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私の読書ノート(1)

J.D.ヴァンス著(関根光宏・山田文訳)『ヒルビリー・エレジー』(光文社、2017年)

        *       *        *

 若い頃から、私は、国際政治を学ぶ者としてナチズムなど全体主義の研究に携わってきた。イギリスのEUからの離脱、アメリカでのトランプ大統領の出現、そして昨今の日本の大衆社会状況などを見ていると、1930年代の暗い時代が再来するのではないかとの危機感を持つ。

 トランプ現象の背景には何があるのか。それを明確にすることは、一知識人としての義務であると考え、自分のアメリカ体験も踏まえて研究を進めている。その一部は私のブログ、「キリスト教のアメリカ」というシリーズでお伝えしているが、背景には繁栄に取り残された白人労働者の群れがある。この問題に触れ、最近アメリカでベストセラーになったのがJ.D. Vanceの『Hillbilly Elegy:A Memoir of a Family and Culture in Crisis(ヒルビリー・エレジー:アメリカの繁栄から取り残された白人たち)』という本だ。

 ケンタッキー州・オハイオ州のアパラチア山脈地方、ラストベルト(錆び付いた工業地帯)で育ちながら、イェール大学のロースクールを卒業してアメリカンドリームを体現した著者(現在32歳)が、それまでの過酷な家庭環境や衰退するコミュニティについて記した回顧録である。「ヒルビリー」というのは田舎者の蔑称であり、「レッドネック(首筋が赤く日焼けした白人労働者)」とも「ホワイトトラッシュ(白いゴミ)」とも呼ばれるが、ヴァンスの故郷の人々がそうである。実は、彼らこそが「Make America Great Again(アメリカを再び偉大にしよう)」と訴えるトランプ候補を熱烈に支持し、大統領の座に押し上げたのである。

 アメリカンドリームとは、親の世代より経済的に成功し、社会の階級を上昇していくことをいうが、労働者階級の白人はその夢を持つことが出来ない状況であり、「白人の労働者階層は、ほかのどんな集団よりも悲観的だった」(305p)。そして、「アメリカのあらゆる民族集団のなかで、唯一、白人労働者階層の平均寿命だけが下がっている」(235p)という。

 1970年代以降、グローバル化に伴う国際競争力の低下によって、アメリカの製造業は衰退していった。1950年代のアメリカの繁栄は過去のものとなり、大量の白人労働者が解雇され、家族や地域コミュニティが崩壊し、ドラッグが蔓延した。そのような地方の白人労働者にとって、「アメリカファースト」を声高に叫び、「メキシコとの国境に壁を築く、不法移民を締め出す、雇用を創出する」と約束するトランプは救世主のように見えたであろう。

 それは、東部のエスタブリッシュメントやホワイトカラーが理解しなかった点であり、既存のマスメディアも見通しを誤ったのである。本書を読むと、ラストベルトがどのような状況にあるのか、その過酷な現状がトランプ現象の背景にあることがよく分かる。

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