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タイの不思議料理“爆発ナマズ”はビールに合う!――高野秀行のヘンな食べもの - 高野 秀行


イラスト 小幡彩貴

 魚料理とサラダの中間であるタイの不思議な料理、名付けて「爆発ナマズ」の続き。

 いよいよ謎の調理法を人気シェフのタムさんに見せていただく。

 まず、ベトナム食材店から買ってきたというナマズを俎板(まないた)に載せて三枚に下ろす。ナマズは滑るので、俎板の上に濡らしたキッチンペーパーを置くのがミソ。上下の肉の部分を味つけせずに素揚げする。次に、残りの頭、骨、尾の部分を醤油とマギー(タイでよく使われるウスターソースっぽい調味料)で味つけし、同じように鍋で揚げる。

 先に肉の部分を鍋から引き上げる。それを俎板に載せると、まるで二丁拳銃のように左右の手に包丁を持ち、のりのりのドラマーのように叩きまくって微塵にしてしまう。フライの魚を微塵というのがすでに面白い。さらに鉢で丁寧に搗(つ)き、ほとんどペースト状にしてからパン粉と混ぜる。

 鍋でしっかり揚げていた頭、骨、尾を引き上げると、次がクライマックス。煮えたぎった鍋の油をお玉ですくってナマズペーストのボウルに入れてかき混ぜるのだ。ボウルの中ではジュワジュワとペーストが油で泡立っている。そのまま、今度こそ鍋にぶち込む。すると、高熱のペーストと鍋の油が激しくぶつかり、ドバーッと爆発! 鍋に花火が開いたかのよう。

 本当に爆発させていたのか! 道理であんなにサクサクして細かいフライ状になるわけだ。いや、私の頭悪そうなネーミング、実はドンピシャだったとは。

 十秒もしないうちに引き上げ、油を素早く丁寧に落とす。彼のやり方では天かす風ではなく、かき揚げ状になっている。

 タムさんによれば、本場タイでは、まず魚を炭火で焼いてから、それを微塵にして油で爆発させるのだが、日本では炭火焼きが難しいため、彼が独自にこの「二度揚げ」の方法を考案したという。

 今度はタレを作る。タイ語では「ヤム・マムアン」(マンゴーの和え物)。

 そうか、あのあんかけ、マンゴーを使っているのか。道理でタイ風なわけだ。

 青いマンゴーとニンジンを細切りにし、タマネギを薄くスライス。これらの野菜をボウルにあけ、小さい干しエビ、唐辛子粉、レモン、ナンプラー、シロップ、味の素と混ぜる。出来上がったら、サニーレタスを敷いた深皿に流し込む。

 さて、頭と骨、尾の部分を皿に載せ、ちょうど元々身があったところにナマズのかき揚げを置く。元の鞘に収めるわけだが、かき揚げがデカすぎて鞘には到底収まらず、上にドカンと鎮座する感じ。

 これで完成。これだけ凝っていて所要時間たった十分。大した技倆だ。


タイ料理界のスターシェフ、タムさんが作ってくれた「爆発ナマズ」

 私たちも厨房から出て、一般客に戻っていただく。かき揚げ的なナマズ肉の上にマンゴーあんかけをたらし、スプーンでザクッとすくい、口にバクッと放り込む。

 サクサクとした白身魚のかき揚げが甘酸っぱい青いマンゴーの香りとともに口の中で溶けていく。油を多用しているのにそう感じさせないのは、高温の油でシャキッと揚げているのと、青いマンゴーの爽やかさゆえだろう。

 この料理のもう一つの楽しみは、頭、骨、尾の「その他部分」。しっかり揚がっているので、スナックのようにカリカリと食べられる。特に骨の部分が香ばしいこと。

 この「爆発ナマズ」ほどビールに合う料理はそうそうないように思われる。世界のどこに出しても恥ずかしくない堂々たる逸品だ。

 本連載で誰にでもお勧めできる食べ物をとりあげることは稀。なんだかグルメ作家になったような錯覚がして、それもちょっと嬉しかったのだった。

(高野 秀行)

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