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ルポ・生きづらさを感じる人々4 両親の喧嘩中に聞いた言葉から見捨てられ不安に “父親”に甘えたいと育ち直し ~沙織の場合~

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政府は新たに「自殺総合対策大綱」を閣議決定した。2026年までに人口10万人あたりの自殺者数(自殺死亡率)を30%以上減らし、他の先進国並の数値に近づける目標とした掲げた。若者の自殺については、過労自殺を防ぐために長時間労働を是正を図るとしている。ただし、虐待以外で、家族関係に要因があった場合はなかなか具体的な方針を示しにくいにも実情だ。

両親が喧嘩中に発した「子どもがいるから別れられない」という言葉を聞いた沙織(24、仮名)は、このときから見捨てられる不安が高まっていく。不安が増すと、うつ状態になったり、自殺願望が高まったりする。はけ口として、自傷行為をしたり、夜遊びを繰り返す。そんな中で日常とのバランスを保っている。現在は恋人を“理想の父親”と見立て、「育ち直し」をしている。

夫婦喧嘩のなかで発せられた一言から見捨てられ不安に

撮影:渋井哲也

「自分なんかいなければいい」

沙織が最初にそう感じたのは3歳の頃だったという。両親の夫婦喧嘩が原因だった。喧嘩の理由はなんだったのか。

「母親のお金の使い方だと思います。もともと母親は家事をしない。料理らしい料理は出てこない。洗濯物がたためない。家の中は散らかり放題でした。でも、買い物ばかりしているんです。今から考えれば、母親は発達障害の傾向があったのかもしれないです」

直接、沙織が何かを言われたわけではない、喧嘩を見たことによるトラウマでもない。幼い沙織には、理由はともかく、夫婦喧嘩の中で、両親が「子どもがいるから別れられない」と言っていたのを記憶している。そのために、自分がいなければいいと思った。

家族内での居心地はよくなく、見捨てられ不安が強くなった。そうした感覚は、沙織自身の恋愛がうまくいかないときにこそ影響し、死にたい感情が強まっていく。沙織の見捨てられ不安は家族、もしくは家族に近い関係性の人との間柄で生まれることがほとんどだ。そのため、小学校時代のいじめではそうした感覚を抱かなかった。

「友人に重きを置かないないのでしょう。小学校時代のいじめでは、“なにくそ!”と思ったくらいで、深刻にはならなかったんです。気がつくと、友だちとの距離ができていましたが、“寂しい”とは思いませんでした。すでに距離の取り方ができていたのかもしれません」

家族よりも遠い存在の友人からのいじめでは、見捨てられ不安を感じるほどの距離感ではなかったということなのだろう。

死を意識してリストカットを始める

死にたいー。沙織が自殺を強く意識するようになったのは中1の終わり。この頃、自傷行為をするようになった。近所のドラックストアで100円で購入したカッターが一番切れ味が良かったのを覚えている。なぜ手首を切るということで、死を意識することになったのか。

「後から考えれば、手首を切ることと、自殺は違うことはわかります。でも、当時は同じと思っていました。ただ、死にたいとは思うのですが、明確な自殺の手段ではありませんでしたね」

中学時代といった思春期には、こうしたリストカットなどの自傷行為は、周囲に影響を与えることがある。もしかすると、誰かが切っていて、それに影響された可能性はないのだろうか。

「当時は、手首を切っている子はいっぱいいましたよ。私が影響された方ではなく、させた側かもしれません。実際、『沙織が切っていたから切るようになった』と言われたことがあります」

沙織はリストカットをすることで死を意識したものの、そのうち、「リストカットでは死ねない」と思うようになり、目的も変わっていく。

「父と喧嘩をし、怒られた次の日に切ったりしていました。そのまま登校していたんです。深くは切っていませんでした。死ぬことよりも、その時の辛さを緩和することが目的になっていきました。父親に甘えたかったんです」

父への違和感と母親への感情

父親に甘えたいのなら、素直な感情を父親にぶつけるという手段もあるだろう。しかし、実際には父親を他人のように感じている。その意味では、理想化された父親像というものが別にあるのだろう。

父親への違和感は、夫婦喧嘩を見ていたせいもある。母親への感情はどうなのだろうか。母親は精神科に通院し、カウンセリングを受けていることがこの頃わかっている。

「母親はネグレクトだとわかっています。そのため、私自身も育ちきれていないのです。病院に行くまでは、父親だけが悪いと思っていました。病院で母親の話をしていると、母親の発達障害傾向や私に対する影響に気がつきました」

沙織が精神科に行くまでは、父親の無理解による喧嘩ではないかと思っていたようだ。成長していけば、周囲の事情も見えてくるので、感覚も変わる。ちなみに、沙織は中学からリストカットを始めたが痛みの耐性があるようで、切っても手首に痛みを感じない。

「毎日のように切っていました。切ってないところを探さないといけないくらいでした。理由は、(家族関係からくる)慢性的なストレスです。それに、恋愛がうまくいかないこと。毎日が辛かったんです。整理もできないし、糸口がない」

リストカットをしている人を取材していると、痛みに対する感覚がその人によって違うことがわかる。沙織のように、痛みを感じない人は、意識が乖離していることもある。

「血が止まらないくらい切ったことがありますが、痛くはない。骨折直後は痛くないのと同じかもしれません。乖離していたのかもしれない」

この頃の、沙織のストレス発散の方法は、SNSの「モバゲータウン」で日記を書いたり、質問広場で悩みを書き込むことだった。似たような書き込みを探したりもしていた。共感やつながりを求めていた。

高校生になっても両親の喧嘩は止まない。沙織は両親の目の前でリストカットをしたこともある。喧嘩を止めるためだろう。両親の喧嘩が激しいとき、子どもはある役割をする。仲裁役だ。沙織は、問題行動を両親に見せることで、喧嘩の仲裁をしたことになる。

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