記事

「婚約」から「結婚」へ、トヨタとマツダの業務資本提携の狙い - 中西 享 (経済ジャーナリスト)

 トヨタ自動車とマツダが持続的な協業関係の強化を目指して業務資本提携することで4日、合意した。2年前の2015年5月に両社は包括業務提携に調印、この時、豊田章男トヨタ社長は「マツダと婚約した」と述べたが「その後の2年間で関係が強まった。出資は『結納金かな』」と指摘、両社はお互いの独自性を維持しながらも「結婚」に向かう可能性もうかがわせた。

 トヨタがマツダに約5%を出資、マツダもトヨタに0.25%出資、米国で生産合弁会社を設立して完成車を生産し、将来的には「ここでEV(電気自動車)を生産することもあり得る」(豊田社長)。EVを両社で共同技術開発し、自動運転車に関しても共同開発を目指すなど包括的な合意内容になっている。

[画像をブログで見る]
4日会見した豊田章男社長(左)と小飼雅道マツダ社長(REUTERS/AFLO)

トヨタの傘下には入らない 

 同日夕に豊田社長と小飼雅道マツダ社長がそろって記者会見した。豊田社長は「いまは販売台数による競争ではなくなってきた。アップルやグーグルなどIT企業と『海図のない戦い』をしなければならない中で、マツダとの協業を2年間検討した結果、業務資本提携になった」と指摘、小飼雅道マツダ社長は「トヨタとの協業が何より必要だと感じた。業務資本提携の関係が継続的なものになることが必要と判断した」と述べた。

 今回の業務資本提携は、会社の規模から見ると、トヨタがマツダを傘下に入れる印象があるが、「協業をベースにした提携で、トヨタグループ入りではない」(丸本明マツダ副社長)と強調、両社の首脳は「切磋琢磨しながらの協業」という言葉を繰り返した。

 両社は世界的な流れになってきた電気自動車(EV)の共同開発を加速させる。EV開発が出遅れているマツダにとっては設備投資がかさむEVの開発を自社だけで行うのは困難なことから、包括提携関係にあったトヨタの支援を受ける決断をした。一方、トヨタにとっては米国での新工場をマツダと共同で立ち上げることでリスク分散にもなるという思惑もある。世界の自動車業界がEV化に向けて一気に走り出す中で、トヨタとマツダの当面の利害が一致したことによる資本提携とも言える。

トランプ政権に反論材料

 豊田社長はこの新工場建設は、トランプ大統領の主張する「米国第一主義」に配慮したのかという質問に対しては、「関係ない」と否定した。トランプ政権が自国優先を掲げて北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しを表明したことで、メキシコにある工場を拠点にして米国に車を供給してきたマツダは米国での事業が厳しくなるのではないかと言う不安がつきまとっていた。だが、今回のトヨタとの業務資本提携で米国に合弁工場ができれば、トランプ政権に対しても「米国の雇用に貢献している」と反論できる。

 今回の業務資本提携のニュースを受けて、好感したのはマツダ株で、終値では前日より2.8%値上がりした。株式市場はマツダにトヨタという強大な応援団が付いたとして安心感から買いが広がった。一方、トヨタ株は0.14%の値下がりとなった。トヨタにとってはあまりメリットがないという受け止め方のようだ。

 EVの開発と生産について豊田社長は「EVの開発は両社の混成で行う。コスト削減も大事だが、いかにして車の味を付けるかだ。EVは特徴を出しにくい車なので、どのように味を出してブランディングしていくかが課題だ」と述べ、EVはコモデティ(汎用品)にはしない姿勢を示した。

本気になったトヨタ

 今回の提携により、これから市場が拡大するとみられるEVの生産体制についての自動車メーカーの色分けが鮮明になった。トヨタは05年に富士重工業(現在のSUBARU)に出資、16年にスズキと業務提携するなど関係を強化してきている。SUBARUは21年にはトヨタのEV技術などを使ってEVを発売するとしており、ここでもトヨタの技術に依存する。今回の提携により、トヨタとしてはEV技術の提供先がまた1社増えることになり、技術開発のコスト削減にもつながる。

 トヨタはこれまでハイブリッド車が好調だったことから、EVの開発にはそれほど重点を置いていなかった。ハイブリッド車の次に来る次世代環境対策車は水素を燃料としたFCV(燃料電池車)になるとみていた。EVについては「いつでも出せる」と余裕の構えだったが、最大の中国市場でEVの伸びが見込まれるなどEV化の流れが鮮明になってことから方針を転換、昨年末に豊田社長自らが総括を務める新たなEV専門の開発部署を設けた。最近では中国でEVの現地生産に乗り出す方針も明らかにしており、トヨタがEV開発に本気で取り組み始めたと証拠ともいえる。

 日産自動車は16年5月に三菱自動車と資本提携し戦略的アライアンスを締結した。EVに関しては両社が協力して開発を進める方針だ。今年の秋に日産は現在のEV「リーフ」の走行距離280キロを大幅に上回る新型車を投入する計画で、この新型車をEV化の流れにある世界市場に供給することによりEVメーカーとしての存在感を高めたい考えだ。

 ホンダは18年までに、中国市場専用モデルと中国以外の市場向けの2種類のEVを発売する。中国では、深刻な大気汚染を改善するために政府が打ち出したNEV(ニュー・エネルギー・ビークル)政策の実行により、EV化が急速に進んでいる。このNEVの基準を満たすEVを早期に発売することによりEV市場のシェアを確保したい狙いがある。同社は昨年から中国市場で日産、トヨタをも上回る勢いで大幅に販売台数を伸ばしており、大きな収益源にもなっていることから中国市場重視の姿勢を打ち出している。ホンダはFCVの燃料電池基幹部品の生産では米国の大手GMと提携しているが、EVについては独自路線を維持している。

加速する世界のEV化

 中国以外の世界の主要市場では、米国は先進的な環境政策を進めているカリフルニア州が自動車メーカーに対して販売台数の一定割合をEVなどの排気ガスゼロ車(ZEV)とするよう義務付けたZEV規制を実施、今後、規制を強化しようとしている。ZEVにはトヨタが得意とするハイブリッド車は含まれないため、日本メーカーは今後EVを増産せざるを得なくなる。この規制は全米に広がる可能性があり、EV対応を急がないと米国市場でのシェアを失うことになる。

 また欧州では英国とフランスが7月に、2040年に石油を燃料としたガソリン車とディーゼル車の販売を禁止すると発表、この流れはドイツなどほかの欧州諸国も追随する可能性が指摘されており、自動車業界に衝撃を与えた。欧州の自動車メーカーではスウェーデンのボルボが、19年でガソリン車の生産を中止し、すべてをEV、HVにすると表明、メーカーも率先して対応しようとしている。

あわせて読みたい

「自動車」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    新旧首相が会食 超豪華4ショット

    笹川陽平

  2. 2

    ナチス賛美する高須氏は医師失格

    清 義明

  3. 3

    上原不倫NG 松本人志フジに苦言

    渡邉裕二

  4. 4

    死ぬまでSEX 現代高齢者の性事情

    PRESIDENT Online

  5. 5

    インスタで増加 脱ぐ女性の動機

    NEWSポストセブン

  6. 6

    慰安婦問題 失敗だった謝罪姿勢

    一般社団法人日本戦略研究フォーラム

  7. 7

    慰安婦と軍艦島 韓国若者の本音

    NEWSポストセブン

  8. 8

    ハイボールがNYで大ブームの予感

    ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)

  9. 9

    尾木ママ いじめは逃げるが勝ち

    文春オンライン

  10. 10

    大ヒットネトウヨ本の粗末な中身

    PRESIDENT Online

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。