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定年後の「帰宅恐怖症」、図書館がその手のおっさんだらけに

【「帰りたくない」男性が続出】

「職場」という居場所がなくなる定年後の人生では「家庭」の占めるウエイトが一気に増す。ところが、その我が家へ帰ることに二の足を踏む男性が増えている──その「病」の正体とは。

〈午前中になるべく予定を入れて、“妻が起きる前に出かけよう”と考えている〉〈妻から“もうすぐ帰る”という連絡があると、ついため息が出る〉──そんな人は、すでに「帰宅恐怖症」かもしれない。そう警鐘を鳴らすのは6月に出版された話題書『帰宅恐怖症』(文春新書)の著者で、夫婦問題カウンセラーの小林美智子氏だ。

「妻に何度も怒られるけど、その原因が分からないという男性の相談が増えています。彼らは少しずつ妻と話さなくなり、“妻が怖い”と思うようになる。そして、なるべく家にいないで済む方法を考え始める。それが『帰宅恐怖症』です」

 小林氏の著書では現役世代の事例が数多く取り上げられるが、同氏は年齢を重ねたほうが、“病”は深刻になると指摘する。

「夫が帰宅恐怖症であることに、女性はほとんど気付かない。むしろ、夫が何も言い返さないと言動を年々エスカレートさせる。男性の恐怖心は長い年月の間に少しずつ蓄積され、家に帰りたくない気持ちは強くなります。そうなると夫婦関係の改善がさらに困難になってしまうのです」

 その病が“発症”するきっかけの一つが「定年」だ。

◆逃げ場は「図書館」

 家族問題評論家の宮本まき子氏はこういう。

「定年後に帰宅恐怖症になりやすいのが、それまで家庭を妻に任せていたタイプです。家で妻と過ごす時間が長くなり、自分の思っていた家庭や妻のイメージと現実の違いに気付く。そのショックで家の居心地が悪くなるのです」

 都内在住の60代男性Aさんは、その典型例だ。定年退職したAさんに対し、良妻賢母タイプの専業主婦だった妻が突然、「これからは自立してもらいます」と言い出した。上司のような態度で家事指導を始め、「公民館の『男の料理教室』に行きなさい」としつこく迫る。トイレが汚れていれば掃除を命じられ、風呂に毛が一本でも落ちていようものなら罵倒される。

「最近は空き家になった実家の点検という口実で、郷里に戻っては長期滞在を繰り返しています」(Aさん)

 お茶の水女子大学名誉教授の土屋賢二氏(72)も、帰宅恐怖症の“経験者”だ。

「大学で教鞭を執っていた頃、妻の責めるような視線が気になって仕事後に安い喫茶店で1杯のコーヒーで夜遅くまで粘り、本を読んでから帰っていました」

 土屋氏は2010年にお茶の水女子大を定年退職。

「それでも働いているうちはまだいい。残業したり寄り道したりと家に帰らない口実は簡単に作れます。定年後はお金もないから図書館くらいしか行く場所がない。公園で子供たちの姿を眺めていたりすると、不審者扱いされますからね(苦笑)。いまや図書館はそういうおっさんばかりです」

 前出・小林氏は「妻を怖がる男性の場合、家計を妻に握られていることが多い。暇つぶしのパチンコにも行けません」と語る。

◆もう一度働こう

 土屋氏がいうように、定年後の帰宅恐怖症に職場という“避難先”はない。

「友人宅に遊びに行く予定をなんとか詰め込もうと、あちこちに連絡を取り続けています」と話すのは元会社員の60代男性。

「退職して知ったが、妻が昼に酒を飲み荒れている。独立した子供は“仕事ばかりだった父さんの責任”といって助けてくれない」

 定年によって、それまで気づかなかった家庭内の問題に直面した事例だ。

 元会社役員の70代男性Cさんは同い年の妻が軽度の認知症とわかり、家に帰る気持ちを失った。

「親族から“伴侶なら一生面倒をみるべき”といわれたが、どんどん自分の知っている妻ではなくなっていく。ヘルパーさんに任せられるレベルだから、昼から外をブラブラしています」

 病の克服は容易ではないが前出の宮本氏はこうアドバイスする。

「帰宅が怖くなるのは、“定年後は家にいるべき”という固定観念も一因。アルバイトを始めるなど、社会と接点を持って居場所を探すと、夫婦関係も改善することが多い。実は夫が家にいることが、妻のストレスである側面もあるのです」

 妻と会う時間を削るために仕事を探す──寂しい対症療法に思えるが、前出・土屋氏も同意する。

「定年後の夫婦円満の秘訣はなるべく接触しないこと。私は家でテレビを見る時も、ヘッドホンをつけて妻の邪魔にならないようにしています。尊敬できる相手でも、ずっと一緒にいると粗が目に付いてくるものです」

 その諦念が一番の特効薬か。

※週刊ポスト2017年8月11日号

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