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タイ自動車産業が構造不況に 日系メーカー苦境

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以前より交通マナーが格段に改善したバンコク市内(出所: 2017年6月 筆者撮影)

遠藤功治(株式会社SBI証券)

【まとめ】

タイ、高齢化と人口減少が加速、自動車市場は縮小傾向に。

・頼みの綱の外需である中近東や他のアジア諸国、日本への逆輸入なども期待薄。

・タイの日系自動車メーカーの工場稼働率7割を切り、今後リストラ必至。

1 はじめに

6月下旬にタイを訪れた。現地自動車市場の現状につき、日系自動車・部品各社、自動車関連のマスコミ等を取材した。タイは従来から日本車が圧倒的な存在感を示し、日本各社にとっても永らく収益の柱であった。日本企業の間では、タイ市場に寄せる期待値はなお非常に高いものと思われる。

しかし今回筆者が現地で得た感触は、この期待値とは真逆のものであった。結論から言えば、タイの自動車業界は、既に構造不況業種の仲間入りとなり、かつてASEAN最大の市場として日本各社の収益を支えたこの国は、今後は各社の足を引っ張りかねない存在にならないとも限らない、ということである。少なくとも、“高い成長率と利益率の両立”というかつてあった状況は、既に過去の話になったということである。

2 加速する高齢化

実はタイは“ミニ・ジャパン”とも言える高齢化社会であり、足元6,500万人の人口は今年から来年にピークをつけ、アジアの中では最も早く、人口は減少に向かうのである。

出生率は日本並みで、国民の平均年齢は既に38歳なのである。これは日本の45歳に比べればなお若いが、インドやインドネシアが20代前半であることを考えると、既に相当高い水準である。 

2012年から2013年にタイ政府が実施した、“First car buyer incentive program(初めて車を買う人に政府から補助金が支払われた制度、但し5年間は買い換えてはいけないとの条件付)”から5年が経過、今年から自動車の代替需要の出現が期待されたのだが、現実には殆ど顕在化していない。

それどころか、販社末端ではバナナの叩き売りのような新車の乱売合戦が起きており、国内の自動車市場が回復する気配は無い。これは足元だけの状況ではなく、目の前に迫った人口減少時代を考えると、中長期的には市場の縮小局面に突入しつつあると考えられる。

3 期待薄の外需と過剰な設備

内需が駄目なら外需でということで、タイは従来からピックアップトラックの生産基地として輸出を頼みとしてきた。その状況に大きな変化はなく、今年の内需が80万台程度と、ピークの半分強であるのに対し、輸出は120万台程度と予想されていた。(図1)

しかし、その輸出先の最大の仕向け地先である中近東の需要が冷え切っており、当面は弱含みでの推移となる模様。原油価格の動向次第とも言えるが、輸出台数の伸びが内需での低迷をオフセットして、各社の工場稼働率が高まるなどという期待感は、全くの雲散霧消と化した。

実際、タイの工業連盟自動車部会は先日、2017年の輸出予想台数を、従来の120万台から108万台程度に下方修正、生産台数予想も従来の200万台から190万台に下方修正した。2012年ー2013年のバブル期に、各社は大幅な生産設備の増強に走り、現在のタイの自動車生産能力は合計で約300万台とも言われる。下方修正された今期の生産台数190万台は、単純計算では工場稼働率は63%であり、この水準で利益を出すのは不可能である。

図1: タイの新車販売・輸出・生産台数 推移

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(出所: マークラインズ)

勿論、この設備能力の大半は日本勢である。内需の減少と輸出の伸び悩みが当面続くと考えれば、どこかの段階で大幅な生産能力削減を実施しないと、未来永劫、タイでは利益が出ないという状況にもなりかねない。

新しい輸出先の開拓などと、なお呑気な期待感を抱かせる向きもあるが、現実問題として、タイの自動車販社の大半は赤字、自動車会社は工場稼働率を最優先させ、販社のバックヤードには新車在庫の山、定価の20%引きでの販売は当たり前だがそれでも車は売れない、、、。多大に日本の状況とその様子が被るのである。

4 足元の新車販売はバナナの叩き売り状態

タイの新車販売、及び輸出・生産台数は、1990年代から2010年ごろにかけては、多少の上下はあるものの、それぞれがゆっくりと成長していった。そこに2012年、タイ政府が補助金を出すことを決めたのである。

それまでタイはアジアのデトロイトとも言われ、特に日本車を中心として日本・中国を除けば、アジア最大の自動車の生産台数を誇っていた。裾野の広い自動車産業が発達することで、自動車部品や化学・機械・電機など、関連産業も拡大していった。

タイ政府はこれを更に後押しする形で、内需の振興を進め国内自動車販売台数の大幅な上積みを狙うため、初めて車を買う世帯に対し、補助金を渡して自動車の購入を推奨したのである。(写真1)

写真1: タイで販売トップのトヨタのIMV(Innovative International Multipurpose Vehicle)といわれるピックアップトラック

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(出所: 2017年6月 筆者撮影)

タイ国内での小型乗用車の平均価格は約150-200万円。これに対し、1台当たり30-50万円程度の補助金を出したのである。これを受けてタイの国内自動車販売台数は大幅に増加、それまで年間70-80万台水準であった新車販売台数は、2012年・2013年に140-150万台まで急上昇した。但しこの補助金には制限がついており、“5年間は車を買い替えてはいけない”、というものであった。

反対からいえば、2012年に5年足せば2017年、つまり、2017年からは、“First car buyer”たちの車の買い替え需要が出始めるのではないか、との期待感につながる訳である。

2012-2013年のバブル期以後、タイは政治が混乱、2011年には軍によるクーデターで軍事政権が誕生、ストや暴動が相次ぎ景気もまた低迷した。自動車販売は2014年以降、バブル前の年間80万台水準に逆戻り、つまりピークであった140-150万台に比べ、ほぼ半減の水準にまで落ち込み、それが昨年・今年と依然として続いているのである。

5 景気は好調なのに車が売れないわけ

これに輪を掛けたのが元国王の死去とその後の消費自粛と言われる。ただ筆者が現地で感じた肌感覚では、タイの景気はしっかりとしている。特にバンコク市内を中心に景気は上向きであり、高層マンションの建設ラッシュが続く。失業率は2%台と非常に低く、工事現場は海外からの出稼ぎ労働者で溢れかえる。(写真2)

写真2: 新しい高層アパート・ホテルが建つバンコク市内

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(出所: 2017年6月 筆者撮影)

筆者はバンコク市内のデパートや日本食レストランにも足を運んだが、昼・夕食時ともなればどこも満席、300バーツ以上はする日系のラーメン(1,000円+)を求め、地元住人で長蛇の列が出来ている。デパートも人で溢れ帰り、決して消費を自粛している印象はない。ただ、車のような誰にでもわかる大物の購入には、元国王の葬儀(今年10月)までは、自粛する意識もまだあるようだ。

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