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ネットが暴いた記者クラブメディア暴言事件の顛末-【田中龍作】

9月10日経産省で開かれた、鉢呂大臣の辞任会見。大臣に説明を迫る記者の言葉遣い・態度が悪く、大きな波紋を呼んだ。後日、その記者は上司と共に鉢呂氏の所へ謝罪に行ったそうだが、現場でその記者を注意したジャーナリストの田中龍作氏に、事の顛末と記者クラブ問題について、ご寄稿いただいた。

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A記者「あなたねえ、国務大臣をお辞めになる理由くらいちゃんと説明しなさい」。

鉢呂氏「私も記者さんとの非公式の懇談でございまして、一つ一つに定かな記憶がありませんので」。

A記者「定かな記憶がないのに辞めるんですか?定かな記憶があるから辞めるんでしょ。きちんと説明しなさい。最後くらい」。

鉢呂氏「私は国民の皆さん、福島県の皆さんに不信の念を抱かせた…」。

A記者「何を言って不信を抱かせたか、説明しろって言ってんだよ」

「死の街」「放射能…」発言で経産相の職を辞することになった鉢呂吉雄氏の辞任会見で、大手メディアのA記者はヤクザまがいの口調で迫った。社名も氏名も名乗らない。挙手さえしないままで、だ。

あまりの酷さに同業のこちらまで恥ずかしくなった。脊髄反射するかのように考える間もなく筆者は言葉を発した。「そんなヤクザ言葉はやめなさいよ。敬意を持って質問して下さい。記者なんだから」。

「うるせえな」、A記者は悪びれもしなかった。だが記者証はシャツの中に隠した。姑息という他ない。

会見後、あるフリーランスから私にクレームが寄せられた。「A記者に対する田中さんの叱責が記者クラブのプライドを傷つけたようだ。近くクラブ総会が開かれ田中さんのことが議題になる可能性がある。総会の結果、『フリーは出禁』ということになったら困るんだ」。

エネルギー問題など経産省ネタを専門に取材執筆する、そのフリーランスはさも迷惑そうに語った。「A記者叱責事件」がフリーランス全体に波及することを彼は恐れていた。

ところが会見の一部始終がインターネットでライブ中継されていた。会見を見ていた視聴者の反響は驚くほど大きかった。「暴言記者」への抗議はネット上だけで収まらず、彼が所属する会社にまで電話をかける視聴者も少なくなかった。

ネットで顔が割れているため記者証を隠しても、身元が判明するのだ。筆者のもとにも「A記者」の具体的なデータが送られてきた。入社年、支局経歴、東京本社に上がってからの担当記者クラブなどだ。過去に担当したクラブで起こしたトラブルまでが書かれている。ご丁寧に「ガン首写真」(顔だけのアップ写真)までが添えられていた。

読者が抗議の電話をかけたことは、社にとってプレッシャーだったようだ。A記者は鉢呂前大臣の事務所に謝罪に行かざるを得なくなったのである。

もしインターネット中継がなかったら逆の展開になっていただろう。筆者はじめフリーランスは出禁となり、A記者はクラブ内で批判されることさえなかったはずだ。

強きを助け弱きをくじく大マスコミ



記者クラブの力をかさに社名・氏名を名乗らずに、前大臣にヤクザ言葉を浴びせる。ノンキャリ役人など人とも思っていないかのような口のきき方をする。

ところが相手が強大だとうって変わって下手に出る。これも大手メディア記者の特徴だ。福島第一原発の事故で東京電力の記者会見には多数の記者が詰めかけ、乱暴な言葉で質問を繰り返していた。ところが3月28日を境に社名と氏名を名乗らなくてはならなくなった。

その途端、別人のように記者たちの言葉が丁寧になった。東電を問い詰めるような質問さえ出なくなった。特に民放記者はおしなべて借りてきた猫に変身した。巨額の広告費を頂く東電の機嫌を損ねることは重罪に値するからだ。

記者クラブが国民の知る権利を守るために権力と戦っている、などと夢にも思ってはならない。強者には揉み手ですり寄り、弱い立場の者、弱った相手はリンチも同然に叩く。これが記者クラブである。

警察記者クラブ詰の記者は自社の同僚や上司の「交通違反のもみ消し」に、建設省(現・国土交通省)クラブ詰は「公団住宅への入居」に、大蔵省(現財務省)詰は「国有地の払い下げ」に奔走するのである。

見返りに役所の都合のいいように記事を書く。「TPP推進」「増税」「原発再稼働」…枚挙に暇がない。

社の利益に沿った記事や社説が、あたかも「世論」であるかのように報道されているのが現実だ。残念ながら国民の多くはそれに気づいていない。

「原発をゼロにする」と方針を示していた鉢呂経産相は、記者クラブとのオフレコ懇が命とりになった。経産大臣は「言葉狩り」と「捏造の疑いさえある問題発言」で辞任に追い込まれた。

氏名、社名も名乗らずにヤクザ言葉を国務大臣に浴びせる人物が幅をきかす記者クラブ。そんな組織が政治家の出処進退を左右する国は遠からず滅びる。(田中龍作)

■問題の箇所


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「説明しろって言ってんだよ!」「君はどこの記者だ!」鉢呂氏の辞任会見が大荒れに - BLOGOS編集部
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