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「生活保護の不正受給」は減らせるのか

(弁護士 板倉 陽一郎 構成=須藤 輝)

■「偽装離婚」の摘発は依然として難しい

厚生労働省は2015年3月、2013年度の生活保護費の不正受給が4万3230件、総額186億9033万円だったと発表しました。金額は前年度より約3.6億円減ですが、件数は過去最悪を更新しました。生活保護は制度上、住民登録がなくても居住実態さえあれば申請が行えます。このため自治体間で受給実態の情報が共有されておらず、不正受給の原因の一つともなっていました。



マイナンバー法の施行で、自治体(都道府県知事等)は生活保護の受給実態をマイナンバーで管理できるようになりました。情報提供ネットワークシステムを用いた適切な情報連携が行われれば「複数の自治体から重複して受給する」といった手口の不正はできなくなります。

ただし、生活保護を受給するうえで、マイナンバーは必ずしも必要ではありません。厚労省は2015年9月、都道府県等に向けて「生活保護事務におけるマイナンバー導入に関する留意事項について」という通達を出しています。要点は以下の通りです。

(1)保護申請書を受理する際には、所定の欄にマイナンバーを記載するよう申請者に求めること。
(2)マイナンバーの提供は保護の要件ではないが、申請者がマイナンバーを提供しない場合は、住基ネットを介してマイナンバーを入手できる。
(3)住民登録のない者はマイナンバーが付番されないため、福祉事務所が住民票作成に必要な支援を行う。

そもそも生活保護の主な対象者には、ホームレスなど住民登録のない社会的弱者が含まれるはずですが、通達では「住民票作成」を支援するように指示しており、生活保護行政の行き詰まりが透けて見えます。

またマイナンバーは個人単位の不正受給抑止には効果がありそうですが、世帯単位での効果は未知数です。生活保護が世帯単位で認定されるのに対し、マイナンバーは個人に割り当てられる番号だからです。書面上は離婚して世帯を分け、形式的に母子家庭とする「偽装離婚」のような手口を防ぐのは難しいでしょう。

離婚の成立には「形式的意思説」といって双方に離婚の意思さえあればいいため、離婚後も同居しながら「でも家計は別々です」と主張することは適法であり、可能です。不正を見抜くためには、元夫と元妻のお金のやりとりを調べる必要があります。これも銀行口座と紐付くようになり、かつ福祉事務所の調査にマイナンバーが用いられれば、調査がやりやすくなるかもしれませんが、幾つかのハードルがあります。

このようにマイナンバーの適用である程度不正受給の抑止が進むとみられますが、本来は適切な保護の拡大にも制度を活用するべきでしょう。

マイナンバー制度の導入をめぐる議論は、民主党政権下の2011年に始まったものです。当時の議論のポイントは「給付付き税額控除」でした。これは課税所得が一定以上の人には税額控除を行い、課税所得が少ない低所得者には現金を給付するという仕組みです。

日本の社会保障制度は「申請主義」で、申請しなければ保障を受けられません。しかし社会的弱者の多くは、様々な制度の存在すら知らないのが現状です。マイナンバーで所得や資産が把握できるようになれば、「生活に不安はありませんか」と申請を呼びかけることもできます。

政府は「不正受給の抑止」をアピールしていますが、それは統治側の論理。付番される側のメリットを示さなければ、マイナンバー制度への信頼は得られず、個人番号カードの利用も広がらないでしょう。

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