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弱者男性問題について考える

 ここ数年来、ネットでよく目にするのが「キモくてカネのないおっさん」にまつわる問題である*1

 ぼくなりに解釈すれば、「女性であること」や「外国籍であること」にまつわる問題はマスメディアやネットでもさかんに論じられる一方、外見や所得、性的パートナーの面で困難を抱える男性の問題は無視されてきたという意識に起因しているのではないかと思う。

 この問題についてはすでに様々な人が意見を述べていて、たとえば男性だという点ですでに社会的には強者なのだから、「男性であること」に起因する問題など存在しないという立場もありうる。

 ただ、ぼくはそういう立場はとらない。以下のエントリでは、性的パートナーの問題は措いて*2、とりあえず「社会問題」の提起という観点から、弱者男性の問題について考えてみたい。

「社会問題」の提起における弱者男性問題

 このブログで何度も指摘してきた通り、社会問題や事件などにおいて、世間の同情を集めやすいタイプの人と、そうでないタイプの人が存在する。前回のエントリでも紹介した通り、「理想的な被害者」、つまり同情を集めやすい人の条件は以下のものが挙げられている。

(1)被害者が脆弱であること
(2)被害者が尊敬に値する行いをしていること
(3)被害者が非難されるような場所にいなかったこと
(4)加害者が大柄で邪悪であること
(5)被害者が加害者とは知り合いでないこと
(6)被害者が自らの苦境を広く知らせる力をもつこと

 上の条件(1)を重視するならば、男性は基本的に「理想的な被害者」とは見なされづらいということになるかもしれない。

 同じような被害に遭っていたとしても、若くて見た目の麗しい女性が被害者であった場合と、体格のがっしりした中年男性が被害者であった場合、前者のほうが同情を集めやすいことは想像に難くない。後者の場合であれば世間的には無視されるようなケースであっても、前者の場合には広く注目を集め、重大な社会問題として広く周知されるという可能性すら考えられる。

 ただし、だからといって女性がつねに「理想的な被害者」と見なされるということには決してならない。それどころか、世間的な「あるべき女性像」から逸脱していると見なされた場合には、被害者であっても熾烈なバッシングが加えられることすらありうる。この点においては「あるべき女性像」からの逸脱は、「あるべき男性像」からの逸脱よりも遥かに重いペナルティを課せられるのが現状ではないだろうか。

社会問題の提起から「同情」を切り離せるか

 話を戻せば、ここでの根本的な問題は、「社会問題の提起が、特定個人への同情の喚起を通じて行われている」ことに起因しているように思う。犯罪被害であれ、貧困問題であれ、メディアは通常、特定の個人を取り上げることで、人びとの関心を集めようとする。

 その理由としては、統計データなどを使って抽象的なかたちで社会問題を提起したとしても、人びとがなかなか関心を持ってくれないということがある。「群衆を目にしても、わたしは決して助けようとしません。それが一人であれば、わたしは助けようとします」というマザー・テレサの言葉に示されるように、特定個人の苦しみを目にしたときに人間の援助行動は喚起される傾向にあるのだ。

 そして、より広く同情を喚起しようと考えるなら、その「特定個人」として多くの同情を集めやすいタイプの人が選ばれるのもやむをえないのかもしれない。だが、そのことが同情を集めづらいタイプの人(たとえば「キモくてカネのないおっさん」)を疎外してしまうのであれば、やはり問題ではないかと思う。

 となると、ここでの解決策は、「社会問題の提起および解決が『特定個人への同情』に依存しない形で行なわれるようになる」ではないかと思う。特定の個人が抱える問題としてではなく、社会的に広く共有されている問題として最初から認識されるようにするということである。

 ただ、これが結構な難問なのであるが…

参考文献

児玉聡(2012)『功利主義入門』ちくま新書。
クリスティーエ、ニルス(2004)齋藤哲訳「理想的な被害者」(『東北学院大学論集 法律学』63号、pp.274-256)。
Meyers, M. (1996) News Coverage of Violence against Women, Sage.

*1:この言葉は非常にステレオタイプ的であって、できれば使いたくないのだが、ネットでの言論状況と対応させるために使用することにしたい

*2:これが非常な難問ではあるのだが、いまはちょっと手に負えない

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