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7年目の再出発でも晴れない南相馬市「精神科病院長」の「苦悩」と「怒り」 - 寺島英弥

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開業が間近な「新地クリニック」と渡辺さん(7月20日、筆者撮影、以下同)

「福島原発事故は、この母なる故郷を永遠に奪い去った」

 南相馬市小高区の精神科病院長・渡辺瑞也さん(74)は、避難生活中の5年間をかけて、東京電力福島第1原子力発電所事故の実態究明を訴えた著書『核惨事!』(2月刊行、批評社)の前文にこう記した。小高区は原発から20キロ圏内。昨年7月に避難指示は解除されたが、大半の住民は戻らず、104床の病院再開は不可能だった。がんと闘病しながら再起を模索し、8月21日、北に三十数キロ離れた福島県新地町に小規模な診療所を開設する予定だ。そこで被災地の心のケアを目指す。だが、幕引きされようとする原発事故への怒りは癒えていない。

「東日本大震災」の名を改めよ

「東日本大震災という名称は改められるべきである」という見出しが、『核惨事!』の冒頭にある。「後代において、東日本大震災とは平成23年に起きた東北地方太平洋沖地震による津波被害を中心とした震災である、として語り継がれることはあるかも知れないが、これによって引き起こされた世界にも先例のない3基もの原発の連続炉心溶解貫徹(メルトスルー)事故のことは抜け落ちてしまいはしないかと危惧するのである」

 渡辺さんは、「原発事故被災者/被害者」の1人として、災害の名称はそのような理由から不完全であり、新たに「東日本大震災・原発事故複合大災害」に改めてほしいと訴える。時とともに津波被災地では町々の再建や農林水産業などの「復興」が進むが、原発事故被災地では、廃炉作業さえ40年と世代をまたぐ。放射性物質との未曽有の闘いが終わりなく続き、その脅威や影響は目に見えない。その中で、渡辺さん自身が不安に感じていることがある。

 渡辺さんが院長であり、運営法人の理事長だった小高赤坂病院 は、2011年3月11日からの原発事故で、すべての入院患者を安全に避難させなければならない状況になった。渡辺さんの決断で、比較的若くて動ける患者38人は、副院長が引率して福島市内の5病院に転院させることができた。渡辺さんは14日午後7時ごろ、残る患者66人を大型バス7台に乗せ、いわき市の高校体育館の避難所を経て、受け入れ先の東京の病院に送り届けた。

 渡辺さんが感じた不安とは、「原発から18キロの職場に72時間余り居続けた」ことの健康への影響だ。事故翌年の2012年ごろから歯がぐらついて計5本が抜けた。2014年には原因不明の不整脈が現れた。「2015年11月に結腸がんが見つかった。ポリープ由来でないデノボ型で、一時は真剣にこの世との別れを考えたこともあった」。ステージⅡと分かり、手術と抗がん剤の治療で改善できたという。しかし、自身の発症から3カ月後、今度は奥さんの不整脈が危険な状態と診断され、心臓ペースメーカーの埋め込み手術を受けた。奥さんは原発事故が起きてから飯舘村経由で福島市へと、2週間避難したという。

幅広い被ばく影響調査を

 初期被爆がどの程度の量でどんな健康被害が現れるかが分からない。それが不安の要因だった。それまで夫婦とも病気などしなかったのに、同じ4~5年の時間を経て、相次ぎ被ばくの影響が出たのではないか、という疑いをぬぐいきれない。「身近な患者さんらからも、くも膜下出血で亡くなる人がいるなど、にわかな異変を聞いている」。


原発事故以後、休業状態の小高赤坂病院

 これらは医師としての経験からの疑問だが、筆者も取材現場で出会った人たちの周囲で、「原発事故がなければ、もっと長生きしたのに」という思いがけぬ不幸を耳にしてきた。それを原発事故、避難生活のストレスというだけで済ませていいのか、釈然としなかった。

 福島県は18歳以下の県民を対象に継続的な甲状腺検査を行っている。しかし、「これまでUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)が唯一原発事故との因果関連の可能性を認めてきた小児甲状腺がんと白血病だけでなく、それ以外の、例えば心臓血管系や脳血管系の疾患、さらには悪性リンパ腫や固形がんの発症や死亡例が、既に東日本全域で増加している可能性が高く」(『核惨事!』より)、もっと幅広い健康調査を、と渡辺さんは訴える。「原発事故と健康障害の因果関係が科学的に検証されれば、治療や救済のための政策を立てなくてはならない。『原発症』という新しい概念の設定も必要だ。政府は避難解除で幕引きを急ぐが、健康への影響もなかったことにされてしまう」。

 2012 年に国会では、「原発事故子ども・被災者支援法」が超党派で成立した。長期にわたる健康被害防止や被災者支援が盛り込まれたが、「その後はほとんど新規の施策は打ち出されず、それどころか理念を裏切るような支援打ち切りが次々と続いている」と、渡辺さんは指摘する。政府、東電の加害責任を棚上げした「補償」や、年限を切った「特措法的対応」でなく、世界に例のない原発事故と被災者の被害と不安に向き合う恒久的救済策を、 「東京電力福島第1原子力発電所過酷事故対策基本法」として実現させるよう提案する。

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