでもらうための基金」で、「妊娠SOSほっとライン」はマスコミでも好意的に取り上げられた。2016年7月13日に電話相談員を増やすなど、「生命尊重の日」をアピールしている。

【女性グループも反対声明】

今年3月、滋賀県愛荘町議会は「生命尊重の日」制定を国に求める意見書を全国で初めて可決したが、その背後にも、地元の「円ブリオ基金センター」の賛同団体の請願があった。

こうして生命尊重派は、出産への不安を抱える女性に電話相談や健診・出産費の支援をすることで中絶を減らす活動(赤ちゃんポストや養子縁組も)をしてきた。と同時に、少子化対策の波にのって地方議会での「生命尊重の日」制定など政治的な活動にも力を注いでいるようだ。

そもそも日本には100年以上前から刑法堕胎罪が存在し、中絶した女性と施術者のみを罰し、妊娠の原因となった男性は何も問われない。産まない選択は、実にもろい状態にあり、性教育バッシング、少子化対策や妊活の影響で、避妊や中絶についての情報提供は不足している。

そのような状況で、「生命尊重の日」を自治体が条例で制定するのは大きな問題である。1982年、中絶を禁止しようとした「生長の家」や「生命尊重国会議員連盟」の動きに反対し、堕胎罪撤廃を求めてきたグループ「SOSHIREN女(わたし)のからだから」は、声明文「地方自治体が『生命尊重の日』を制定することを憂慮する声明文」を発表した。

「地方自治体は、個人が産む・産まない、どちらの選択もできる環境をつくるべき立場にあります。……『生命尊重の日』を制定することは、産むことのみを奨励して、産めない・産まない選択を脅かし、産めない女性に罪悪感をもたせることにつながりかねません」

ソフトな物言いの背後には、多様な性や生き方を認めない復古的な思想がうごめいていることを、忘れてはいけない。

(大橋由香子・フリーライター、7月28日号)

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