記事

ヨーロッパ諸国が本格的にロボット技術の法整備に乗り出した今日本も早急に議論を進めていく必要に迫られてきている - 「賢人論。」第43回クロサカタツヤ氏(中編)

1/2

前編「介護ロボットを導入することは日本人のヒューマニティの問題。介護者がよりよく生きるために現場に光を当てていくべき」で介護ロボットの導入が介護業界の直近の課題であることを説いた、IT分野に詳しい経営コンサルタント・クロサカタツヤ氏。中編では、倫理や法哲学までを巻き込んだ“総合格闘技”としてのAI論議について、その現状を語ってもらった。

取材・文/佐藤 舜(編集部) 撮影/公家勇人

人工知能で病気の原因を見抜くことができる時代

みんなの介護 前編「介護ロボットを導入することは日本人のヒューマニティの問題。介護者がよりよく生きるために現場に光を当てていくべき」では、介護ロボットを導入することの緊急性とその課題についてお話していただきました。ロボットの技術は今後社会を大きく変えていきそうですね。

クロサカ 今まさに、ロボット技術が社会の中でどのように位置づけられるべきかということが世界中で議論されています。ですから「こうあるべきであろう」という明確な方向性が出てきている段階ではまだありません。

しかし、日本の合意が整うまで諸外国が待ってくれる、なんてことはあり得ない。ヨーロッパがロボット技術に対して何らかの規制の網をかけていく方向を打ち出し始めた今、我々日本はどうしていくべきなのか。その辺をちゃんと議論しておくべきじゃないのか。

私が参加している総務省「AIネットワーク社会推進会議」をはじめ、経済産業省、また民間団体の「ロボット革命推進協議会」、「人工知能学会」などで、ロボットが社会でどのように位置づけられていくのかということが盛んに話し合われています。

みんなの介護 その議論は、どのくらいの現実味を持って進んでいるのでしょうか?数年先の話なのか、ずっと何十年も後のことを見据えているのか…。

クロサカ 議論の中身によりますね。例えば「人工知能」と一口に括ってしまうのは、ブラウン管も液晶も全部ひっくるめて「テレビ」と言ってしまうくらい、ざっくりとした総称です。人工知能研究者はすでに「人工知能」という言葉を嫌いつつありますね(笑)。

一方で、技術を知らない一般の立場からすれば、「あれもこれも人工知能」と認識するのは、避けられないわけです。そしてその観点から考えれば、もうすでに私たちの生活の中に入っている人工知能技術もあるし、まだあと実現まで10年かかるとみられているもの、さらに言えばニーズが顕在化するまで20年かかるものなどさまざまあります。

いろんな技術要素が絡んでいる中で、どれを捉えるのか?または、その機能が提供する便益のどれについて考えるのか?それによって計画の時間尺は変わってくるわけです。

みんなの介護 医療の現場ではすでに人工知能の導入が進んでいるらしいですね。

クロサカ 例えば、新薬の開発は成果を出すまでに何十万回、何百万回と試験を繰り返さなければいけないもので、人間がやるには気が遠くなる作業です。そういうものに関しては人工知能が役立ちます。なおかつ、どうやったら100万回試験しなければいけないところを10万回に減らせるのか、どうやったら成果が出る確率が高くなるのかという推論を行うのも、人工知能(特に機械学習)の得意分野なんですよ。

また、東京大学医科学研究所がIBMの「ワトソン」という自然言語処理システムに、過去の研究成果や症例を学習させたところ、病因を突き止められるようになったということも報告されています。

みんなの介護 技術はそこまで進歩しているんですね!

人工知能の普及には、倫理的な課題が大きなネック

クロサカ ただ、そんなに多くの病院に人工知能が実装されているわけではまだありません。技術の問題ではなく、ビジネスとして成立させていくための道筋がまだ立っていないんです。もうひとつ、そもそも人工知能が出した「判断」を医師が信用して「診断」に用いるという行為ひとつとっても、倫理や法律はもちろん、様々な課題があります。

現在は最後には人間の医師が責任を負うわけですが、人工知能の判断支援が普及すれば、医師は自らの力だけで診断する能力を失うかもしれない。しかし、人工知能の方が解析能力に優れているのであれば、そもそも人間が介在する方が事故を起こしやすくなるかもしれない。

みんなの介護 仮に人工知能が原因で事故が起こってしまった場合、誰が責任を問われるのか?など、結論を出すのが難しそうな問題ですね。

クロサカ 既存の技術論や法律論だけでは整理しきれません。それもあって、「AIネットワーク化戦略会議」には法哲学を始めとした人文科学系の専門家も参加しています。日本はそういった倫理的・哲学的な議論を非常に不得意にしてきました。数学や哲学と聞くと、我々日本人はつい現実と切り離された世界だと思い込みがちで、ずっとこれを棚上げしてきたんです。ところが、テクノロジーの発展によってこれらが差し迫った問題として突きつけられることになってきた。

みんなの介護 数学まで必要になってくるんですか。

クロサカ グーグルの「テンサーフロー」は線形代数のテンソル積が名前の由来のはずですし、人工知能自体は数学の固まりのようなものですね。そしてその構造の理解を試みないと、議題に上がっている「人工知能」というのがどんな特徴を持ち、どんな振る舞いをするのか把握できないです。

私にしても完璧に把握できているわけではないですが、少なくとも人工知能と社会の関係を考えるには、その仕組みをなんとなくでも理解できるくらいの知識は必要なのだと思います。“総合格闘技”的に様々な知識が要求されるというところが人工知能を語ることの難しいところです。

みんなの介護 身近なところで言えば、自動運転の自動車が開発されているというお話も耳にします。完全に人間が操作しない自動車だなんて怖ろしいような気がしますが…。

クロサカ 最初は確かに怖いかもしれませんが、慣れていくんじゃないかなと思いますね。そもそも「人間が運転するなら安全だ」という前提さえ、本当に正しいのでしょうか?そこで想定されているのはあくまでも“健康で運転経験が豊富”な人間ですよね。風邪で高熱があるペーパードライバーの車になんてとても乗りたくないでしょう。

同じ「人間」といっても、様々な幅があり、そのぶん安全性にもムラがある。となると、むしろ優秀なロボットに任せた方がよっぽど安心かもしれない、という考え方もありうるわけです。

あわせて読みたい

「人工知能」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    日本人がアメフト問題に腹立つ訳

    永江一石

  2. 2

    ローソンは行列生むレジ改善せよ

    内藤忍

  3. 3

    橋下徹氏が日大問題で学生へ謝罪

    橋下徹

  4. 4

    空気読めない時代遅れの日大広報

    渡邉裕二

  5. 5

    米朝会談中止は習近平氏が影響か

    MAG2 NEWS

  6. 6

    眞子さま見せた紀子さま拒絶の姿

    NEWSポストセブン

  7. 7

    森友交渉記録に昭恵氏関与の形跡

    森ゆうこ

  8. 8

    米朝首脳会談決裂で困るのは日本

    天木直人

  9. 9

    日大に致命傷与えた稚拙な広報

    早川忠孝

  10. 10

    元横浜市長が新聞の首相動静解説

    中田宏

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。