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虐待「発生」の瞬間を語ることができるか

■人間が社会を営む時、いつも発生する

僕は、不登校やひきこもりの保護者面談のなかで、時々「児童虐待の被害者」の親と出会う。つまり、不登校の子を抱える親自身が「虐待サバイバー」というパターンだ。

下流階層でより貧困層になればなるほど、多くは自然体で怒鳴り、子をたたく。だが、不登校の子ども当事者からみて祖父母たちの世代は、中流だろうが下流だろうがどなったり身体的暴力をふるったりしている。

児童虐待には、ネグレクト(育児放棄/経済的虐待も含む)・心理的虐待(言葉の暴力)・身体的虐待・性的虐待の4種類があることはよく知られている。

そして、児童相談所や警察などに持ちこまれる案件の当事者たち(保護者たち)は、これら4種類の児童虐待についてそれが「虐待」だと意識しないことがある。

その背景には、この新聞連載記事にあるように「虐待の連鎖」があるのだが(対処わからず暴力… 親を変えるには(児相の現場から))、虐待という事象から徹底的に遠い人々にとっては「連鎖」等といわれてもわからないと思う。

絶対悪である殺人や戦争が人間社会からなくならないように、児童虐待も社会にあり続けている。それは殺人と同じく、誰がどうみても「悪いこと」であるが、人間社会の否定的定義のひとつでもある。

そう、人間が社会を営む時、いつも発生するのがこの児童虐待という現象だ。

■暴力当事者にとって暴力対象者は決して「完ぺきな他者」ではない

これは倫理的基準ではどうやらストップできない。その虐待の瞬間、虐待を行なう側、ネグレクトや言葉の暴力も含めた行為を行なう側、つまりは大人サイドが自らの行為をそれほど「悪いこと」とは思えないからだ。

あるいは「悪いこと」と思いつつ、その虐待的行為に及んでいる場合もあるかもしれない。

が、「善悪の基準」を超える衝動的瞬間がそこにはある。どなったりたたいたりする瞬間、あるいはいじわるしたり無視したりする瞬間、あるいは極端な場合は性行為に及ぶ瞬間、大人たちは自らの行為を絶対悪としては認識できない。

あるいは絶対悪と認識しながらも、それを上回る衝動に突き動かされている。

そうした、それぞれの倫理基準を上回る衝動とはどういうものなのだろうか。

それはおそらく暴力を振るう当事者(虐待する親)の衝動だけを分析するのでは不十分で、暴力者が暴力対象者(虐待であれば子ども)をどう位置づけているかという点も関係すると思われる。

暴力当事者にとって暴力対象者は決して「完ぺきな他者」ではないような気が僕はしている。虐待親から見た子どもは完ぺきな他者ではなく、どこかで許してくれる存在、あるいは「自分」の一部、あるいは「自分のもの」的所有物の要素がどこかで含まれていると僕はみている。

だから、どなってもたたいても、その対象者は多少傷つくだろうが、どこかで許してくれると甘えている。

暴力を振るう側は、その対象者と未分化であり、対象者を完ぺきな他者だとは位置づけていない。自分が所有するモノだと対象者を捉えているから、その対象者に対しては何を行なっても許されると感じている。

■哲学のレベル

虐待発生の「瞬間」は、以下のようなシステムとなっているのではないか。

1.それを「虐待」という悪だとは、行為者は意識していない。いわゆる「連鎖」のなかで育った行為者は、怒鳴ろうがたたこうがそれを「しつけ」だと認識している。

だから、そこに「悪」という倫理基準は挟まれない(性的虐待はさらにねじれていると思われるが今回は深入りしない)。

2.怒鳴ったりたたいたりする瞬間、多少の罪悪感があるかもしれないものの、それを超える何かがある。1.と被るが、その瞬間は「善悪の基準」は挟まれず、おそらく達成感や快感等、ある種の感情に虐待行為者は包まれている。

3.それは暴力の分析ともつながる。暴力は、決して怒りだけが源泉ではない。ある種の感情的爆発と身体の連なりがセットになった行為で、「人間の定義」の一部だとも言える。

4.そう考えると、現代社会が明確にもつようになったポリティカル・コレクトネスの世界観と、児童虐待の根底に横たわるヒトの衝動は相容れない。

「暴力は悪い」という近代的価値/ポリコレは誰でも言えるが、暴力を善悪の彼岸だと無意識に捉える人々を説得できない。近代的断罪では(児童虐待はダメな行ないである)決して虐待はなくならない。

5.だが、児童虐待の被害者は圧倒的弱者である。我々がコミットするのは、この圧倒的弱者、あるいは潜在的弱者(性的虐待はその象徴)にある人々(子どもたち)だろう。

以上、「虐待の発生」の謎は、まさに哲学のレベルまで降りる。★

※Yahoo!ニュースからの転載

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