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自衛隊取材の環境はなぜ激変したかー杉山隆男『兵士に聞け 最終章』を読む

「あしたフライトがないときは、とりあえず、あしたは死ぬことはないな、と思います」ー27歳のパイロットは、こう言ってフライトがない前日は思いっきり吞むという。「もし自分たちが乗った飛行機に何かあったら、十人の部下の家族を一軒一軒たずねて、機長の妻として頭を下げてくれ」ーP3C機長の夫は、結婚にあたり妻への最初の頼みとして、こう言った。「任務の特性上、必ず帰ってこられるという保証はどこにもありません」ーそれでもよろしければ結婚させてください、といきなり最悪の話から切り出した。

何れも、杉山隆男『兵士に聞け 最終章』にある。この本を読みつつ、私は姫路の第三特科連隊(当時)付近での懇談会の場でのある母親の発言を思い出した。それは、ほぼ30年前のこと。自衛隊がPKO任務を初めて帯びてカンボジアに派遣されるというニュースで持ち切りのとき。「そんな危ないことをさせるために自衛隊に息子を入れたのではなかったのに」という慨嘆の声であった

▼こうした自衛隊員をとりまくありのままの姿は知られているようでいて、意外に知られていない。私は20年間の国会議員時代の大半を安全保障委員会に所属していたので、それなりに分かっているつもりだが、それでも表面上だけで、隊員の生活ぶりなどは全くと言っていいほど知らない。兵庫県なら伊丹市に方面の拠点があるし、宮崎の新田原航空基地や、沖縄の那覇基地など全国各地の自衛隊基地を訪れたり、米軍基地も僅かながら訪問した経験も持つ。

しかし、所詮は上っ面だ。であるがゆえに、自衛隊員の日常を描いた本には興味を持って追いかけてきたつもりだ。この本には冒頭に挙げたようなものから、災害派遣の現場で、低体温症や高山病で戦列をやむなく離脱する若い隊員の赤裸々な姿まで”様々な真実”があぶり出されて興味深い

▼杉山隆男『兵士シリーズ』はこれで7冊目。取材を始めてから足かけ24年になるという。最初の頃から読んできたが、自衛隊をめぐる問題の貴重な情報源だといえた。題名からもわかるように、今回で最後の作品になるというが、残念なことだ。なぜ今回で終わりになるのか。著者はあとがきで「取材環境が激変したこと」を一番の理由に挙げている。

今までは隊員と一対一で話を聞くことができたのに、今回は、「自衛隊の広報が絶えず立ち合い、私が歩くところには必ずお目付け役のようにして基地の幹部がついて回った」というように、一変したというのである。このため個別のインタビューなどもできにくくなった、と。このあたり実際はどうなのか。自衛隊の側の言い分もあろうし、単に杉山氏がもう自衛隊を追いかけるのに疲れたのだけかも知れない

▼それよりも、気になるのは日米同盟の名のもとに、自衛隊の中でアメリカの存在がさらに大きくなっていくことへの危惧を述べているくだりだ。「神は細部に宿り給う」という最後の章で「まわりに漂う匂い」の一片として、「3・11」の一か月後のトモダチ作戦の日米間の連絡調整の場で偶々同席した時のことを挙げている。場所は仙台だが、およそ日本ではないような空間であったことに強い違和感を感じた、と。作家・開高健がベトナム戦争のさなかに、「本質はしばしばそのまわりに漂う匂いの中に姿をあらわしている」として、様々な「細部」を書きとどめていったひそみに倣って、杉山氏が追い続けてきたことが明かされる。

杉山氏は、日本における米軍の存在がこの24年間でいやまして大きくなってきていることを痛切に感じていると述べる。かつて「自衛隊は日本人にとって、鏡の中のもう一人の自分」と書いたが、あと何年かすると、「鏡をのぞいたら、見たこともない他人が見つめていることになるのかもしれない」と結んでいて、思わせぶりだ。

南スーダンにおける日報をめぐる稲田防衛相、黒江事務次官らの一連の対応は文字通り目を覆うばかりだった。ようやく退任を決断したが、もはや遅すぎる。自衛隊の最前線と最高幹部との大いなるズレこそがすべての元凶と思われる。杉山氏の懸念も正鵠を射ているように思われてならない。

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