記事

尊厳死か延命治療か。英国で難病の赤ちゃんをめぐり論争に

1/2

7月28日、生後11か月の赤ん坊チャーリー・ガードちゃんがロンドンで息を引き取った。先天性の難病を持ち、生命維持装置をつけていたチャーリーちゃんに尊厳死を勧める病院側と国外での治療継続を求める両親との間で法廷闘争が発生し、世界中の注目の的となった。

最終的に子供の命の行方を決めるのは親なのか、それとも病院や法律による裁定であるべきなのか?また、どこまで延命治療が行われるべきか?さまざまな論点を残しながら、赤ん坊はこの世を去った。

そもそも、何故両親は病院を訴える道を選んだのだろうか?

10%の可能性にかけてイギリス国外へ

チャーリーちゃんが生まれたのは昨年4月。「完全に健康な男児」と言われた。父クリス・ガードさんと母コニー・イエーツさんは大喜びだった。ちなみに、英国では結婚せずに夫婦として暮らし、子供を産み育てるケースは珍しくなく、この両親もそうした形を取っていたようだ。

数か月後、両親は同年齢のほかの赤ん坊と比べて、チャーリーちゃんの首のすわりがおかしいことに気づいた。医療機関で調べてもらったところ、「ミトコンドリアDNA枯渇症候群」という難病であることが判明した。チャーリーちゃんは昏睡状態となり、呼吸が浅くなった。

10月、チャーリーちゃんは先端的な治療を施すことで知られる、名門グレート・オーモンド・ストリート小児病院に入院し、治療を受けることになった。病気の子供を持つ親にとっては、最高峰の1つとなる病院に面倒を見てもらえることになったので、幸運とさえ言えたかもしれない。

しかし、実情は両親にとって非常に厳しいものになった。

病院側は生命維持装置を付けてベッドに横たわるチャーリーちゃんの脳の損傷が回復不能として、装置をはずすこと、つまり尊厳死を両親に勧めたからだ。

両親はこれを承服することができなかった。例えどれほど望みが薄くても、生かしておきたいと思うのは家族であれば当然の思いだっただろう。

米コロンビア大学の平野道雄教授による治療法があることを知った両親は、チャーリーちゃんを米国に連れて行って、治療してもらうことを願った。この治療法はまだヒトを対象に行われた実績がなく、チャーリーちゃんの病状が好転する見込みも10%ほどと言われていたが、両親はその10%に賭けた。

今年1月になって、父クリスさんと母コニーさんは息子が米国に行って治療を受けられるよう、渡航費と治療費をねん出するため、クラウドファンディングで募金を集めるサイトを作った。7月までに、約130万ポンド(約1億9000万円)が集まることになる。

病院側は渡航を阻止すべく法廷闘争へ

両親がチャーリーちゃんの海外渡航に向けて資金集めを進める中、3月上旬、病院側は高等法院に訴えて渡航を阻止する動きに出た。チャーリーちゃんの生命維持装置を外す許可を求めた。

4月、高等法院はこれを支持する判決を出す。前例のない治療法はチャーリーちゃんにさらに苦痛をもたらす可能性があり、尊厳死を認めるべきとしたのである。チャーリーちゃんを国外に出すことも禁じてしまった。

希望を消されそうになった両親は高等裁判所の3人の判事に対し再考を求めたが、この訴えは却下された。

6月上旬、最高裁も下級裁判所の判断を支持し、両親は欧州人権裁判所に駆け込む。しかし、結果は満足のいくものではなかった。裁判官はこの案件への関与を拒否したからだ。

これ以上、法的に訴える先がなくなってしまった両親。

ここにきて、病院側と両親は若干の歩み寄りを見せた。病院側は生命維持装置を外すまでに若干の余裕を持たせるとし、両親は「最後のさよならを言うためのプライベートな時間を持ちたい」と発言した。

世界の著名人が両親への支持を表明

7月に入り、一日でもチャーリーちゃんが長く生き延びることを願う両親を支援する声が世界中で大きくなった。

ローマ法王やトランプ米大統領が両親に同情の声を寄せたのである。法王はこの一件を「愛情と悲しみ」でフォローしており、両親が「最後までチャーリーちゃんに付き添い、治療を受ける」ように、と呼びかけた。

国内外の支持の声を受けて、両親は高等法院に再度の審査を願い出る。7月10日、高等法院の判事は新たな証拠があれば、それを審査すると述べて、希望が広がった。

ここから事態は急スピードに展開する。

17日には米国から平野教授が訪英。グレート・オーモンド・ストリート小児病院の医師らと会い、チャーリーちゃんの今後を話し合った。

24日、両親の弁護士は治療についての法廷闘争を止めると発表。チャーリーちゃんを救うには「時間が尽きた」(弁護士)という。期待していた新治療だったが、前週撮影されたMRI写真から、チャーリーちゃんの筋力が回復不可能なほど低下していることが明らかになったからだ。 

いよいよ、チャーリーちゃんの死を受け入れなければならない時がやってきた。

そして、両親は病院側と最後のバトルに突入する。

母のコニーさんは、チャーリーちゃんの最後の日々を自宅で過ごさせたいとして裁判所に許可を求めた。病院側は、チャーリーちゃんは延命装置など特別な医療体制を必要としており、こうした体制にない場合、不必要な苦しみをチャーリーちゃんに与える、と主張した。裁判所の判断は、「病院にい続けるか、(終末期ケアを行う)ホスピスに行くか」の2つの選択肢を提示した

どのホスピスにするかでも、両親と病院側は再び対立した。

27日、チャーリーちゃんはロンドン市内のあるホスピスに移動。裁判所の判決では、ホスピス到着から間もなくして、生命維持装置が外されることになっていた。

自宅で最期を看取りたいという両親の願いはかなわなかった。「グレート・オーモンド・ストリート小児病院は私たちの最後の望みを否定した」とコニーさんは述べている。

28日、両親の代理人がチャーリーちゃんは亡くなったと発表した。

あわせて読みたい

「尊厳死」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    韓国の都合に合わせるのはやめよ

    深谷隆司

  2. 2

    未だにコンビニ現金払いはバカ?

    Hayato Ikeda

  3. 3

    安倍首相 広島長崎で手抜き挨拶

    NEWSポストセブン

  4. 4

    読売1面「首相3選望まず」の衝撃

    NEWSポストセブン

  5. 5

    戦争を招くウーマン村本の価値観

    自由人

  6. 6

    高校野球「無気力」采配の真相

    NEWSポストセブン

  7. 7

    小池氏に半生を狂わされた人たち

    文春オンライン

  8. 8

    高齢者が支配する老人ホーム日本

    ヒロ

  9. 9

    常識に縛られると思考は停止する

    ニャート

  10. 10

    「原爆の日」に感じた違和感

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。