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トランプの支持率を支える「フェイク効果」 - 海野素央 (明治大学教授、心理学博士)

 今回のテーマは「フェイク効果」です。ドナルド・トランプ米大統領が就任してから半年が経過しました。その間、トランプ大統領はメディアに対して「フェイク(偽)ニュース」というレッテル貼りを行い、支持層を固めてきました。その結果、同大統領の支持率は半年が経った時点で史上最低と言われていますが、30%後半から40%前半を保ち「安定」しています。一定の「フェイク効果」が出ているのです。本稿では、同大統領のフェイク効果とメディア対策を分析します。

メディア不信を活用するトランプ

 2017年7月21日に米世論調査会社ラスムセンが発表したトランプ大統領の支持率は43%でした。翌日22日のギャラップ社の世論調査では、38%になっています。2016年米大統領選挙におけるトランプ陣営とロシア政府の共謀疑惑に関する連日の報道にもかかわらず、各社の世論調査をみますと同大統領の支持率は40%前後です。その主たる原因には、同大統領のメディア攻撃を通じた支持層固めが成功を収めていることがあります。

 独ハンブルグで開催された20カ国・地域(G20)首脳会議の最中に、「フェイクメディアは私のことを決して正確に報道しないだろう。気にしないけど」とツイッターに投稿しました。支持者にメディアの不正確さを常に意識させる戦略をとっているのです。トランプ大統領は、外遊先でもメディア攻撃の手を緩めることを決してしないのです。

 米ワシントン・ポスト紙及びABCニュースの共同世論調査(2017年7月10日―同月13日実施)によりますと、31%がロシア政府は2016年米大統領選挙の結果に影響を及ぼしていないと回答しています。共和党支持者に至っては55%にも上っています。トランプ大統領はメディアがフェイクであると信じている共和党支持者のみとコミュニケーションをとっています。それが支持率の「安定」に結びついているのです。

 米公共ラジオ(NPR)、公共放送(PBS)及び世論調査機関マリストの共同世論調査(2017年6月21日―同月25日実施)もみてみましょう。米国内における地域別のメディア不信は西部が72%で最も高く、続いて中西部の69%の順になっています。年収別では5万ドル(約560万円)以下のメディア不信は71%です。特に、高卒以下の白人男性がメディアに不信感を抱いています。

 さらに同調査をみますと、白人のキリスト教右派のメディア不信は82%を占めています。キリスト教右派の指導者でテレビ伝道師のパット・ロバートソン氏は、7月12日放送の米保守系宗教チャネル「クリスチャン・ブロードキャスティング・ネットワーク(CBN)」でトランプ大統領に単独インタビューを行いました。その中で、ロバートソン氏は、同大統領がフェイクと位置づけている米ワシントン・ポスト紙及びニューヨーク・タイムズ紙を非難しています。2016年米大統領選挙で、キリスト教右派の83%がトランプ大統領に投票しています。明らかにテレビ伝道師の発言は、同大統領のフェイク効果を高める一助になっています。

「共謀」と「妨害」の打消し

 2017年6月8日に上院情報特別委員会で開催されたジェームズ・コミー元連邦捜査局(FBI)長官の議会証言後、米メディアは連日トランプ陣営のロシアとの共謀及びトランプ大統領の司法妨害に焦点を当てた報道をしています。それに対して同大統領は「共謀(collusion)」並びに「妨害(obstruction)」を躍起になって打ち消す内容をツイッターに投稿をしているのです。

 例えば、2016年米大統領選挙における民主党候補指名争いで、ヒラリー・クリントン元国務長官は民主党本部と「共謀」してバーニー・サンダース上院議員(無所属・バーモント州)を破ったとトランプ大統領は書き込んでいます(図表1)。共謀の本家本元は、トランプ陣営ではなくクリントン陣営だと言いたいのです。


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 さらに、トランプ大統領はロシア政府との共謀疑惑を高めないように動作に注意を払っています。G20で初会談となったウラジーミル・プーチン露大統領との握手です。トランプ大統領は自ら手を差出し握手を求めましたが、握手をすると素早く手を放しています。数十秒にも及ぶプーチン大統領との握手は、親密さをアピールし米国民に共謀を連想させてしまうからです。当然ですが、疑惑の目が向けられている中でハグは最も危険な動作になります。

 上で紹介しましたクリスチャン・ブロードキャスティング・ネットワークの中で、トランプ大統領はプーチン大統領に言及し、「彼(プーチン氏)は強い米軍を求めた自分ではなく、ヒラリーのホワイトハウス入りを望んでいたはずだ」と述べています。その狙いは、プーチン大統領に対して一定の距離を開けて、キリスト教右派に同大統領と共謀していないというメッセージを発信することです。

本当の「妨害者」は上院民主党

 共謀に加えてトランプ大統領は、ロシアとの共謀疑惑を巡るFBIの捜査に対して司法妨害をしたというイメージを打ち消そうと、オバマ前政権及び民主党を標的にしています。以下で例を挙げてみましょう(図表2)。


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 第1に、トランプ大統領はオバマ前政権のロレッタ・リンチ司法長官のある発言を批判しています。クリントン元国務長官の私的メール問題の捜査についての発言です。上院情報特別委員会の公聴会でコミーFBI長官(当時)は、リンチ氏が「捜査」ではなく「案件」と呼ぶように要求したと証言をしたのです。同氏はFBIが捜査していた私的メール問題の重要度のランクを下げようとしたのでしょう。トランプ大統領はこのリンチ氏の発言を取り上げ、司法妨害をしたのは同氏だと主張しています。

 第2に、トランプ大統領は司法妨害の疑いに関する話題をすり替えるために、ツイッターを駆使して上院民主党こそが妨害者であると訴えています。バラク・オバマ前大統領の医療保険制度改革法(通称オバマケア)の廃案及び代替法案の成立を「妨害」しているのは上院民主党だと投稿しています。同大統領のこの主張は正確ではありません。代替法案に関して上院共和党内の保守派と中道派の間に亀裂が生じたために、同法案の成立を断念せざるを得なかったのです。

 第3に、G20から帰国すると政治任用が遅れている原因も上院民主党の「妨害」にした投稿をツイッターにしています。トランプ大統領によれば、指名した197名の内上院で承認されたのは48名です。同大統領は、高官人事の遅れを利用してここでも上院民主党が妨害者であるという意識を支持者に植えつけようとしているのです。

フェイク効果が低下する日は来るのか?

 トランプ大統領は、環太平洋経済連携協定(TPP)及び地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を発表しました。ところが、同大統領はメキシコとの国境の壁建設、オバマ前大統領のオバマケア廃止並びに代替法案の成立といった最大公約を果たしていません。一方、外交・安全保障においては、中国が本気で北朝鮮に対して最大限の圧力をかけておらず、核・ミサイル開発の問題解決の糸口は一向に見えません。

 このような状況でトランプ大統領は、メディアを益々敵視しフェイク効果を最大限に発揮することに時間とエネルギーを注いでいます。フェイク効果はいつまで続くのでしょうか。

 鍵を握るのは、ロバート・モラー特別検察官の捜査結果及びそれに対する支持者の反応です。仮にモラー特別検察官がトランプ陣営とロシア政府との共謀に関する確たる証拠をつかんだ場合、支持者がどのようにそれを捉えるのかです。証拠までもフェイクとみなすのか、それとも事実と受け止めるのかです。彼らの認識が「メディアはフェイクである」から「トランプこそがフェイクであった」に変われば、間違いなくフェイク効果は低下します。その時、トランプ大統領は最大の試練を迎えるでしょう。

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